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August 03, 2007

アジアカップに何を見るか

韓国代表と120分間戦って引き分け。PK戦で日本は4位となり、日本代表にとってのアジアカップは終わった。酷暑、ハードスケジュールの中、戦い抜いた選手たち、支えたスタッフ、監督、本当にお疲れさまでした。また、戦火の中から雄雄しく復興し、素晴らしいサッカーを見せ、優勝したイラク代表の皆さん、本当におめでとうございます。

アジアカップが1年前倒しになり、かつ直前までJリーグがあり、準備のための親善試合がゼロという条件の中、日本サッカー協会は今大会のオシム監督に「ノルマ」は設けない、というきわめて当たり前の判断をしている。私も私的「ノルマ」はなし、「できれば」ベスト4まで行って欲しい、と思っていたので、ちょうどそれは達成されたことになる。特にベスト4まで到達したことで、3位決定戦まで含めて6試合を戦えたわけで、それもオーストラリア、サウジ、韓国という強国と次々と当たれたのは、強化の「実」という意味では非常によかったと思う。

また、大会を通して、日本のポゼッションは高く、決勝トーナメントに入ってからも(11人対11人の時でも)けして内容は悪いものではなかった。それは選手も、オシム監督も言うとおりである。もちろん、今回の大会を最終目標とするならば「内容は良かった」などと言っている場合ではない。しかし、協会もオシム監督も「あくまで強化の一過程」と捉えていたことは、各所で報道されていたことだ。南アフリカワールドカップまでの4年を1サイクルと考えての強化の「過程」としてならば、アジアカップの結果も無視はしないが、まずは内容を見るべき、ということになるのは自明だろう。


きわめて厳しい準備状況

大会前にも書いたように、日本は直前の6月30日までJリーグがあり、現地入りが5日前、準備のための親善試合が一つもない状態で大会を戦った。これはおそらくは参加国中随一の準備期間のなさであり(もちろん過去の日本代表の、アジアカップに臨む準備と比べても圧倒的に不利だ)、それが日本の大会全体に色濃く影を落とした。

現地入り5日前というのでは、Jリーグの疲れを取るのに精一杯だろう。連携の確認も難しく、大会全体を見据えたコンディショニングもできないくらいのもの。そういう状態で迎えた初戦カタール戦は動きが重く、引き分けに終わる。ここでの引き分けがまた、大会を戦い抜くマネジメント上、日本を苦しくした。第3戦のベトナム戦にもメンバーを落としてターンオーバーさせることができず(勝負の決まった後半には主力を休ませたが)、選手に疲労が蓄積してしまうことになる。

そうして迎えたオーストラリア戦、日本は1年前の屈辱を晴らそうと、死力を尽くして戦い、120分の死闘の末、PKで勝ち上がった。この試合まで、日本がすべての試合で走り負けていないことは、実はちょっと凄いことである。コンディショニングのための期間がなかった上に、いわゆる省エネサッカーでもない日本。しかし例えば、現地の気候に慣れていて準備万端のベトナムでさえ、日本より先にスタミナ切れを起こしていた。この大会での日本は、ボールを走らせ、相手を走らせるサッカーをしていたわけだが、それはある程度奏功していたといえるだろう。

しかし、それもオーストラリア戦までだった。サウジ戦では、序盤は問題なかったものの、終盤得点しなければならない状況で、全員が走れていたわけではなかったのは残念だった。ただ、この準備期間、開催地中もっとも苛酷な環境(ハノイ)での4試合ということを考えれば、致し方ないことではあると思う。これを受けて韓国戦では、選手の入れ替えも示唆されたが、結局「同じチャンスは2度来ない」を越えて、メンバーは大幅には変えずに韓国戦を戦った。

オシム: レギュラーがもう一度、チャンスを与えられるようにした。私が選んだメンバーが、よかったのか悪かったのか、もう一度見たいという考えが方針としてあった。

これによって、韓国戦では非常にパスミスも多く、体も重そうで、勝ちきれなかった一つの原因であるだろう。ただ、メンバーを変えないという判断に影響を与えただろう事実として、前日の移動に関してトラブルがあり、現地に着いたのが試合前日の夜、公式練習も満足にできない状況だったことがある。選手を入れ替えた場合の連携の確認なども練習でできないまま、試合を迎えてしまったことも、このメンバーをピッチに送り込んだ理由の一つだろう。

しかし、これまで蓄積した選手の疲労を考えても、韓国戦にはフレッシュな選手の起用をしたほうが、勝つ可能性は高かったのではないかとも思える。この辺は「3位を勝ち取るマネジメント」としては疑問が残るところだ。対して、オシム監督の言葉を信じるならば、彼はその先を見ていたということになる。それがアジアカップの3位以上に意味があったのか否かは、これからの強化の進展によって計られることになるだろう。


オーストラリア戦を越えて

前項では日本の準備状況について書いたが、サウジはどうだろうか。親善試合は

6月15日 vsコソボ
6月16日 vsNKザグレブ クロアチア
6月24日 vs UAE
6月27日 vsシンガポール
7月1日 vsオマーン

と5試合を戦っている。これを見れば、サウジは「しばらく獲っていないアジアカップというタイトルを本気で獲りに来た」と考えてよいだろう。それに対し、日本はオーストラリアという「ドイツW杯での屈辱の解消」の方に目が行き、それを乗り越えたところでほっとしてしまっていたのは、残念だがどうしても否めないところではないだろうか?それほどオーストラリアは日本にとって「大きな相手」だったのだ。

敵として強大である、だけではないのは言うまでもないだろう。1年前のあの忌まわしい出来事を、体験した選手も、そうでない選手も、どうしても脳裏によみがえらせてしまったに違いない。オーストラリア戦では、どの選手も、非常に気持ちの入った表情をし、悪夢を振り払おうと必死に走り、戦っていた。そういう120分を経ての、試合後のあの歓喜。こう言ってはなんだが、選手の気持ちはあそこで切れてもおかしくなかった。

また、サウジアラビアに対しては、近年負けていないとか、昨年の最後の対決で勝ったとか、日本全体に敵に対する「予断」があったことも確かだろう。しかし言うまでもなく、サウジはアジア5強の一角でもあり、個人レベルでも日本と互角かそれ以上の国でもある。それが大会を獲るために、(少なくとも日本以上の)準備を整えてきているのだから、侮れる相手であるはずがない。しかし、日本全体に「オーストラリアに比べれば」という気持ちがどこかに、ほんのちょっとはなかったか。

前回のエントリーを自分で否定することになるが(笑)、サウジ戦や韓国戦でショックを受けた人がいるとするならば、それはやはり情報不足によるものだろう。そもそも日本と同等(か、それ以上)の国が、日本以上の直前準備をして臨んできた戦いなのだ。必ず勝てる、という方がどうかしている。大会前の「三連覇狂躁曲」自体、何とか視聴率を取りたいとメディアが煽っていただけに過ぎず、冷静に考えれば、強化の過程で合宿も少ない日本は、ノルマなしで臨んで正しい大会だったのだ。

ただ、サウジ戦などでは、試合を見ても、選手たちの「気持ち」が抜けているとは私には思えなかった。選手たちの表情、サウジ戦の中澤の得点後の「喜ばなさ」、鬼気迫る上がり、ランニング・・・。ただ、一瞬、集中できていないところ、ふっと息をついてしまうようなところががあった。それは、試合全体でボールを支配し、攻め続けているところに生じる、一種の「ボール持ち疲れ」のようなものだっただろうか。サウジ側にも、韓国にも、それはなかった。サウジは最後まで「最強の敵」と戦うのだというような、切羽詰った表情をしていたし、韓国は一人減ってむしろ気合が入ってしまっていた。

日本にとってはオージーが最強の敵だったのだが、サウジにとっては日本がそうだったのかもしれない。その差はやはりあったと、自分には思える。しかし、この大会で「オーストラリアの呪縛」は解けたはずだ。日本はこれからようやく自然体でアジアに臨める。来年からのドイツワールドカップアジア予選に向けて、これは一つポジティブな要素だと言えるのではないだろうか。


中村俊輔の覚醒を促す大会

CastSoccerCastの方でも話したのだが、オシム監督にとってアジアカップは、「中村俊輔の覚醒を促す大会」だったのではないか、と思う。言うまでもなく中村俊輔は、個の能力では日本有数の選手だろう。FKはもとより、技術、アイデア面でも、諸条件がそろえば、日本代表の中心になってしかるべき人材だ。しかし、オシム監督が常々語るようにややクセのある選手でもある。有効に機能させればこの上ない武器となるが、それにはいくらか工夫と慣れが必要になってくる。

オシム日本においての中村(俊)は、普段の彼とは違うことにトライしていた。会見で彼はこう語っている。

中村(俊):  ポジションも違うし、走る質が変わってきている。基本的に距離は変わっていないと思うが、タイミングとか、自分がもらうだけではなく(スペースを)空ける動きとかを増やそうとしている。距離の問題ではなく走る質。(パスを)出す側からもらう側の意識を持つようにしている。

今は自分に一番足りない、ランニングすることとかを、勉強ではないけど、やっている最中。それをやりつつ大会も勝っていく。そんな感じです。

もちろん、「守備の意識やボールのないところでの動きは、セルティックでも考えていた」というコメントもついているのだが、それにしても大分変わってきているのは確かだろう。あの年齢になって、自分のプレースタイルも確立し、それで結果も出している選手が、このように発言し、実際にそれをピッチで実践しようとしているのは、ちょっと凄いことだと思う。わたしはそれを歓迎したい。

ジーコ監督も退任後の雑誌のインタビューで「中村(俊)には前に出るように再三言ったのだが出なかった」という趣旨のことを語っており、やはり中村(俊)選手の技巧、アイデアはペナルティエリア付近で発揮するべきだと考えていたようだ。そのための一つの方策として、受け手としてのフリーランニングを増やしていくのは理にかなっている。本人もオシム監督の元、意識してそれに取り組み、このアジアカップを通しては、大分それができるようになったと言っていいだろう。

オシム監督にとっては「中村俊輔の覚醒を促す大会」だったと考えると、この大会でのいくつかの方針に納得がいく。例えば、私はなぜ遠藤と中村(俊)を並べるのだろうと疑問に思っていた。これまでのオシムサッカーを考えても、どちらかはもっと分かりやすく「走る」タイプの方がいいのではないかと思ったからだ。しかし、オシム監督の考える「中村(俊)を起用するならば必要になる5人の選手」のことを思い起こすと、「中村(俊)というスペシャリストを生かすための、遠藤というゼネラリスト」がどうしても必要なのだ(とオシムが考えているだろう)ということがわかってくる。


1) サイドを駆け上がるスペシャリスト
2) クロスにあわせるセンターフォワード
3) 逆サイドでサイドチェンジのボールを受けるフォワード
4) 中村の背後をカバーするフィジカルの強い選手(鈴木や阿部)
5) サッカーゲームをよく知っている選手(遠藤や憲剛)

カタール戦と韓国戦では4-2-3-1で戦ったわけだが、スタートポジションとしてはオシム監督は、中村(俊)を「3」の右サイドとしているように思う。「3」の真ん中で司令塔としてタクトを振れ、ということではなく、あくまでも「受け手」として、サイドでボールを引き出し、そこから技巧を発揮するように、という意図なのだろう。実際中村(俊)が走ってロングボールを引き出しているシーン、ボールを持つ加地の外をオーバーラップしていくシーンなどもあり、その意図はかなりピッチ上に現れていた。

これは個人的な意見なのだが、「代表選手は、所属クラブでのプレーを代表でもそのままやればよい」とは私は考えていない。Jリーグ勢でいえば、戦う相手がJのクラブではなくなっているわけだし、自分のチームにいるブラジル人FWも、代表にはいない。中村俊輔で言えば、セルティックのような「スコットランドリーグでナンバーワンの選手層を誇る」チームと同じプレーでは、世界的に見てナンバーワンの選手層を持っていない日本代表では、問題が生じるだろう。日本代表には日本にあったスタイルを、協会、監督の方針に基づいて導入すべきだし、代表選手もそれに合わせ、所属クラブでのプレーとは違ったものを発揮していかなくてはならない。そう考えると、この中村(俊)選手への要求、それに応えようという中村(俊)選手、ともに私には歓迎すべきことだと思えるのだ。

また、選手交代の画一性もこの大会では言われたが、それもこの考えに当てはめると理解ができてくる。いわゆるドリブラー、特に水野は「中村(俊)に代えて」でないと使われないのではないか。巷間よく「なぜドリブラーを使わない?」という意見があるのだが、オシムに言わせれば「中村(俊)がいるではないか」ということになるのではないだろうか?水野や太田は、オシムの中では「エキストラキッカーの代替選手」なのであって、リズムチェンジ要員ではないのかもしれない。ただ、だからオシムは正しい、ということではなく、理解ができてくる、ということに過ぎないが。

この方針に関しては、暑さの中の対アジアの戦いでは一定の成果が出たが、この先は分からない、というところだろうか。もちろん言うまでもなく、中村(俊)選手も常に招集できるわけではなく、コンディションも変動するだろう。3年後まで彼がずっとトップフォームであるという保障も、残念ながら、ない。また、これからチームを作って備えるべき相手は、アジアばかりではない。そう考えると、このやり方はオシム日本の「バージョンB」であって、次に何を採択するかはまた諸条件で変化していくのだろう。そしてこの大会の成否は、それらの過程を経た後、振り返ってみた時に始めて明らかになるものなのかもしれない、と思う。

中村俊輔談話

中村(俊): 今の代表に必要な動きはしている。自分の出来うんぬんというよりは、一つの部品として…。
あの時(2004年アジアカップ)は個人の力で打開した。オレが出してタマ(玉田)が一人でドリブルとか。
でも、ああいうの(個の力)だけでは強いチーム相手に戦えない。逆に今はボールと人を動かす作業(連動性)を先にやっている分、前の時よりは先が見えやすい感じがする。

今回はここまで。守備や攻撃の詳細については、次回に触れたい。

それではまた。

02:22 PM [オシム日本] | 固定リンク

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