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July 16, 2007

軌道に乗った「ベース+アルファ」

UAE戦は、コロンビア戦でも見え始めていた「ベース+アルファ」のチーム作りが、軌道に乗りはじめ、一つの形を見せた試合だったと思う。

オシムサッカーの「ベース」は、攻撃に関しては以下のようなものだと思われる。

・すばやい守→攻の切り替え
・数多いフリーランニング・追い越し
・数的有利を作ってのサイドアタック
・DFラインからの攻撃参加

これらについては、昨年のホームでのサウジ戦において、国内組だけの中でならほぼ理解ができつつある状態だった。私は「難解」といわれるビブス練習を鑑みても、もっと時間がかかると思っていたので、代表レベルの選手の習得力にそのときやや驚いたものだった。

今年になって、ペルー戦、モンテネグロ戦、コロンビア戦と、いわゆる海外組が、特に中村俊輔、高原の両名が起用され、チームに組み込まれ始めた。オシム監督はこの数試合で、「ベース」の上に海外組の高い「個」の能力を融合する、「ベース+アルファ」こそがこれからのオシム日本の路線となるということを、はっきりと示し始めたのだと私は思う。

ペルー戦はまだ顔合わせ程度だったが、SoccerCastでも語ったように、コロンビア戦では中村俊輔選手も「数的有利を作ってのサイドアタック」に参加しようと、ボールを持った加地選手の外をオーバーラップしていた。それがデコイラン(おとりの動き)となってもかまわない。そういう動きを、俊輔であっても、遠藤であっても精力的にやっていかなくてはならない。海外組も次第にオシムサッカーに習熟していく。そしてその中で高い「個」の能力を発揮していく、そういう道筋が見えたのが、このUAE戦だった。


「帰って来た」遠藤

開始序盤は、初戦で敗北し、勝たなくては後がないUAEが飛ばして来た。フランス人メツ監督のチームらしく、4バックを高く押上げ、サイドからの攻撃を分厚くしようとする。1分、8分と、密集してプレスしようというところを抜け出され、クロスやあわやシュートまで持っていかれている。しかし日本もうまく対応し、その後は中盤ではきちんとプレスできるようになっていく。12分には巻と啓太が左右からはさみ、パスコースがなくなったところで後ろから阿部が抑え、3人で囲い込んで奪った。こういうシーンがこの試合ではずいぶんと増えた。この辺も進化の跡が見えると思う。

日本はペースを落ち着けると、ボールをまわしながら攻勢に出る。ここで目立ったのが、相手の高いラインの裏を取ろうという遠藤の動き出しだった。カタール戦でのフィニッシュ意欲への批判が聞こえたのか(笑)、この試合ではずいぶんとそれを増やしていた。序盤だけでも6分には遠藤がドリブルでペナルティエリア内へ、10分には俊輔からラインの裏へ走る遠藤へ、15分には加地からのクロスにペナルティエリア内に遠藤も入り込んでいる。16分には遠藤のシュート。カタール戦の遠藤はもういない。「数多いフリーランニング・追い越し」・・・遠藤がオシムの「ベース」に帰ってきた。

また、高原のパートナーに巻が入ったのも試合をスムースにしていた。高原はいったん下がってボールにさわり、そこから戻りながらプレーすることを好むのだが、その際も巻が前方で張り、裏を狙い続けていることで、UAEのDFラインは押し上げられない。それによって敵陣にスペースができ、パスがよく回ったという効果もあった。高原としても1トップでポストも担わなくてはならない場合よりも、負担が軽減されたのではないか。この辺はホームサウジ戦での巻-我那覇という2トップでの役割分担と同じ形だ。


「水を運ぶ人」と・・・?

しかし、カタール戦から疑問なのだが、なぜオシム監督はセットプレーを素直に蹴らせないのだろうか?非常に多くのショートコーナーや「スリープ」を使って、普通に上げてヘッドで競らせるということをあまりしない。高原、中澤、阿部、巻というヘッダーがそろっているのに、解せないことだ。

と思っていたら、そのショートコーナーから俊輔がクロス、中央で高原が素晴らしいヘッドで決める。試合後に俊輔も語ったように「練習どおり」の形ではあるのだろうが、このかたちを多用するわけはなんだろうか。一つ想像できるのは、ワンクッションを入れることで、クロスに対してボールウォッチャーになりがちな中東の選手たちの目を引きつけ、中央でのマークをルーズにしようという意図なのかもしれない。だとしたら、このシーンは確かに奏功したと言えるだろう。

「ところでこの試合、俊輔は右サイドをスタートポジションとしているが、次第に中へ入っていくことが多かった。これに対し、憲剛と遠藤が右を意識し、加地を生かすパスを出していた。ここ数試合、加地があまり輝かないと見ていた人も多いかもしれないが、UAE戦では中盤の選手もそれを消化し、加地が再び輝きだしたと思う。追加点はその憲剛の加地へのパス、「ベース」通りの「数的有利を作ってのサイドアタック」で、加地の横を啓太がすごい勢いでフリーラン、加地につめようとしていたUAE選手がそれに釣られ、加地はフリーでクロスをあげることができ、中央で高原が見事なトラップから反転、シュート、ゴール!

「ベース」+「アルファ」とはこういうことだろう。オシム監督は「エキストラキッカーは一人か二人」といつも言っているが、逆に言えば、オシム監督のサッカーでも一人か二人は、そういう選手を起用できる/すべきだということでもある。トルシェ監督が言っていた「7人の明神と3人のクレイジー」という言葉とも妙に(笑)符合する。コンセプトに基づいて、しっかりと動き、お膳立てをする選手と、そして最後に仕上げのスパイスを一振りする選手。この組み合わせがかなりうまくいき、生まれたのがこの得点だと思う。

Number誌682号では、オシム監督の友人ゼムノビッチ氏(元清水エスパルス監督)が、オシムサッカーについて語っている。少し長くなるが引用しよう。

ゼムノビッチ: オシムさんは、よく、「水を運ぶ人」という表現を使っていますけど、では運んだ水をどうするのでしょう?(中略)正解は「家を建てる」なんです。
ヨーロッパで家を建てるのはマイスターです。(中略)しかし、優秀なマイスターだけでも家は建たないんですね。彼が煉瓦を積むために水を運んできたり、材料をそろえたりする人がいないと仕事が進まない。ですから「マイスター」と「水を運ぶ人」の両方がいて、はじめて家が建つわけです。

世間ではオシム監督は少し誤解されていると思う。以前にも、必ずしもコンセプトどおりの動きをするとはいえない三都主を重用していたことからもわかるように、おそらくは「水を運ぶ人」だけではなく、「煉瓦を積む人」も必ずチームに組み込んでいくのだろう。この得点は、そういうことを改めて考えさせてくれるものだった。

3点目は、解説が「練習でよくやっていた」という細かいつなぎから憲剛が遠藤へ、右から左大外へのサイドチェンジ気味のクロス。この試合では憲剛や遠藤からのサイドチェンジもよく目立っていた。カタール戦ではほとんどなかったそれが改善されているのも、チームの進歩を感じさせて興味深い。遠藤はペナルティエリア内でトラップ、シュートしようとしてキーパーにファウルを受け、PKをゲット。実は6分にも遠藤がペナルティエリア内にドリブルで侵入し倒されており、「あわせ技」的に審判が取ったのではないか、と私はちょっと疑っている。これを中村がしっかりと決めて3点目。日本は前半で3点を決めて折り返した。


攻め続けたのはなぜか

後半になると、日本もリスクを負う必要はなくなり、巻の頭をめがけたボールも増える。これを巻がしっかりと落とし、周りの選手に拾わせるというのも、オシム日本のパターンの一つだ。後半開始早々に巻のヘッドから高原がフリーでキープ、クロスから遠藤の逆サイドでのシュートにつながっている。後半4分にも、また終盤、UAEが酷いチャージを繰り返すようになったあたり、後半34分、37分、38分でも同様のプレーが見られる。終盤にはUAEの足も止まっており、ボールを拾った水野や羽生はフリーだったことも多く、得点につなげたかったところではあるが。

  日本 UAE
ボール支配率 64.0% 36.0%
シュート数 13

しかし興味深いのが、3点をリードしたこの試合の後半でも、日本はあまり「時間稼ぎ」らしいプレ-を選択しなかったところだ。これだけの暑さ、湿気でもあるから、セーフティーにセーフティーにやっても良いだろうに、そうしない。中村は後半5分には加地の外をフリーランしているし、13分には憲剛が、14分には駒野が、スピーディーなパス&ゴーを敢行している。16分には憲剛と遠藤の2回のサイドチェンジから、右に大きく開いた中村俊輔にボールが渡り、深い切り返しからシュート!この辺、俊輔が「使われて、最後を決める」役割にも顔を出すようになったことは、個人的には歓迎したい。

ところが、20分には同じようなプレーがカウンターの基点になってしまう。左に位置する遠藤から、右サイドの開いた俊輔へ大きなサイドチェンジのパス。俊輔はこれをフリーで受けている。この動きは良いと思う。これをもっと繰り返して欲しいところだ。

しかし、そこから俊輔は左大外に上がってきた駒野へ大きなクロス。こぼれ玉を後半から入ったA・モハメドに拾われ、憲剛がそれに相対するが、突破されカウンターを食らってしまう。阿部は左へ開いて行くマタルを見ている。鈴木が走りこむアルガスについていくのだが、あと追いになって体勢が苦しい。中澤は中央にいるがやや躊躇したか。いずれにしろ、A・モハマドからアルガスにパスを通され、アルガスに突破され、シュートを浴び、1失点。

この失点について、基点となってしまった俊輔のプレーを責める必要はあまりないだろうと思う。それまでも、あるいはそれからも、同様のプレーは多くの選手が行っており、「中がマークされていたら大外を上がってくる選手に合わせろ」というのはむしろ約束事ではないかと思えるからだ。PKを得た遠藤へのクロスもそうだし、後半27分の遠藤、37分の水野なども同様のプレイを選択している。この辺、アジアカップでの日本はサイドからシンプルに上げずに、小技を使っていく、あるいは目先を変えていくことが多い。これも中東勢のボールウォッチャー癖を利用しようということだろうか。いずれにしろ、チームとしての共通意識ではないかと思う。

これらのプレーや、終盤に投入された羽生や水野が精力的にパス&ゴーや、オーバーラップを仕掛け、「3得点しているのに攻撃し続けた」ことを、TVの松木解説はずっと批判していた。「時間稼ぎをしろ」というのだろう。この試合だけのことを考えれば、そのこと自体は間違ってはいないが、私は少し違った考えを持っている。

Jリーグが直前まであり、非常に準備期間が短く、大会前の親善試合もなかった日本。この大会では、いわば「走りながらマシンを仕上げる」に近いことが必要とされているのではないかと思う。そのためには、一試合のことだけを考えるのではなく、大会全体のことを考えて、なるべお互いの考えをすり合わせるように、パス回しや攻撃の慣熟を行っていくことも必要だろう。

さらにもっと先を見れば、オシム監督が言うように、4年後へ向けてのチーム作りの一環と考えることもできる。そういう意味では、羽生や水野が入ってよりシンプルにボールがまわせるようになった終盤の試合内容も、そしてそれをしようとした選手たちの意図も、ポジティブなものだと思うのだ。


巻のプレッシャーとロングボール

終盤にややUAEペースに見えた理由は、GKやDFからのロングボールがマタルに合い、そこでキープされシュートまで持っていかれたりしたからでもある。これにはいくつかの興味深い点が隠されている。まず、そういったプレーが増えたのは、試合開始から精力的に敵DFにプレッシャーをかけていた巻が、ガス欠のため動けなくなったことによるものだろう。22分、ロングボールを日本の右に開いたマタルに入れられ、H・アリがオーバーラップしてきたため加地はそちらに付き、俊輔がマタルに応対したがクロスを入れられている。このとき巻は動けていない。

同じようなロングフィードが24分、25分、26分と続いていく。ヘッドで競るのは加地なのだが、5分5分の勝負で、競り負けるといきなりシュートまで持っていかれる。その辺が劣勢に見えた原因だろう。しかし、ここで水野が投入されると、28分、羽生とともにGK、DFへプレッシャーをかけ、それによってロングフィードを防いでいる。

ところが、鈴木が痛んで外に出ると、羽生は中盤左サイドでの守備をせざるを得ず、再び31分、マタルへのフィードが入っている。35分には巻が復活、羽生も水野もプレッシャーをかけにいく。この辺、「ロングボールを防ぐには前線でのプレッシャーが有効だ」というテーゼのはっきりした証左になっていて興味深かった。

鈴木が傷んで今野が投入されると、今野は阿部、中澤とともに3バックを形成し、中澤がマタルを見るようになる。こうなると、マタルへのロングボールを入れても、中澤と競ってはモノにできる可能性が減ったと見たのだろう。UAEのフィードは狙いが定まらなくなり、急速に脅威を減じていった。この辺の選手の対応力もまた、興味深いものであった。もちろん、この前後の日本のボールキープも、シンプルで少しずつパス&ゴーを織り交ぜた、有効に時間を使いつつ、オシム日本の完熟走行らしいものだったと思う。


ベトナム戦へ向けて

さて、総体としては、必要だった勝ち点3も得られたし、チームの慣熟もしだいにこなれてきた。悪くない試合振りだったと言えるだろうが、唯一心配な点が、いまひとつカウンター対策に冴えが見られないところだ。どの選手が、というわけではないが、中央の2CBバックにプラスしてアンカー役が啓太一枚という問題か、この試合の失点シーンも含め、カウンターに対して磐石とはいえない感が漂う。ベトナムはおそらく相当カウンターの鋭いチーム。しかもホームでもあり、何がファウルにとられるかわからない。慎重の上にも慎重を重ねる対応が要求されるだろう。

それもまた、新たな試練だ。前回に引き続き、波は高い方がいい、と言っておこう。しっかりとそれを乗り越え、選手たちには大会が終わった時、一回り大きな戦士になっていて欲しいと思う。おっと言い忘れていた。酷暑の中で戦った選手たち、そして彼らを支えたスタッフ、監督、本当にお疲れさまでした。しかし、あまりにも短い休息の後、もうベトナム戦は迫っている。集中して、気を抜かず、是非とも勝ち点3を勝ち取って欲しい。殻はもうほとんど破れている。あと少しだ!

それではまた。

02:03 AM [オシム日本] | 固定リンク

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