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February 18, 2007

もちろん、まだ走るんだ

オシム日本の2007年初合宿の代表候補選手が発表された。すでに各所で話題になっている通り、今までと違う、非常にユニークな部分もある選考で、「オシム監督もまったく『守り』に入らないな」と、私などにはうれしくなる選考だった。しかし同時に、そのユニークさからか、すでに批判も出ているようだ。

日本代表は日本のサッカーファン全体の関心事であり、常に見守られ、場合によっては是々非々で批判されるのは当然でもある。しかし、その批判があまりに性急であったり、的外れであったりすると、日本代表の強化にとってあまりよろしくないこととなるだろう。現在いくつかのBLOGなどで出ている、選手選考に関するオシム批判は正当なものなのだろうか?今回はそこを少し見てみたいと思う。


コンセプトを理解した選手たち

まず第一に、私は「選手選考は代表監督の専権事項である」と思っている。私好みの選手や、私が使うべきだと思っている選手が選ばれる/選ばれないということによって、その監督を支持したり、逆に批判したりするつもりはない(過去にもしていないつもりだが、もしどこかでしていたら申し訳ない)。もちろんこれは私の考えであって、違う流儀もあってかまわないことだが、少なくとも現在までのオシム監督の選考に関しては、私には基本的に納得できるものが多いとも思っている。

例えば、オシム監督が率いていたジェフ千葉の選手が多いということに関して、私は「当然だろう」としか思わない。どんな監督にも「自分流」があり、それを早く代表に浸透させるためには、そのやり方を理解した選手を多く選ぶのは当たり前のことだ。ジーコ監督も最初の試合に秋田、名良橋(ともに鹿島)をピッチ上に送り出し、それを1年継続した。トルシェ監督は自分のやり方を浸透させやすかったナイジェリアユース組をその後も重用した。

秋田や名良橋が選ばれたときには「彼らは2006年のドイツのピッチにはいないだろうから意味がない」という批判があり、2000年のはじめ、ナイジェリア組が重用され始めたときには「Jのピッチで実績のない選手がなぜ代表に?」という批判があった。しかし、その後の経緯を見れば、それらの批判は的外れだったことがわかるのではないだろうか?

オシム監督にとってのジェフの選手たちも同じことだ。これまでの代表戦を見ても、やはりボールを奪った瞬間の走り出しは彼らに一日の長がある。あるいは体を張ったポストプレーや、前線からの守備で巻を上回る選手はいない。それらを重視するオシム監督が彼らを選ぶのは当然だろう。そして、それはジーコ監督が「ブラジル流4バックの理解度」を尺度にした時、トルシェ監督がフラットスリーやオートマティックなパス回しの体現度を基準にした時と同じ、まったく普通のことだ、と私には思えるのだ。


メディアリテラシー

今回の合宿には、川島(川崎)、林(流通経済大学)、相馬(浦和)、矢野(新潟)といった、Jリーグで必ずしも高い実績を上げたとは言えない選手が選考されている。これについては、オシム監督の「海外組でもレギュラーでなければ呼ばない」といった発言と矛盾しているのではないか、という批判はできるだろう。

ただ個人的には、その発言は「海外クラブ所属だからといって無条件で選ぶことはこれからはしない」という、いわば「優遇の否定」をしただけであって、「Jリーグ所属の選手を出場実績を基準にして選ぶ」ということを言ったわけではないと思っている。

もちろん、代表に入る選手はリーグで十分な実績のある選手が基本となるだろうが、「そればかり」でなくてはならないわけではない。今回の招集に関するオシム監督の発言は、こちらの報知新聞では

 ―初招集は?
オシム監督: 2~3人いると期待してもらっていい。ただ、初招集とはいっても新人という意味ではない。Jリーグで実績のある選手を呼ぶ

と、あたかも「実績を基準にして選ぶ」と言っているかのように書かれているが、サンスポでは

 オシム監督: 新しい選手? それは実績のない選手、Jの新人という意味ですか? それならないです。初選出という意味であれば2、3人の期待はしてくれていいと思います

「Jの『新人』は選ばない」ということを言っているに過ぎないことがわかる。

「Jリーグの実績を基準にして選ぶ」
「Jリーグの新人を選ぶつもりはない」

この両者はまったく違うのは自明だろう。これは、オシム監督が「新しい人を選ぶのか?」という言葉に対して皮肉を浴びせているだけだ、ということは、そろそろ日本代表をしっかり見ている層にはわかってきていることだ。こういうことは、記者の切り取り方によって意味がまったく変わってしまうので、読むメディア、あるいは切り取り方を注視していかないといけないだろう。


かつての「期待枠」たち

2000また、再び昔語りをするならば、ジーコ監督がはじめて加地を選んだときも、加地は必ずしもJリーグで豊富な経験を持っているわけではなかったのではないか?所属のFC東京では、むしろ徳永(大学生でもあった)のほうが優先的に起用されていたような状態だった。あるいは、先にもあげた2000年当初のトルシェ代表では、例えば中田浩二はボランチでさえ鹿島のレギュラーではなかったのだが、フル代表のCBとして起用されていた(左図は2000年2月のカールスバーグカップvsメキシコ戦)。

「Jリーグでやっている他のアウトサイドはそんなにダメなのか?」「Jリーグでやっている他のCBはそんなにダメなのか?」ジーコ監督が加地を、あるいはトルシェ監督が中田浩二を重用し始めた時、このような批判が多く投げかけられた。しかし、三代続けて代表監督がこのようにしているのは、どういうことなのか、そろそろ考えてみてもいいのではないか?時として、クラブでのパフォーマンスよりも、代表のコンセプトに合うかどうかのほうが重要なこともあるのだ。

オシム日本でも、横浜Fマリノスの山瀬が選ばれたときは怪我から長期にわたる欠場が続き、ようやくその直前のリーグ戦で先発出場を果たしたばかりの状態だった。実績がないという意味では、今回の川島や矢野とそれほど変わらない。しかし私は、その時の代表監督が自分の戦術やコンセプト、方針に合うと思えば、経験が浅かろうとその選手を選べばよいし、起用すればよいと思う。そうすることで2006年の加地のように、あるいは2002年の中田浩二のようになる可能性がある(オシムの目から見て)のであれば、何が問題だというのだろう?


ホームサウジ戦までと、これから

さて、さらにもう一つ、今回がこれまでと、そしておそらくはこれからとも違うのは、これが「試合なしの合宿だけ」の候補メンバーであるということだ。ジーコ監督時代はなかったが、トルシェ時代にはかなりの回数あり、例えば2001年2月には45人(!)のメンバーを集めて、ほぼ「選考合宿」に近いものが行われている。今回、五輪代表が選べない中で、28人選んで行われているこの合宿も、その色が濃い、と思う。

また、この時期にそれが行われるのには理由があるだろう。実は昨年のオシム日本は、就任2試合目から、アジアカップ予選という一応にも公式戦を戦わなくてはならなかったのだ。純然たる親善試合は2試合のみで、残りは公式戦。もちろんアジア相手ではあるにしろ、構築中のチームでは足元をすくわれる可能性もある。その中では、新しい選手を試すとしても限定的にならざるを得なかっただろう(それでも相当新しい選手を招集していたが)。今回、ようやくその枷が外れたのだ。

リーグ戦で出場機会が少ない選手は、試合を戦うコンディション、試合勘という点で、バリバリ出ている選手にはどうしても劣る。そういう選手を昨年起用することは難しかった。しかし、開幕前のこの時期ならば、横一線で並べ、見極めていくことができる。そのことも考慮されているのではないだろうか。


「三都主よりいい選手」?

選手一人ひとりを見ると、川島、矢野は年代別代表歴もあり、林も含め「期待枠」としては妥当だろう。この辺の選出には、コーチ陣の意見も反映されただろうと個人的には想像している。矢野は、大型で体を張ったポストができ、守備も精力的にするという点で、「巻タイプ」としては貴重だという意見もある。相馬も期待枠だろうが、私としては実はちょっと意外。もっと守備をするタイプをオシムは好むのではないかと思っていたからだ。が、その辺の手綱さばきが興味深いところでもある。

ちなみに、「三都主の代わりの選手」について聞かれたオシム監督は「三都主よりいい選手を選ぶ」と語ったと一部報道(先にもあげた報知)ではなっているが、こちらでは

オシム監督: 誰かの代わりというより、誰かよりもいい選手がいると期待した方がチームはよくなります

という「一般論」を語っているに過ぎないこともわかる。「誰かの代役は?」という聞き方は、選手に失礼だから止めて欲しい、というやんわりとした諌めでもあるだろう。

オシム監督はこのようにさまざまな理由で一般論を多く語るのだが、スポーツ新聞はそれを「ある目的を持って」切り取っていく。それに踊らされて「相馬のどこが三都主よりいい選手なんだ!」と言っても仕方がないことだ。以前から言われていることだが、私たちも「売らんかな」のスポーツ新聞に対するメディアリテラシーを、もっともっとしっかり持つことが必要だろう。


あわてないあわてない

私は現時点ではオシム監督を支持している。理由はすでに述べたように、私が代表監督に望む多くの条件を満たしているからだ。また昨年のホームサウジ戦で見せた試合内容も立派なものだった。ただ、だからと言って完全にフリーハンドですべてを丸投げしていいというわけでもないのは、もちろんのことだ。しっかりと注視し、是々非々で考えていかなくてはならないだろう。サポーターだって「考えて走ら」なくては、オシム日本においていかれてしまう(笑)。ただ、今回の選手選考は私には特段問題のあるものには思えないのだ。

選手選考は代表監督の専権事項。私たちよりも自分のコンセプトに(もちろん!)精通し、どんな選手が必要かを知り抜き、そして私たちには知りえない選手に関する情報を多く持っている監督の人選を、とりあえずは信頼して任せてみてもいいのではないか。まだ就任1年目、ジーコ監督で言えば2003年、当時は2試合しかこなしていなくて、この時期合宿もしていなかったんだよ?

それではまた。

10:38 PM [オシム日本] | 固定リンク

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