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February 18, 2008
コンセプトか、テストか(東亜杯北朝鮮戦)
おそらくは、岡田監督としては「バックアッパーのテストは行いたい。それならば、対戦相手の実力が最も劣る北朝鮮戦がベスト」という考え方だったのではないだろうか。多くの新顔、新機軸をピッチに送り出した。布陣はタイ戦までの流れをくむワンボランチ型だったが、GKに川島、CBに水本、左サイドに加地のコンバート、右サイドは内田、2トップが播戸と田代という、初先発や経験の浅い選手のオンパレード。結果、前半はなんとも残念な試合内容となった。
前半は「接近」も「展開」もほとんどない、「ボールも人も動かない」サッカーだった。オシム日本の特徴だった「動き出し」が激減していることが、なんとも残念だった。直前に憲剛が発熱してリタイヤしたのは計算外だったようだが、このワンボランチの布陣は左右の「2.5列目」とでも言うべきMF、遠藤と憲剛のポジションが非常に重要だということを、あらためて確認させられた。憲剛の代わりに入ったのは山岸だったが、役割に対して明らかにミスマッチで、つなげない、展開できない、そこで時間が作れないので動き出せない、という悪循環になっていた。
チームにボールを「展開」できる選手が遠藤一人しかいない。また、チーム全体としてのサポートやオーバーラップのやり方も統一されておらず、ワンタッチではたいてパス&ゴー、といった山岸や羽生の得意なプレーも、はたくべき相手がまわりにいないのでは、見せることができない。この日の前半ほど、動き出せない彼らを見るのは初めてだ。そもそも山岸や羽生は、「展開」を重視するオシム監督であったから、その受け手として動き出しの早さが生きたのであって、このチームのやり方には合わないように思う。
そうこうしているうちに、チョン・テセにボールが入り、水本がマークしていたが芝に脚が合わなかったか滑って振り切られ、加地(2/19 10:00訂正)と内田が対応するが強引に切り込まれシュートされ、決められてしまう。ワンボランチの問題が出たという指摘もあるだろうが、この局面では人数は揃っており、水本の経験不足、内田、加地(コンバート)の連携不足などが複合して出たというべきだろう。このシーン以外でも、カウンターを食らってシュートや、危険な状態まで持ち込まれることが何度もあった。
受けに回るメンタリティ
また、布陣や選手起用の問題以外で、選手が北朝鮮に対して「受けて」しまっていたのが気になったところでもある。選手間でのゲームプランの意識統一がない、というか。結果、前線から運動量豊富にプレスしてくる北朝鮮相手に、ボールをどんどん下げざるを得ず、ほとんど攻撃の糸口さえ見つからない状態だった。ただ、北朝鮮も飛ばしていたので、「後半にはペースが落ちるだろうな」という予想はついた。この後、30分くらいに遠藤が下がって啓太とダブルボランチを形成し、試合は落ち着きを見せ始める。
岡田監督は試合後の会見で
岡田監督: (北朝鮮は)立ち上がりはもうちょっと下がって守ってくるのかと思ったら、プレッシャーをかけてきたので、最初10分くらいは選手が怖がったところがあった。
と語っているが、本音だとしたら私には少々意外である。これまでの対戦では北朝鮮は序盤からアグレッシブに出てくるイメージがあったからだ。
また、もう言うまでもないことだが、「大会の初戦」は選手の気持ちの持っていきようが難しいもの。べストのなのはいきなり強い相手とあたってしまうことなのだが、この大会では対戦3か国中おそらく力が劣るであろう北朝鮮が相手となる(これはドイツW杯と同じパターンだ)。こういう場合、選手はなんとなく漫然と試合に入ってしまうことが多い。そもそもテストなのか勝負なのか、意義がわかりにくい大会であり、この状態はある程度予想がつくことでもある。そういうチームのメンタルの状態を観察して、適切な対処を取り、選手にうまく試合に「入らせる」モチベーション・コントロールも、監督の重要な能力の一つだ。
後半開始~ハーフタイムの「檄」
後半開始から、日本の攻撃が様変わりする。いきなり右サイドで内田が羽生とのワンツーで仕掛けていったのを見てもわかるように、「サイドで基点ができたら前線が動き出せ」という指示があっただろうと思う。
岡田監督: (ハーフタイムで強いことを言ったか?)ボール際で負けているということは言ったけれど、ちょっとやり方をみんな勘違いしていた。まあ(やり方については)次の試合があるので言えないんですけど。
ここで前線の動きが活発化、北朝鮮の動きが落ちたこともあって、ようやくボールがつながるようになる。また、遠藤が下がったことで中盤の布陣がボックス型になり、全体として左右のサイドに人数をかけることができるようになった。これによってサイド攻撃も多少効率よくできるようになり、日本の攻撃が次第に有効になり始める。
この辺、試合が始まってから戦いの流れを見極め、必要な手を打つことに関しては、岡田監督の能力は高いように私には思える。タイ戦でもハーフタイムでの指示から流れが非常に改善されたし、チリ戦でも、羽生と大久保を投入し、羽生を「前線へではなく、ボランチの左右のスペースに」走らせるようにしてから、大久保のシュートを何本か導き出している。北朝鮮戦の引き分けも、そういう意味では「リアリスティック」な引き分けと言うことができるだろう。
安田のビッグプレー
その際たるものが、前田、安田の同時投入だろう。前線でやわらかいボールタッチにより、ボールを落ち着かせることのできる前田、そしてドリブルで仕掛けていける安田(本来は左サイドバック)。「接近」に強みを持つ二人の投入で、改善されつつあったサイド攻撃は、さらに活性化した。その流れの中、安田が左サイドで勝負、あげたクロスを北朝鮮GKがはじき、こぼれが前田の前に浮き、ヘディングシュート、ゴール!不慣れなポジションでの起用だが、安田は良い仕事をした。
このゴールについて、岡田監督は
岡田監督: 向こうに先制点を奪われて、1対1で勝負できる選手というのが必要だと思いました。今回はミチ(安田)が一番勝負できるので(投入した)。嘉人(大久保)とかいれば勝負できるんですけど。
と、「(引かれた相手には)勝負できる選手が必要だ」と考えているようだ。私はそのような考え方も否定しないが、それは個人能力で上回れるか、拮抗できるアジア相手なら通用しても、対世界ではどうだろうか?と思う。以下はオシム時代のアジアカップにおける中村俊輔選手の言葉だ。
中村俊輔: 前(ジーコ時代)の代表は、選手のタイプにあわせたシステムで戦っていたから、誰かがビックプレーをするとか、ヒーローが出ないと勝てないような状態だった。セットプレー頼みというのは変だけど、セットプレーで得点するとかね。でも今(オシム時代)の代表はボールがキープでき、パスも出せ、そのうえ走れるという選手が揃っている。選手それぞれが走って、連動して、ボールをゴール前に運んでいく。だから、誰か一人がビックプレーをする必要がない。選手それぞれの力を合わせて戦っていくという感じなんです。
個人的にはやはり、連動した「ボールも人も動くサッカー」の上に、そういう「個の勝負」が局面で活かされるような形が望ましいと思う。
コンセプトなしのテスト?
この試合に関しては、冒頭に書いたように「テストするべき試合で、なるべく多くの選手を試した」と考えれば、問題はなく、収穫は多かったとも言えるだろう。この後中国、韓国と次第に強くなっていく相手と戦うわけで、ここで得られたデータを持って、次第にチームを仕上げていくのであればそれでかまわないと言えるかもしれない。
ただ私は個人的には、「サブのテストも、基本となるやり方があってこそ有効となる」と考えている。これは、トルシェ監督やオシム監督といった「コンセプト先行型」の監督を私が支持する/した理由でもある。日本代表は、アジアの戦いにおいて「結果」だけ出せばよいと考えているわけにはいかないという、特殊な立場である。そこでいかに「世界」へ通じる「内容」を積み上げて行けるか、を見ていかなくてはならない。そうなると、そこで必要となるのは大きな「コンセプト」、たどり着くべき地点のはっきりとしたイメージではないかと思うのだ。
そうしたコンセプトを持ち、チームをそれに近づけていくことを優先する監督の場合、選手のテストと言っても、まず基本となるやり方(コンセプト)があり、新戦力も「それに合致するかどうか」でテストされていくことになる。そして、練習を通じて浸透させた「基本となるやり方」は、新戦力がテストされる場合にも維持されていることが多く、その中でのフィット具合、動きをテストされるわけだ。よくあったのが、新戦力を終盤短い時間だけ使い、その後次第に起用していくやり方で、きちんとコンセプトを持った監督にとっては、ノーマルなやり方なのだろうと思う。
このような考え方を持っているために、私は前回の東アジア選手権での、ジーコ監督の「総とっかえ」に関しては疑問が大きいと思っていたものだ。今回の岡田監督の送り出した布陣、メンバーは、怪我やコンディションの問題が大きいだろうとは思われるものの、「基本コンセプトを維持した上で、それに新戦力を合わせる」という形にはならなかった。こういう形でできるのは、選手の個人能力の見極め程度だろう。その辺も、あの「総とっかえ」後の試合を想起させるものだ。
トレーニングによる戦術の染みつけと、「指示」と
またひとつ気になるのは、岡田監督が会見においてよく「選手に○○と言った(指示した)、言わない(指示しなかった)」という言葉遣いをしていることだ。これは反町監督など、過去の日本人監督もよくした言い方なのだが、私はどうも気になってしまうのだ。練習できちんと選手にコンセプトを身につけさせることができていれば、あまりそうした指示は必要ないのではないか、と思えるからだ。トルシェ監督も、オシム監督も「明確な指示がない」「約束ごとがない」という非難を受けていたのだが、彼らがしていたのは「練習においてコンセプトに即した動きを体に染みつけていく」というやりかただった。
どうもここまで、岡田監督のチームにはそうした「練習によって染みつけたコンセプト」を表現したシーンが見られることが少なかったように感じる。もちろん、就任後間もなく、かつ直後に勝ち点3が絶対に必要なタイ戦が控えており、前監督のチームを引き継がなくてはならないという特殊性があるために、チーム作りが困難だったことは考えなくてはならないだろう。そうした中で、コンセプトの表現を現段階のチームに求めるのは性急に過ぎると思う。ただどうもこれまで、日本人監督の「口頭の指示によってコンセプトを実現しようとし、結果として選手一人ひとりへの戦術の『個化』に失敗する」という例を見てきているので、少し気になる、という程度なのだが・・・。
岡田監督: あそこのこぼれ球を4番(パク・ナムチョル)、11番(ムン・イングク)に拾われるのが怖かったので、テセのところをとにかく佑ニ(中澤)と水本に離すなと。サイドに行っても譲り渡すなと。そういうことは言ったんだけれど、テセも今日は頑張って水本のところで勝負してきた。
やっぱり、ボールを受けるのは苦手だけど、競るのは得意な選手だったら、そういうプレーをさせないとね。そのへんのことは、今回は何も言っていないので、次はちょっと言おうと思います。
この心配が杞憂に終わり、岡田監督が「コンセプトをしっかりとトレーニングで染みつける」ことのできる監督であったと、後に証明されることを祈りたいと思う。
*ところで、前田まで怪我で帰国ということになったようだ。これはやはり、この大会は全体に「テスト」の大会と割り切るしかないかもしれない。しかしそれならそれで、「コンセプトの浸透度のテスト」をそろそろし始めて欲しいのだが・・・。
それではまた。
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» 偶然が生み出す例外か、それとも危機の予兆か from 眞鍋カヲリを夢見て
東アジア選手権、日本対北朝鮮、1−1
・日本のスタメン
播戸、田代
羽生
山岸、鈴木、遠藤
加地、水本、中澤、内田
川島
控え
GK 川口、楢崎
DF 駒野、岩政、安田
MF 今野、山瀬、橋本
FW 前田、矢野
・北朝鮮のスタメン
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受信: Feb 20, 2008, 3:37:22 AM