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February 14, 2008

高原問題~「問題」の不在

「高原問題」が巷を賑わせている。

岡田日本代表が現在臨んでいる東アジア選手権に、高原と浦和が辞退を申し出、「特例」として認められた。対してパンパシフィック選手権に臨むガンバ大阪は、配慮を望んでいたが聞きいれられず、5人を招集されてしまった。これは不公平である、という問題だ。ガンバの佐野泉社長や、横浜FMの桑原監督も、問題視したという報道がされている。

これに対し、缶詰にしんさんが「結局、声が大きい方の意見が通るのか」と「高原問題」について少し。というエントリーで書かれ、サポティスタで「(声の大きい方の意見が通るのは)ある意味、とてもわかりやすいし正しいことでもあると思う」と取り上げられたことで、主にサポティスタのコメント欄で、活発な意見交換が巻き起こったのだ。

缶詰にしんさんは、その後この流れを受けて「浦和を巨人にしちゃダメだ」というエントリーを書かれている。にしんさんの趣旨は、

まとめると、この切り取り方では私は

「声が大きい方の意見が通るのは不公平だ」

と主張し、サポティスタさんの側がそれに対して

「でもそれは不公平なことなのか」
「ある意味、とても分かりやすいし正しいことでもあると思う。」


というアンチテーゼを展開するという形になっている。
これは(浦和サポ的に)非常にぶっちゃけた「開き直り」なので
コメント欄が非常に楽しいことになっている。賛否両論だ。

ただ、ちょっと注意して私の文章を読みなおしてほしい。

私は別に「声が大きい方の意見が通るのは悪い」とは一言も書いてない。

(中略)要するに

「声が大きい方の意見が通りがちなのは仕方がない。

 でも、もっとうまくやれ。」と書いているのだ(どーん)

というあたりだろう。実は私は、この結論である「もっとうまくやれ」に関しては同感なのだが、それについてはちょっと置いておこう。というのは、サッカーダイジェスト2.26号(No.936)で、この問題に関して岡田監督から新たな談話が出たのだが、それが問題を根底から覆すようなものだったからだ。


コンディション不良による「落選」

岡田監督は

岡田監督: 高原に関しては一切そういう話ではなくて、今の高原のコンディション、この前のタイ戦を見ても、まだ全然戻っていなかった。この状態のまま中国へ連れて行って3試合やらせたら、たぶんケガをするだろうなと。そうすると出るのは1.5試合ぐらい。その間の練習といっても、中国の環境では大した練習もできない。そんなことだったらチームにとっても、彼にとっても良くない。浦和でコンディションを上げてもらったほうがいい。ただそれだけの話。浦和に頼まれたとか、高原が残りたいとか、新聞などではいろいろと言われているようだけど、そういうのはまったくない。

と、単に「コンディション不良の問題」としており、「声の大きな浦和に頼まれたから、特例として認めた」という意識はまったく無かったことを明言している。これまでのネット上でのいろいろな議論は、「浦和の主張を代表が聞き入れた」ということを前提としているものがほとんどだったため、このように岡田監督に言われると、その根拠を失ってしまうものが多いだろう。

実際、よく考えてみれば、「浦和が協会に対して大きな発言力を持っている」ということが真実であるかどうかは、信憑性にかけると思う。確かに集客力は凄く、ビジネスになりえるクラブではあるが、それでも全国区での人気やビジネス規模では、代表チームにはかなわない。また、浦和出身の犬飼氏がJリーグにいるが、それを言うならチェアマンはセレッソ出身であり、協会会長は古河出身であり、代表監督は古河-札幌-横浜FMでもある。「浦和の発言力のおかげで、代表監督が配慮した」可能性は、ずいぶん低いのではないか、と私には思える。

高原問題と抱き合わせで、坪井の代表引退が認められたことも「浦和に対する配慮」だと捉える意見もあるようだが、こちらはあくまでも「選手の意思」であって、かつての中澤(横浜FM)のそれと同じこと。坪井としては「もう代表に選ばれなくていい」という意思表明を、個人として行ったのであり、認められるか否かと、「浦和の力」は何の関係もないだろう。これからまた、「代表引退」を個人として決め、表明する選手が現れれば、どのクラブであるかに関係なく、認められるのではないかと思う。

そういう意味では、「コンディション不良だから高原を落とした」という岡田監督の発言には、一定の説得力がある。となると問題は「そんなコンディションの選手を、ここ3試合先発させたのか」ということになってくる。では、どうすることができただろうか。


タイ戦までの高原起用

岡田日本が招集したFWは高原、巻、大久保、前田、矢野、播戸、田代。田代以外はオシム監督の選出の流れをくむものだ。岡田日本代表が発足して間もないことを考えれば、この手法は論理的なものだろう。この中では大久保はタイプ的に高原の代わりは無理であろうし、巻はボスニア・ヘルツェゴビナ戦で怪我(タイ戦後に骨折と判明)、前田は風邪で出遅れと、「高原の代役候補」も、軒並み起用できない状態に陥っていた。矢野、播戸はオシム体制下でも先発したことは少なく、田代もこのチームに合流して間もない。タイ戦を彼らに賭けるのはリスキーに過ぎただろう。

そう考えると、コンディション不良でも高原を先発させざるを得なかったのは仕方がないことと思える。また、高原のコンディション不良は、所属クラブ(フランクフルト)で試合から離れていたことや、オフ中に契約のため日独を往復したことなどが最も大きな理由であろうから、チリ戦、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦に起用して「試合をして試合勘を取り戻す」ことを狙ったのも間違っていないと言える。

それでも、高原のコンディションが思うように上がらなかったために、タイ戦後に浦和に返した。いわばタイ戦での起用は「他にいないから」であったのであり、ここで返したのは前田が復調したことや、(半分親善試合のような)東アジア選手権では、田代や播戸、矢野を起用して、経験を積ませることが必要であるからでもある。そう考えると、このマネジメントはそれなりにロジカルなものであったと言うことができるだろう。

ただ問題なのは、「そう見えなかった」ことなのである。


監督とその周辺の説明不足

そもそも、クラブと代表は利害が相反するものだ。代表監督が代表チームを強くしようとすればするほど、彼は多くの時間を代表チームに割いて欲しいと願うはずだ。しかし、それはクラブにとってはプラスになることではない。実際、世界でもそういう揉め事は珍しくないし、ジーコ時代でも(Jクラブよりもはっきりものを言う)海外のクラブとの軋轢は日常茶飯事だったではないか。クラブは代表に選手を取られることに不平をいい、代表は時に強引に、時にクラブに配慮しつつ、選手を招集していくものなのだ。

この際に重要なのは、やはり「公平性」だろう。元から不平がたまりやすい、利害が相反する両者の間で、いわゆる「優遇」などがあるように見えれば、その不平不満は大きく高まることは、言うまでもないだろう。今回問題なのは、そんなものがないにもかかわらず、「優遇」があるように見せてしまった、代表監督とその周辺の「やり方のまずさ」なのである。そのために、Jクラブの一部関係者から不満が出てしまったのではないだろうか。

高原については、しっかりと「返す理由はコンディション不良です」と最初から明言、特筆大書するべきだったのだ。あえて「落選です」とまで言ってもよかったかもしれない。そうすれば、このような騒ぎにはならなかっただろう。もちろん、世間はその「落選」という言葉のキャッチー(笑)さに飛びつき、また別の一騒ぎがあっただろうが、それにしても「不公平」が見えるよりは良かったのではないか。いやさすがに岡田さんが「落選です」と言ってしまうのは、騒がせすぎか・・・。

本来ならば、返す選手のことに関して、「他のクラブに」説明する義理はあまりないかもしれない。しかし、ガンバ大阪がその最たる例だが、「選手を返して欲しい」という要望は他のクラブからも出ていたわけで、結果的に「高原と浦和の要望だけ聞いた」ように見えてしまう今回の措置については、他のクラブに対して説明があってしかるべきだっただろう。このような報道があったのだから、なおさらである。

東アジア選手権 高原ら移籍組免除へ(2008年1月26日)

リンク先の記事では「高原ら5人の移籍組について、新しい所属先での調整を優先したいクラブ側の意思を尊重する」とある。5人というと、高原(浦和)、水本(G大阪)、羽生(FC東京)、山岸(川崎)、駒野(磐田)の全員と言うことか。しかし、この記事が不可解なのは、どこにも岡田監督の直接の談話が出てこないことだ。本当に岡田監督に取材して書いたのか、関係者談話だけで書いたのではないか、疑われるところだ。

ただそれにしても、この記事をはじめ、ガンバが臨むパンパシフィック選手権もあり、リーグ前の合宿に選手が取られてしまっている状況について、各クラブが相当不満に思っているということを、岡田さんとその周辺はもっと理解しておくべきだった、ということは言えるだろう。


風通しの良いJリーグ-代表へ

ここまで見てきたように、今回騒がしくなったのは、「岡田監督がこのようなクラブの思いをよく理解し、誤解を買わないように(事前から)情報をコントロールするべきだった」という問題だといえる。したがって、岡田監督(とその周辺)が、「もっとうまくやれ」ばよかったのだ、と思う。とはいえ、とにかくタイ戦に勝つことだけに集中していただろう彼らを、責めるつもりは私にはあまりない。つぎからは「もっとうまくやればよい」と思うのみである。

ただ、この騒動を通じて、ガンバ大阪の社長や横浜FMの桑原監督が声を上げたのは、良いことだったのではないか、とも思うのだ。浦和の要望がどう、ということよりも、「不満があればクラブは声を上げる」ということはもっともっとあっていいと思うからだ。今回の問題に関しては「特例ではない」ということで収まるにしても、議論の深まった「代表か、クラブか」という問題は一過性のものではなく、今後に向けてしっかりと考えておくべきことだろう。

日本ではこれまで、特に集客力やメディアの注目が「代表>>>Jリーグ」であったために、Jクラブが声を上げにくい、代表に対して異論を唱えにくい、という環境があった。この辺はKINDさんがまとめておられる通りだろう。また、日本サッカー界全体を体育会系的な上下関係、親分子分関係が色濃く支配し、それによって代表選出が密室で決められている、というのもおおむね正しいと思われる。ところで、実はこの点も、私が日本人代表監督を歓迎したくない理由の一つだったのだ。

日本人監督であれば、各クラブに散らばる自分の先輩や後輩の意見を聞くことは可能だろう。いや、聞きたくなくても先輩が意見をねじ込んでくることもあるだろうと思う。これは完全に想像に過ぎないのだが(それでもその可能性はかなり高いと思っている)、2006年末のドーハ・アジア大会に反町監督が、「各クラブ2名以内」という「自主規制」をはめたようなチームを編成し臨んだのは、そういう「根回し」によるものだったのではないか、と私には思われるのだ。その理由は(私の知る限り)いまだに明らかにされていないのだが、このような「密室」性は、外国人監督であれば発生しにくいだろう。

日本人である岡田監督の就任時に一つ思ったのは、フル代表でもそのような「密室」性のある代表選考がなされるのではないか、というささやかな懸念だった。しかし、インタビューなどで垣間見える岡田監督の人柄を鑑みれば、杞憂の可能性が高いとも思っていた。実際、今回の件に関して言えば、岡田監督は「配慮が足りなかった」点はあるにしろ、「密室」性はむしろ薄く、またそれに対してJ各クラブも(裏ではなく)、表立って抗議の声を上げているように見える。

岡田監督がそうした点で「根回し下手」であるのなら、むしろ歓迎するべきことと思う。これを機会に、代表とJリーグの価値、そのプライオリティについて、徹底的に表に出して、オープンに議論していったらいいのではないか。そうして、これから先のコンセンサスを育んでいけばよいだろう。今回の(ちょっとした)騒動がその端緒になれば、災い転じて福となす、ということになるのだが・・・。

最後に、個人的な感想を言えば、高原の3試合起用はやむをえなかった、返すのも仕方ない、しかしパンパシフィック選手権に臨むガンバには、もう少し配慮があってよかったのではないか、というところだ。

それではまた。

06:25 PM [岡田日本代表] | 固定リンク

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日本代表(監)おかだたけし様 謹啓日頃弊社製品をご愛顧頂き、誠に有り難うございます。この度、弊社製品に重大な欠陥が判明しましたので、リコールを行います。何卒御理解頂き、速やかに弊社まで返品下さるようお願いします。三菱浦和営業所記今回リコールする製品:0...... 続きを読む

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» 人のふんどしでブログを書く from ◆ Football Kingdom ◆
■ 高原問題 「高原問題」が巷では話題になっていますが、なかなか上手く書けそうもなかったので、書きませんでした。そもそも、Jリーグの特定のクラブを贔屓にしていませんので、書くスタンスみたいなのが見つからないという理由もあります(苦笑) そう言えば、ちょっと前に、欧州でUEFAとFIFAの代表とクラブの問題で、とりあえず、一つの答えが出たという記事がありました。(代表戦でのケガに金銭補償 G14とFIFAが和解へ) 大枠の構造としては、今回の高原の問題も同類項なんじゃないかな?と思っています。 つま... 続きを読む

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