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June 05, 2007

粛々と、そして悠々と

みなさまお久しぶりです。いかがお過ごしでしょうか。

更新に大変間が空いてしまい申し訳ありません。最近めっきり更新しなくなっていたのは、公私にわたるバタバタが主たる原因ですが、実はその他にもいくつかの理由があります。

1)SoccerCastのほうで喋ってしまって、代表やサッカーに関するアウトプット欲がある程度消化できてしまうこと。
2)オシム監督が試合後の会見で、私の言いたい事をほとんど言ってしまっていること。
3)オシム日本の航路が、私から見るとほとんど問題がなく、その通り進んでくれればいいと思えること。

などなどがその理由になるでしょうか。

1)はまあ個人的事情なので置いておいて(笑)、お分かりの通り、2と3は密接に関係しています。私が日本代表にとって正しいと思うことと、オシム監督が実際にしようとしていることがほとんど乖離がないのです。

タイトルにつけた「粛々と」というのは、「大騒ぎせず、しかし着実に、代表を強化していくこと」という意味の言葉です。私はずっと、代表の強化というのは「粛々と」であるべきと思ってきました。オシム監督、トルシェと同様、私も代表における過度の「スターシステム」は、強化の妨げにしかならないと考えているからです。日本の進路がかかった重要な試合ならともかく、親善試合などでは「絶対に負けられない戦い!」などと大騒ぎせず、その時その時のチームの課題を解決するために、試合を「使って」いってかまわない。それが「粛々と」した強化、というものになると思います。

そして、オシム監督はまさにそれをしようとし続けていますね。いわゆる「海外組」を当初は呼ばなかった。代表戦への「集客」を考えれば、スターたる彼らを呼んだほうがいいのは自明です。しかし、一つには彼らをクラブでのプレーに専念させるため、もう一つは、まずは練習の時間の取れる国内組でチームのベースを作っておくために、彼らは最初は招集されませんでした。私はこれは合理的な考え方、やり方であったと思います。


チームがスターだ

それは、「チームがスターだ」という考えを、オシム監督もまた志向していることから来ているのでしょう。

欧州の有名クラブや代表などで、監督がインタビューをされる際、「○○というスター選手がいますが、彼をどう使いますか?」と問われると、よく出てくるのが「確かに彼はスターだ。うちの勝利にとって重要な存在だ。しかし、うちでは『チームがスターだ』。彼一人ではサッカーはできない。同じくらい、あるいはより重要なのは他の10人、チームのほうなんだ」という言葉です。これは組織サッカーを志向する欧州の監督にかなり共通した考えではないでしょうか。

オシム監督は会見で相当に強く、マスコミの「スターシステム」を嫌っているそぶりを見せていますね。マスコミは、コンディションが悪くても、チームにフィットしていなくても「スターを呼べ、使え」と騒ぎ立てます。しかし、、チームの強化のステップやその選手の状況などを考慮せずに無条件に使っていくことは、「チーム」の強化の妨げにしかならない。さらに言えば、「チーム」という微妙な存在に、「スターを使え」と騒ぐマスコミがどれだけの悪影響を与えるのか。経験豊富なオシム監督は、それもよく理解しているのでしょう。


チームのベース作り

そして、その「チーム」は、一朝一夕では作れないものです。有能な選手をぱっと集めてピッチに送り出したらそこにチームが出来上がっている、というようなことはありえない。ある程度時間の取れる国内組でたっぷりと試合前の練習でトレーニングさせ、さらに練習のためだけの合宿も行う。Jリーグに負担をかけながらも、あえてそのようにするのは、「チームは一朝一夕では作れない」からです。このような「あたりまえ」が、オシム監督によって粛々と実行されている。

そして、チームのベースが出来上がって初めて、中村や高原といった「現在好調の」海外の選手を、「少しずつ」招集し、合流させる。海外に移籍した選手たちは確かに高い能力を持っています。しかし、所属クラブで試合に出ていなかったり、怪我明けだったり、コンディションが悪かったりする時には、国内の選手以上のパフォーマンスが発揮できるわけではない。チームのベース作りに参加できていないからこそ、合流するのは現在好調の選手に限るべきだ。それも、一度に大量に入れ替えてはチームのベースが保てない。一度に試合に出場するのは、2、3人ずつにするべきだ。


あたりまえのこと

オシム監督はまさにそのようにしていますね。「チームがスターだ」「チームは一朝一夕では作れない」と考えると、「あたりまえ」のことなのですが、それがこのように粛々と行われているのは、代表強化にとっては正しい道だと、個人的には思いますね。他にも行われている「あたりまえ」のことは、

・下の世代の代表とコンセプトを共有し、若い選手もフル代表に参加させる
・候補合宿に、Jリーグで活躍する多くの選手を呼んで、代表の戦術に触れさせる

などがあります。また目立たないですが、

・招集している海外組の選手でも、全員を使うわけではなく、起用しないこともある

これも、マスコミの圧力(?)を考えると、実はなかなかの英断だと思います。かつてトルシェは、海外で活躍した広山を呼びながら起用せずバッシングを受けたことがありますが、思えばあれも世間のサッカーに対する無理解から来たものでしたね。モンテネグロ戦では中村俊輔だけでなく、中田浩二も稲本も使われませんでした。コンディションの問題もあり、試合の狙いもあったでしょう。いまではそれも「あたりまえ」と理解することができますね。


オシム会見~生きたグループとしてのチーム

オシム監督はこのように粛々と「あたりまえ」の強化をして行っている。私はこれを歓迎するものです。そして同時に、会見を通じてそれを極めてはっきりと、わかりやすく提示してくれています。「チームがスターだ」「チームは一朝一夕には作れない」、そして、特定の選手を持ち上げるだけの「スターシステム」は、時として強化の妨げになることもある・・・。これだけ代表監督がしっかりはっきりと言い続けてくれているのですから、私などが何を付け足すこともないと感じてしまいますね(笑)。

キリンカップ’07コロンビア戦前の会見では、また興味深いことを言っています。

オシム: 今回、20数人招集しているが、全員を出せるわけではない。3人くらい、2試合とも出られない選手が出てくる可能性がある。しかし、そういう選手を含めて、代表チームはできている。試合だけではなく、チームの一部として機能しているかどうかも私は見ている。(中略) 試合もそうだし、それ以外の代表の活動の中でも、選手の能力や個性というものは出てくる。そこで、必ずしも良いプレーをしなくても、必要な選手はいる。つまりプレーそのもの以外でも、重要な要素が存在している。生きたグループとしてのチーム、そういった必要な要素を選手たちは持っているか。サッカーのプレーさえできればいい、という話ではないのだ。

男がほとんどの40人以上の集団が、一定期間こもって生活する「代表チーム」という存在の心理マネジメントが、いかに難しいか。ドイツW杯本大会では、まさにその「生きたグループとしてのチーム」に関して、「プレーそのもの以外での重要な要素」にいささかの問題があったのではないか、ということが語られていましたし、最近では重要な証言もまた出てきたようです。オシム監督はそういった要素の重要性を理解し、少なくともそこに取り組もうという意欲を持った監督ですね。この点も、私が歓迎したいと思うポイントのひとつです。


粛々と、そして悠々と

モンテネグロ戦、コロンビア戦も、こういった「粛々とした強化」の一環です。課題があり、狙いがあり、そして成果もあり、おそらくは次の課題もでることでしょう。代表チームのスタッフにはそれをしっかりと(粛々と)実行し、また次へのプランを練って、着実に強化をしていって欲しいですね。そして私たちも、その狙いを理解し、その上で代表の強化ぶりを論じていきたいものです。

そうそう、モンテネグロ戦は98年以来最低の観客動員となったそうですね。私はむしろちょっと意外でした。96年くらいから代表バブルが始まったと思っていたので、96~98年の間にモンテネグロ戦よりも集客の悪かった試合があったとは思いませんでした。いずれにしろ、96(マイアミの奇跡)~06(ドイツW杯)の間の「代表ビジネスモデル」はもはや終焉を迎えていることは明らかでしょう。金曜の夜の静岡で、あのチケット値段での、親善に過ぎない試合に、無条件で観客が集まると考えるほうがどうかしています。まあ、これから重要な試合が増えてくればまた盛り上がるでしょうけどね。

普段は粛々と、そして重要な試合では魂をこめて、それがノーマルなんですよ。

それではまた。

02:18 PM [オシム日本] | 固定リンク

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