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July 20, 2007

脱ぎ捨てる

オシム日本は開催国ベトナムに勝利し、GL(グループリーグ)1位突破を決めた。酷暑、ものすごい湿度の中、戦い抜いた選手たち、支えたスタッフ、監督、御疲れさまでした。ただもう試合から時間もたち、オーストラリア戦も迫っているということで、今回のエントリーは「オーストラリア戦へ向けて」という視点もあわせて書いてみたい。


序盤~失点シーン

  日本 ベトナム
ボール支配率 68.5% 31.5%
シュート数 13

ベトナム戦は、それまでにも増して高い気温の中でのキックオフとなった。また、ホームベトナムの後押しをするべく、ベトナムサポーターの大観衆が詰め掛けており、その大声援によって、ピッチ上の選手間の指示の声も通らないほどだった。そして高温多湿に慣れたベトナム選手が、立ち上がりから飛ばして来て、非常にアグレッシブにピッチ上を走り回る。日本にとって厳しい条件がそろっていたと言えるだろう。

このような状態では、選手も平常心で試合に入ることは難しい。従って、加地が言うように、しばらくはロングボール主体にしても、リスクを負わないサッカーを行っておくことも一つの正しい選択肢となる。

加地: 最初は高さのない相手に対して放り込んで、間延びさせるのがゲームプランだった。(中略)相手がへばってきたら、パスを回して戦おうという約束事があった。

にもかかわらず、高原が開始早々の4分に敵陣の密集に下がってボールを受けて振り向こうとしてミス、そこからカウンターを食らっている。敵のカウンターが失敗したからいい、最終的に勝ったからいい、ですましていては、オーストラリア戦に勝つことはできないだろう。しかも高原はこのチームでは堂々の柱、年長でもあり、最も「世界の厳しさ」を知っていなければならない選手だ。はっきり言ってリーダーの一人たるべき選手だろう。それがあのようなミスをしていてどうするのだ!

失点はCKから。おそらくは中澤がブラインドになってボールの軌道が見えなかった鈴木啓太が、オウンゴールしてしまった。オウンゴール自体は運の要素もあるだろう。が、このCKは、攻め込まれて中澤がクリアしたボールが敵選手に入りそうになったところを俊輔がカット、そのこぼれが巻の方へ転がり、俊輔と巻が「お見合い」のようになってベトナム選手に拾われて、そこから与えてしまったもの。推測だが、この「お見合い」は、ベトナムサポーターの大歓声に、お互いの声が聞こえなかったために起こったのではないだろうか。

ただ、そのような状況に慣れている、また味方が浮き足立ちかねない序盤であることも理解している「べき」なのはやはりこの場合、経験豊富な中村俊輔の方であろう。このシーンは半分は無理もないとは思うのだが、オーストラリアに備えるためにあえて言えば、中村が泥臭くてもこぼしたボールを追い、大きくクリヤーなどしていれば、このCK、失点はなかったのではないか。ベトナムだからこのあと取り返せた。オーストラリアだったらどうなっていたか。


吼えろ俊輔、叫べ遠藤、怒れ中澤!

そして失点の後も、怒る選手、あるいは手を叩いて鼓舞する選手が、TVに映っていないだけかもしれないが、見当たらなかった。さらには、18分、19分、とミスも続いている。オーストラリアだったらそれらを確実に決めてくるぞ!西部謙司氏が言うように、こういうミスをなくすためには、ピッチ上に「怒る」選手がいる必要もある。98年W杯で優勝したブラジル代表でも、ドゥンガに周りの選手が「怒ってくれ」と頼んだほどだ。しかし今の代表には見当たらない。

オーストラリア戦に向けて、私はここで選手たちに要求をしたい。吼えろ俊輔!叫べ遠藤!怒れ中澤!君たちは今、もうチームを引っ張っていくべき選手たちのはずだ。自分はそういうキャラクターじゃない?そんなことを言っている場合じゃないだろう!あのカイザースラウテルンの惨めさをもう一度味わいたいのか?今のままで、オーストラリアに勝てると思っているのか?誰かがやらなくてはならない。「誰か」じゃない、君がやるんだよ!

オシム監督にも本当は望むことがある。キャプテンマークを、上記3人か、鈴木啓太か、阿部に託して欲しいのだ。川口をキャプテンにするのは、本来は問題ない。しかし、今回はフィールドプレーヤーにそれを託した方がいいと思えるのだ。というのは、川口はキャプテンマークがなくても怒るときは怒るが、上記3人はそうではない。また啓太や、阿部は年長組に対しての遠慮もあろう。キャプテンマークなんてただの布切れだ?普段はそうなのだ。しかし、この試合は違う。彼ら5人の誰かに渡せば、変わるのだ。たった一枚の布切れが人を変える事もある。私はぜひ、彼ら5人のうち誰かに、そう、「がらじゃない」と一番言いそうな中村俊輔にこそ、あの腕章を渡して欲しいと思うのだ。オシム、頼む!


「使い、使われる」俊輔

先制されたあと、日本は当初のプランどおり、中盤を飛ばしてロングボールを前線に入れるようになる。失点直後、啓太がボールを持つと、憲剛と加地が左斜め前方を指差している。啓太はその通り、(日本から見て)ペナルティエリアの左カドのあたりへボールを入れる。そこには巻と遠藤が走りこんでいる。この同じプレーを、日本は9分、10分、11分と繰り返している。このあたりは、失点してさらに浮き足立ってしまいかねない日本の取る策としては論理的であったろう。

そして、中村(俊)がはじめてその左斜めへのロングボールの「受け手」に入ったのが11分、そこからあの鮮やかな切り返し、クロスによって、巻の胸ゴールを導き出す。前回も書いたが、中村(俊)が「組み立て」ではなく、受け手として「使われて、最後を決める」役割を相当意識するようになったことを、私は歓迎したい。この試合でも、その意識がかなり高まっていると言えると思う。

もちろん、いったん下がってボランチレベルでボールに触りたがる癖は残っているのだが、それでも13分、20分、34分と、UAE戦と比べてもさらに、「受け手」としてのプレー、第3の動きが増加している。まあ私の持論に固執するわけではないが(笑)、特定の中心、ゲームメーカーを決めないオシムの「多中心サッカー」に、中村(俊)もかなりなじんできたと言ってもいいだろうか?ジーコもドイツ大会後、雑誌のインタビューで「中村(俊)になるべく前に出るように言っていた、が、なかなか出ようとしなかった」という趣旨の述懐をしていたが、この大会では、ついにそれが可能になりつつあるように見える。

今のチームには、遠藤、憲剛とゲームを組み立てられる選手はいる。中村(俊)は、もちろんある程度はビルドアップに参加してもいいが、なるべく前方で、ペナルティエリア付近でその技巧を発揮して欲しいものだと思う。使い、使われる、その両者を中村(俊)がこなすことで、オーストラリアにしても(あるいはこれからの対戦者にしても)、狙いが絞れなくなり、そして結果、中村(俊)がフリーで技巧を発揮できるシーンも増えるはずだ。私はオシムの方針と、それを消化しつつある今の中村(俊)の姿を歓迎したいと思う。


カウンター対策~前から「掴む」サッカー

Vietnam同点弾後、興味深いことにこのロングボールは頻度を減らしていく。そして落ち着きを取り戻した日本は、パスをつないで攻め始める。ただし、まだ時間はたっぷりあるし、無理をする必要はない。ボールを走らせ、ベトナム選手の疲労を待とうという作戦を取るべきだ。日本チームは基本的にはそうしていた。これはまったく論理的な試合運びだったと言えるだろう。

ただこの時間帯、いただけないのは、かなり敵のカウンターにさらされる機会があったことだ。ベトナムが引いてカウンターを狙っていることは分かっているのに、敵陣のカウンターの起点になりそうなところで無理をする。そして、ボールを失ってしまい、さらにはカウンターの芽を摘むことができなく、長い距離をドリブルで持ち上がられ、そこからパスで崩されそうになる。

このカウンター対策の問題は、以前にもオシム日本の守備時の問題点の一つとして指摘した。ただ、当時は中盤でも厳密なマンマークが課せられていたからか、この試合の前半よりは、前線の選手にも敵を「掴む」意識が強かった。キリンカップのあたりからオシム日本は守備時のゾーン志向の度合いを増していったのだが、それとともに前線での守備も、一部の選手を除き、パスコースを切ったり、待ち受けて守ったりということが増えてきた。それがこの試合の前半に出たというところだろうか。

最終ラインに人数がそろっていると、前線や中盤の選手は自分の目の前にボールホルダーがいても、あまり激しくチェックしなくなってしまう。もちろんそれはサボっているのではなくて、そこで抜かれるよりもディレイを仕掛けた方が有効だ、という判断から来ているものだ。しかしそれは同時に、きちんとディレイできないと、敵のカウンターをスピードに乗せてしまう危険も伴っているのだ。「飛び込まない、距離を置いて守る」前線の守備が、この試合でのベトナムのカウンターを鋭く見せていたことも確かだろう。

ただしこれは、ベトナム戦の後半になってやや改善されていた。ハーフタイムのオシム監督の「前線からからもっとしっかり守備を」という指示もあり、またおそらくは選手同士の話し合いもあったのだろう。前線や中盤の選手たちが守備時に、よりしっかりと体を寄せる、厳しく体を張ってチェックするようになっていった。そう、自分より後ろに人数がそろっているからこそ、そこで厳しく行って抜かれても、敵の体制を崩してしまえば、後方の選手が有利になる、楽に守備ができるようになるのだ。

もちろん、後半はベトナム選手の運動量が落ちた影響も大きい。ただ、この守り方の変化が、後半急に増えた日本DFが前に出てのインターセプトにつながっているのだと思う。前線の守備が厳しくなれば、敵は苦し紛れにボールを離さなくてはならなくなる。パスの精度が落ちる。それを阿部や中澤が前に出てカットし、そこからスピードに乗って逆にカウンターを仕掛けた。中澤のそれの迫力に、私は感嘆したものだ(笑)。

オーストラリア戦も、基本的には日本の方のボール保持が長くなるのではないか、と個人的には予想している。必然的に、オーストラリアのカウンターも増えるだろう。この試合の後半に見せたよりも、もっと激しく、もっと強く、深く腰を入れて、前線の選手が敵を「掴んで」いって欲しい。それは暑い中苦しいだろうが、そうしたほうが試合全体で見ればよりラクになるはずだと私は思う。2000年大会の名波は、今の誰よりも激しく、厳しく、前線でチャージをしていたぞ!


昨日とは違う明日へ

さて試合は、美しいパス回しから中村(俊)が右足で、そして遠藤のFKから巻がヘッドで追加点を上げ、後半14分にはほぼ終わってしまったと言っていいだろう。この後日本は、羽生、水野、寿人を入れて、試合を「殺し」にかかる。本来なら2試合目までにGL突破を決めて主力選手を休めさせることができたらよかったのだが、初戦の引き分けでそれはかなわなくなった。しかし、早々に試合を決めた結果、後半には中村(俊)、高原、遠藤を休ませることができた。これは今後に向けてポジティブだと思う。また、頼れる選手がいなくなってからのシミュレーションにも(少しは)なったかもしれない。

ただ私は、中村(俊)が交替を告げられる時に「ええ~、もう下げちゃうの?」と嘆きの声を上げていたことを告白しておかなくてはならない。というのは、私にはこの試合で中村(俊)が、さらにまたもう一皮向けそうな気配を漂わせていたような気がしていたのだ。表情や、プレーに、「言葉や態度でもこのチームを引っ張る」という意思が見え始めていたように思ったからだ。オーストラリアに勝とうと思ったら、クールに淡々と、サッカー的に正しいことをしているだけではダメだ。血の熱さが必要だ。それを表に出すことが必要だ。この試合では、中村(俊)の中のそれが、少しだけ見え始めたように思う。

あとはそれを表に出すだけだ。思えば2000年アジアカップも、それまではクールな技巧派と思われていた名波が、完全にチームリーダーとして覚醒した大会だった。この大会もそうなることを祈ろう。もう一度言う、吼えろ俊輔、叫べ遠藤、怒れ中澤!チームはあとちょっとで、さらに一皮向ける。ただ、この一歩が本当に踏み出すのが大変な一歩なのだ。ただこれさえ踏み出せれば、日本はもっと、凄く先にいける。オーストラリアとの対戦は、そのまたとないチャンスではないか。

「波高かれ」と私は書いた。最高の波が来た。これを乗り越えなければ、先には進めないのだ。今とは違う明日へ行こうではないか。日本はまだまだチャレンジャーだろう?日本はまだまだ成長できるんだろう?日本はまだまだ強くなれるんだろう?明日はそれを証明する日だ。そのためにこそ、選手たちよ、殻を破れ!

それではまた。

03:56 PM [オシム日本] | 固定リンク

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