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February 13, 2007

オシムと俊輔

Number誌671号「日本サッカー2007年の設計図」のなかに、杉山茂樹氏がオシム監督にインタビューをしている記事があります。題して「あえて率直に言わせてもらう」。杉山茂樹氏といえば、例の4−2−3−1を絶賛し、フォーメーションを過剰に重視するライターさんですね。「問題は3か4かではない」というオシム監督とは相性が悪いだろうと思っていたのですが、この記事ではオシム監督と何かが上手くかみ合っているようで、なかなか興味深い記事になっているのが驚きでした。

この中でオシム監督は実に多岐にわたることを語っていますが、核心とも言える「中村俊輔選手について」も、言葉を尽くしています。一読すると、オシム日本代表に中村選手を呼んだ場合の問題点を列記してあるように取れるため、一部では「オシムは中村起用に消極的なのではないか」という推測が出はじめているようです。しかし、これは正しくない読み方だと私は思います。


人生の二つの顔

オシム監督の語りの特徴は、「人生に存在する<二つの側面>について理解して欲しい」という態度だと思います。サッカーはもちろん、人生のあらゆる問題において、AかBか、0か100かで割り切れることはほとんどない。そこには常にメリットとデメリットがあり、正しさと別の正しさが、せめぎあっているものだ。しかしジャーナリストは「Aですよね?」と聞いてくる。それに対しては「Bの側面も考えられないだろうか?」と返す。「Bに決まってますよね?」と聞けば「いやいや、Aの側面もある」と返してくる。それがオシム監督がずっととってきた態度です。

それを理解してこのインタビューを読むと、ただ

A)俊輔を呼んだ場合のメリットとその根拠
B)俊輔を呼んだ場合のデメリットとその根拠

を列記し、

前者A)が後者B)を上回っていれば、起用する

という一般論を述べているのに過ぎないということが分かるでしょう。

オシム: もしポジティブな材料が多いと判断されれば、中村はチームの一員に加われるだろう。

ただ、世間一般には中村を待望する意見があることを、勉強家のオシム監督はよく知っており、それゆえにA)の呼んだ場合のメリットについての言及は控えめになっているのかもしれません。あるいはそこは、「呼ぶべきだ」と主張したいジャーナリストがが立証するべき部分だ、ということでしょうか。

オシム: 今考えなければならないことは、中村という選手を呼ぶ意味だ。あえて率直に言わせてもらおう。彼は日本代表に何をもたらすのか。それによって何を浪費するのか。

ここでも彼は、答えを出していませんね。もちろん、まだ呼ばれていない、テスト起用もされていない状態ですから、答えが出ていないのも当然です。が、それと同時にオシム監督は、「考えるのは君たち自身なんだよ」と言っているようにも思えます。呼ぶべきと言うのでも、呼ぶべきではないと書くのでも、そこの両方の視点を持って、比較の上で考えないといけない。そういうメッセージ。こうしてどんどん、考えるジャーナリストと、そうでないジャーナリストが選別されていくのかもしれませんね。


中村俊輔をどう使うのか

これは、そのNumberの記事中にそのままあった段落タイトルです。中では、中村について、そして起用した場合の構想について、非常に率直にオシム監督は評しています。

オシム: かつてに比べれば、走るようになっている。良いプレーも見せている。しかし、守れない。彼中心にチームを作れば問題が生じる。

興味深いですね。今期の中村選手のプレーの変化をオシム監督は見て取っていますが、同時に「守れない」と言う。本当でしょうか?個人的には、彼の守備の意識も相当に向上してきているように見えているのですが・・・。もしかすると、あえて課題を強調しているのかもしれません。彼がこういう言い方をするときは、インタビュアーが一つのA)に偏りすぎているように見えるから、という可能性がかなりあると思えます。

それはさておき、それに続く、中村選手を起用した場合の構想がまた興味深いものです。オシム監督は中村選手を起用した場合、その特質のために、5人の選手が必要になる、と言っています。

1) サイドを駆け上がるスペシャリスト
2) クロスにあわせるセンターフォワード
3) 逆サイドでサイドチェンジのボールを受けるフォワード
4) 中村の背後をカバーするフィジカルの強い選手(鈴木や阿部)
5) サッカーゲームをよく知っている選手(遠藤や憲剛)

私は、ほうほうとこれを読みながら、同時ににやりとしてしまいました。だって今の代表チームには、この5人の選手はすでに存在しているじゃないですか?つまり、これは「今の代表チームなら、中村選手を活かせるよ」といっているのと同じことだと私には思われるのです。もし私がインタビュアーだったら、「それなら今のチームは中村の受け入れ態勢が十分ですね?」と突っ込んだでしょう。まあ、また「いやいやBの考え方もある」とはぐらかされたでしょうが(笑)。

例えば2006年ドイツW杯でのフランス、ジダンを活かすためにその周囲には、マケレレやビエラといった4)の選手、あるいはスピード豊かにボールを受け、敵に強烈なプレスをかけていくリベリーのような選手が配されていましたね。そのようにタイプの違う選手を組み合わせて配置することは、サッカーのチーム作りではむしろ常道ともいえることでしょう。ここではオシム監督は、そのようにする、という当たり前のことを言っているだけなのじゃないかと思えるのです。


オシムのタイポロジー

関連して、少し前ですが西部謙司さんが興味深い記事を書かれています。「オシム式タイポロジーの考察」。タイポロジーとは「類型論」で、オシムジャパンでの選手起用はどんなタイプに分けられるか、ということを考察したものですね。オシム監督の選手起用は「ポリバレンス」を重視し、単純にボランチとか、トップ下とかの言葉では言い表せないもので、このようなタイプ分けによる分類は意義があることでしょう。西部さんのこの記事に対する私の意見は一回掲示板のほうに書いたのですが、この杉山氏のNumberの記事を受けて、またさらに考察が深まる部分も出てきたので、ここで見てみたいと思います。

まずそのタイポロジーですが、西部さんの分類に従うと、サウジ戦はどうなるのでしょう。

Saudi

Sauditypo

他は大体しっくりくるのですが、我那覇はターゲットなのかセカンドトップなのか、というところが少し分類しにくいですね。まあ無理やり分けなくても、その中間ぐらいというところで、問題はないでしょう。

もう一つ興味深いのが、MF1と分類されている憲剛と三都主です。MF1の説明はこう。

 ▼MF1=ボランチタイプを置くこともあるが、より攻撃的なタイプを使うこともある。用兵的には変化を出しやすいところ。いわゆるエクストラキッカーを起用することも。代表では遠藤保仁、三都主アレサンドロ、長谷部誠、中村憲剛など。千葉ではクルプニコビッチなど。

西部さんは「変化を出しやすいところ」としていますがむしろ、「タイプ分けが異なる」と考えたほうがよいのではないか、と思います。これまでの日本代表の試合を見ると、中盤の一人はボランチ2(鈴木)ですが、一人は「ボランチもOMFもできるタイプ」、いわばCMF(セントラルミッドフィールダー)を起用していますね。オシム監督がNumberで言うところの「サッカーゲームをよく知っている選手(遠藤や憲剛)」です。そしてもう一人の枠に三都主が入ってくるか、羽生や山岸が入ってくるか、と見たほうがわかりやすいのではないか、と思います。

羽生や山岸は西部さんのMF2と見たほうが良いですね。しかし三都主はMF2には当てはまりそうにありません。

 ▼MF2=前線へ早いサポートのできる選手。千葉の羽生直剛が典型。中東遠征で抜擢された大分トリニータの梅崎司もこのタイプ。オシムサッカーの攻撃のスピード感を最も体現しやすいポジションでもある。

こうして見てみると、OMFとして起用されるときの三都主は、ただ一人特別なポジションを与えられているように見えます。もちろん守備は要求されているのでしょうが、それにしても羽生ほどの運動量はない。明らかにタイプが違う。MF1のようにボランチもできる、わけではない。しかしOMFとして起用されている。いわゆるエキストラキッカーとは、こういうタイプのことを言うのではないでしょうか?仮にこれをEX(エキストラキッカー)としてみましょう。

ここで私が興味深く思うのは、オシム監督は中村俊輔選手を先のタイプ分けの「MF1」として考えていない、ということです(Numberの記事でそれは明らかになりましたね。ついでに言えば、中田ヒデ選手もMF1では「ない」ということのようです)。海外組のMFで言えば小笠原、稲本といった選手達は、まさにこちら、ボランチもできるMF1=CMFのほうに分類される選手だと思います。しかし、中村選手は違うとオシム監督は認識しているようです。

個人的には、そしてNumberの記事を読むにつけ、中村選手、松井選手は、「EX」というタイプとしての起用になるのではないか、と思えます。それであれば、そのポジションに入ったときの三都主選手と少なくとも同等か、それ以上のプレーを見せてくれることは確実でしょう。チームにはすでに先に掲げた「一人のスーパーな選手を活かすために走り回る5人の選手」が配置され、熟成を深めています。これはまさに、「中村選手を迎え入れるための器を作っておいた」と言ってしまったら言いすぎでしょうか?

Typology

その他、西部さんのタイポロジーに従うと、海外組では図のセカンドトップ(ST)に高原、V1に中田浩二あたりが起用されそうですね。それ以外にレギュラーを取っているのは稲本と松井くらいでしょうか(オシム監督は、海外リーグに所属していても、チームでレギュラーでなければ招集しないと言っていますね)。松井は今必ずしも調子がいいとは言えないようですが、稲本はどうでしょう。MF1での起用があるかどうか?いずれにしても、「時間の取れる国内組でベースを作り、そこに調子のいい海外組をトッピングする」ということになりそうで、これは合理的な強化法だと思います。

さてさて、海外組招集、その融合がいつ、どのようになされるのか、楽しみでもあり、気になるところですね。

それではまた。

04:56 PM [オシム日本] | 固定リンク

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