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February 21, 2007「素直なチーム」か?
北京五輪アジア予選壮行試合 U-22日本代表vsU-22USA代表 0-0
昨年はさまざまな事情もあり、選手をとっかえひっかえして戦っていた反町U-22ですが、二次予選の始まる今年になってようやく、「ベストメンバー」を組めることになったようです。その、やや新しいチームを組んでのはじめての戦いが、この試合になるわけです。
メンバーを見ると、ほとんどの選手がもうJクラブでもバリバリの中心選手で、攻撃陣にも魅力的な選手がそろっており、誰を起用するか迷うほどです。メンバーの特徴としては、本田圭、水野、家長など、サイドの選手に名手が多く、逆にいわゆる「レジスタ」というか、低目からゲームを作る選手や、アンカーボランチ(バイタルエリアを主戦場とし、守備に長けたボランチ)のタイプがやや少ないように感じました。あとはもちろん実績のあるFWも、多くはないですね。
さて、vsUSA戦では、反町監督は3-4-3という布陣を送り出しました。李が帰化したことによって3トップを組みやすくなったためか、USAが4-4-2だから、2トップとのマッチアップで3バック、4バックのサイドバックを押し下げるために3トップ、という「相手に対応した」計算でこの布陣を選んだのか、ちょっとわからないところですね。
--李--平山--カレン- ------------- 本田圭-本田拓-梶山-水野 ------------- --水本-伊野波-青山-- ------------- -----松井------ |
いきなりオープニングシュートは平山。DF青山から李を狙ったロングフィードのこぼれをダイレクトで、今年になって「絞った」という体のキレを感じさせる、低く抑えたいいシュートでした。
3トップの3人は、お互いの距離感もよく、ロングボールをよくものにして、そこから前線で細かい崩しで何度かチャンスを作っていくこともできていました。3人に梶山がよくからんで、パスから平山が抜け出して惜しいシュート(GKがはじき出す)などもありました。集まってからの練習でやったという「ゴール前での5メートル、10メートルでの動きの質」に関しては、確かに向上した部分もあったと言えるでしょう。
反町監督: バイタルにボールが入ったときに、5メートル、10メートルの質を上げていくことがアジア大会ではうまくできなかったので、今日トレーニングしました。
ただ、試合前会見で反町監督が「昨年はできていた」と語ったサイドアタックですが、この試合ではいまひとつ機能していなかったという感が強いですね。せっかく水野、本田圭という攻撃的なサイドの選手を起用しているのに、彼らを生かす攻撃が少なかった。DFラインからのロングボールを3トップに渡して、後は3人で、というようなプレーが多かった。しだいにUSAも3トップの動きに慣れ、日本のMF陣の押し上げも遅いので、ロングボールを入れてもキープできなくなっていきます。
やはりこの4人の中盤、+この3トップだと、マイボール時のパス回しにどうしても難がありますね。DFラインでまわしていてもボランチが顔を出さない。サイドが2人、3人に寄せられて苦しんでいても、パスコースを作る選手がいない。真ん中でワンクッション、ボールを持てる選手もいない。そうなるとどうしても、中盤で持ってからサイドへ、という形はできなくて、いきなり3トップへのロングボールが多めになってしまっていましたね。
ペースを奪われることと、奪い返すこと
それでも前半は、五分以上の攻撃ができていたと思うのですが、後半になってUSAが前への圧力を強めるとペースを握られます。ガツガツとフィジカルコンタクトして来て、ちょっとボールコントロールがぶれたところを奪われていってしまう。日本の選手としては、やはりもう少し早いパス回しをしていかないと、ボールを保持することもままなりませんね。後半開始からしばらくはUSAの時間が続きました。
反町監督はカレンに代えて増田(鹿島)を投入。カレンの疲労もあったでしょうし、「組み合わせを試しておく」という意図もあったでしょう(この試合の選手交代は、そういう「同タイプ」交代が多かったですね)。と同時に、やはり「3トップと中盤のつなぎ」のてこ入れをしようとしたのではないでしょうか。しかし、それはあまり機能したようには見えませんでした。
その後、本田圭に代えて家長を投入。家長は高い位置で強引にドリブル突破を図ります。これこそが攻撃的サイドを起用する意味であって、そうすることで敵が警戒し、簡単にはあがって来れなくなる。そのあと水野も自分で突っかけるドリブルからすばらしい切り返し、ポストを叩く惜しいシュート!USAに疲労もあったでしょうが、この時間帯は先手を取って、日本が攻撃に出ることができていました。
その後李アウト、苔口イン。本田拓アウト、谷口イン。その他にも平山のクロスバーを叩く惜しいシュートもあって、これは明日の新聞の見出しはまた「決定力不足」かな、というところですね。ただ、バーやポストもあり、また前半の枠内ミドルなどはGKを褒めた方が良いようないいシュートでした。そういう意味では、再スタート1試合目、敵はアジアレベルよりも強いUSAということもあり、攻撃面では少しはやりたいこともできた、特に練習したことは、とは言えます(下図は最後の布陣)。
--増田-森島-苔口-- ------------- 家長--谷口--梶山-水野 ------------- --水本-伊野波-青山-- ------------- -----松井------ |
一夜漬けじゃないはず
試合終了後の監督インタビューでは、今回はここまで守備を練習していなかったとのこと。そのためサイドで数的不利になって攻められた、というようなことも言っていました。それに加えて、チーム全体でのチャレンジ&カバーとか、どこで奪いに行くか、などの戦術意識の統一ができていないようにも見えました。人数はそろっているのに、平山を除く全員が自陣のディフェンディング・サードに入る必要はない。誰かがアプローチに行かないと。
直前練習でやったことはできて、ちょっと置いておいたことができなくなった。実に素直なチームと言うべきなのでしょうか?
そういう意味では、「チーム全体に浸透しているはずのDF戦術の基本」が、やや揺らいでいるようなのが気になりますね。このメンバーが集まったのは初めてかもしれませんが、ピッチ上のメンバーは何度かは合わせたことのある面子のはず(李を除く)。まあ、反町さんも「課題が出たほうがいい」と言っているので、むしろよかったと思っておくことにしましょう。
それにしても、個人的にはやはりもう少し攻守の切り替えの速さを見たいし、ビルドアップの効いたサイドアタックも見たい。それは昨年できたはず、ということであれば、次の予選の試合(2/28vs香港戦)ではしっかりと、修正して見せて欲しいですね。もちろん、選手たちもみなその点,、特にビルドアップが課題と認識しているようです。わかっていれば、向上もしやすいはず。あと1週間、いい強化をして、香港戦に臨んで欲しいですね。
それではまた。
11:39 PM [北京五輪代表] | 固定リンク | トラックバック (4) |
February 20, 2007考えて、前進する
オシム日本の2007年頭合宿が終わりました。ジーコ時代にはコンディショニングなどが主となっていた代表の年頭合宿ですが、今回は戦術練習と練習試合が主で、内容的にも興味深いものとなっているようです。
オシム監督: 何か私の言うことを理解し始めたという感じはした
あのひねくれものの(笑)オシム監督がこのように言うとは、ちょっと意外ですね。本当に手ごたえを感じているのか、また記者が切り取っているのか。前者であることを祈りたいところですね。
さて、合宿では、16日と19日に大学チームと練習が行われました。あくまでも練習試合ですから、布陣とかも「狙いがあって」しているもの、そのままペルー戦のピッチに送り出されるとは限らないわけですが、興味深いのでちょっとまとめておきたいと思います。
新顔が輝いた?(16日)
16日はまずvs流経大戦です。選手の組み分けの条件は
・両方が同じくらいの実力になること ・新しい選手が偏らないこと ・どちらが先発で控えかわからないようにすること |
ということなので、ここでの組み合わせや起用法が今後に大きな影響を与えるというわけではやはりなさそうです。スタートの布陣は3-5-2。
--我那覇--播戸--- -----野沢----- 相馬-啓太--憲剛-加地 -今野--闘莉王-阿部- ------------ -----山岸----- |
このメンツにプラス橋本、矢野、川島というメンバーだったとのこと(加地・相馬以外の選手の左右はわかりません)。
流経大にカウンターから点を奪われると、途中から4バックに変更。今野が左サイドバックに。相馬を前に押し出します。相馬の守備力をカバーしようということでしょうか。ただこういう指示がベンチから出るのはオシム日本では珍しいですね。たいていは選手同士で話してバックの人数を加減していたように思うのですが・・・。なんにせよ、対応力、柔軟性があるのは良いことですね。
--我那覇--播戸--- --相馬----野沢-- ---啓太--憲剛--- 今野-闘莉王-阿部-加地 ------------ -----山岸----- |
啓太→橋本、播戸→矢野と交代して
--我那覇--矢野--- --相馬----野沢-- ---橋本--憲剛--- 今野-闘莉王-阿部-加地 ------------ -----山岸----- |
ガンバのユーティリティープレーヤー橋本は、啓太のバックアップに名乗りを上げられるでしょうか?個人的には非常に期待しているのですが・・・。
後半途中から我那覇→播戸、野沢→啓太と交代(たぶん憲剛を一列あげて)
---播戸--矢野--- --相馬----憲剛-- ---橋本--啓太--- 今野-闘莉王-阿部-加地 ------------ -----山岸----- |
こんな感じだったようです。相馬の2列目(完全に三都主と同じ扱い?)、今野のサイドバック、2トップの組み合わせ(ポスト+セカンドストライカー?)などは興味深いですね。
二本目、筑波大との試合は4-4-2でスタート。これプラス林、寿人、藤本というメンバー(これも選手の左右はわかりませんが)。巻と高松の2トップの組み合わせも見てみたい。
---巻---高松--- --山岸----羽生-- ---勇人--遠藤--- 駒野-中澤--坪井-隼磨 ------------ -----川口----- |
後半から山岸→藤本
---巻---高松--- --羽生----藤本-- ---勇人--遠藤--- 駒野-中澤--坪井-隼磨 ------------ -----川口----- |
「彼(藤本)は右サイドを次々とえぐって決定的チャンスを作」ったようです。彼はレフティーですが、やはり右での起用がメインなのでしょうか?えぐってチャンスを作るというところは、西部さんタイポロジーでいう「MF2」(前線へ早いサポートのできる選手)的なイメージも感じますね。
この日の練習に関するコメントは
オシム監督: 初めて呼んだ選手を含め、全員がやる気を出して戦った。戦術的にも走る部分でも大変いい試合をした。矢野(貴章=新潟)のハットトリックに関しては何ゴールというのは今の時期、あまり大事じゃない。が、競争がますます激しくなったという意味ではいいこと。私の選択肢が増えたということだ
浸透していくコンセプト(19日)
19日の練習試合は東海大と2試合。一試合目の先発は4-4-2のようです。
---高松--巻---- --相馬----遠藤-- ---阿部--勇人--- 橋本-闘莉王-坪井-加地 ------------ -----山岸----- |
橋本のサイドバック。クラブでもアウトサイドで起用されることもあるし、今年サイドバックも練習し始めていると聞きましたが、興味深いですね。また、阿部が代表でのボランチをするのはもしかして久しぶりでしょうか?
途中で痛んだ阿部に代わって播戸。播戸はOMFに。こんな感じ?報道では「サイド」となっていて、かなり2列目は張り出してプレーしていたのかもしれません。
---高松--巻---- 相馬--------播戸 ---遠藤--勇人--- 橋本-闘莉王-坪井-加地 ------------ -----山岸----- |
前日に練習していたという「数的有利を作ってのサイドアタック」は、アジアカップに向けてかなり重要なようです。播戸や寿人がサイドで起用されたのも、そこに意図があるのでしょうね。
後半はGKに林が入ったようです。
2試合目は、4-3-3(?)。これはちょっとこれまでみたことがない形でしょうか?
山岸--我那覇---寿人 --野沢----藤本-- -----憲剛----- 駒野-中澤--今野-隼磨 ------------ -----川口----- |
4バック、1ボランチ、3トップとは、かなり攻撃的ですね。まあこの辺は、移動便の都合で起用できる選手を決めたと言いますから、あまりペルー戦への参考にはならないでしょうけれども。水を運ぶ選手は足りているのか、ちょっと聞いてみたくなりますね。
川口がふくらはぎを傷め、川島に交代。矢野も途中から出場したようです。この布陣での試合が
山岸: 試合を見てもらえば分かるけど、ワンタッチ、2タッチでパスを回して、動きながらのサッカーができていた。みんなが少しずつオシムさんのサッカーを理解しているということ
と振り返られる、だいぶ内容の良いものだったようです。藤本や野沢、寿人あたりが活躍してそういう内容だとすると、コンセプトを理解した選手の底上げができ、オシム監督が悩むような状態になりつつあるのかもしれません。いいことだと感じますね。
アジアカップはもうすぐそこ(活動日的には)
興味深いのは、練習試合では4バックが多かったこと。大学生側が1トップが多かったからでしょうか?オシム監督のチームは、敵の出方によって最終ラインの人数を変えることは今では良く知られていますね。さて、ペルー戦はどうなるでしょうか。
今野、橋本のサイドバック、相馬の2列目起用も増えましたね。こちらも面白い。播戸や寿人の外での起用は、今後に続いていくのかどうか?いずれにしろ、ポリバレンスという考え方は、すっかり定着しました。
この合宿の成果が、どのようにペルー戦へ、その選手選考に現れてくるのか。そしてアジアカップへの道筋はどのようなものになるのか。楽しみになってきましたね。
オシム監督: あとは試合直前にしか選手を招集できない。準備はもう終わりました
今日は簡単なまとめでした。それではまた。
06:31 PM [オシム日本] | 固定リンク | トラックバック (1) |
February 19, 2007書評「オシムが語る」
昨年後半から今年にかけて、オシム監督関連の出版ブームが凄かったですね。本屋に行けばオシム本だけで一つの棚ができるほど。おそらくはドイツワールドカップの失望から、もう一つはオシム監督が「言葉」を縦横に操る監督であるために、文章で描きやすかったという理由もあるでしょうね。しかし、数多いだけに玉石混淆、オシム監督の名前を出しただけの「いかがなものか」な本もあるように思います。その中では、本書は「オシムの言葉」「イビチャ・オシムの真実」と並ぶ、良書と言うことができるでしょう。
「オシムの言葉」は今では定番、過不足なくオシム監督を描き出している名著ですが、先に紹介した「イビチャ・オシムの真実」はより深く、オシム監督のルーツに迫ることができる本でした。そして本書は、「サッカー以外」についてもオシム監督が言葉豊かに語っているという点で、それらと違い、また新しいオシム像を描き出す興味深い一冊となっています。
「パスタなんか料理じゃない」「インターネット嫌いの理由」といった柔らかい(?)ところから、サッカーと資本主義、スポーツ・ジャーナリズム、サッカーとナショナリズムに関する深い議論、そして「国境は宗教よりも危険なものだ」「私が実践しているのはアナーキズムだ」「実を言えば、私は無心論者だ」などといった、ある意味センセーショナルな発言、さらにはクリントン、チェ・ゲバラ、チトー、ゴルバチョフ、ベルルスコーニ、マンデラ等の政治家に対する率直な批判、あるいはイスラム教や、9・11テロに関する、大胆な意見の表明などなど・・・。
これほどまでに多岐にわたる内容について、サッカーの監督が深く語っているインタビューを私は見たことがありません。それも、やはりあの戦争を経験したオシムだからこそ語れる、深い透徹した目線で。環境の違い、年代の違い、国の違いもあり、私個人とは意見が違うことも多いのですが、でありながら、いやだからこそ実に興味深い、考えさせられる内容です。
例えば、本書には全体として、前回書いた「人生に存在する<二つの側面>について理解して欲しい」という態度が貫かれています。オシムの立場からすると一方に肩入れしてもおかしくない、ミハイロビッチの問題にも、その逆の側面であるシュティマッツの例をあげています。巻末の木村さんのインタビューでも触れられていますが、ここまで人生の両面をしっかり見ようという態度には、私は感銘を受けました。
それにしてもオシム監督は今の日本社会について、どう見ているのでしょうか。サッカーだけではない、彼のそういう考えを、もっと読みたいという気にさせる、そういう本でした。
オシムファンで、もっとオシム監督の考え、話をいろいろ聞いてみたいという方にお薦めです。
それではまた。
11:57 PM [書籍・雑誌] | 固定リンク | トラックバック (0) |
February 18, 2007もちろん、まだ走るんだ
オシム日本の2007年初合宿の代表候補選手が発表された。すでに各所で話題になっている通り、今までと違う、非常にユニークな部分もある選考で、「オシム監督もまったく『守り』に入らないな」と、私などにはうれしくなる選考だった。しかし同時に、そのユニークさからか、すでに批判も出ているようだ。
日本代表は日本のサッカーファン全体の関心事であり、常に見守られ、場合によっては是々非々で批判されるのは当然でもある。しかし、その批判があまりに性急であったり、的外れであったりすると、日本代表の強化にとってあまりよろしくないこととなるだろう。現在いくつかのBLOGなどで出ている、選手選考に関するオシム批判は正当なものなのだろうか?今回はそこを少し見てみたいと思う。
コンセプトを理解した選手たち
まず第一に、私は「選手選考は代表監督の専権事項である」と思っている。私好みの選手や、私が使うべきだと思っている選手が選ばれる/選ばれないということによって、その監督を支持したり、逆に批判したりするつもりはない(過去にもしていないつもりだが、もしどこかでしていたら申し訳ない)。もちろんこれは私の考えであって、違う流儀もあってかまわないことだが、少なくとも現在までのオシム監督の選考に関しては、私には基本的に納得できるものが多いとも思っている。
例えば、オシム監督が率いていたジェフ千葉の選手が多いということに関して、私は「当然だろう」としか思わない。どんな監督にも「自分流」があり、それを早く代表に浸透させるためには、そのやり方を理解した選手を多く選ぶのは当たり前のことだ。ジーコ監督も最初の試合に秋田、名良橋(ともに鹿島)をピッチ上に送り出し、それを1年継続した。トルシェ監督は自分のやり方を浸透させやすかったナイジェリアユース組をその後も重用した。
秋田や名良橋が選ばれたときには「彼らは2006年のドイツのピッチにはいないだろうから意味がない」という批判があり、2000年のはじめ、ナイジェリア組が重用され始めたときには「Jのピッチで実績のない選手がなぜ代表に?」という批判があった。しかし、その後の経緯を見れば、それらの批判は的外れだったことがわかるのではないだろうか?
オシム監督にとってのジェフの選手たちも同じことだ。これまでの代表戦を見ても、やはりボールを奪った瞬間の走り出しは彼らに一日の長がある。あるいは体を張ったポストプレーや、前線からの守備で巻を上回る選手はいない。それらを重視するオシム監督が彼らを選ぶのは当然だろう。そして、それはジーコ監督が「ブラジル流4バックの理解度」を尺度にした時、トルシェ監督がフラットスリーやオートマティックなパス回しの体現度を基準にした時と同じ、まったく普通のことだ、と私には思えるのだ。
メディアリテラシー
今回の合宿には、川島(川崎)、林(流通経済大学)、相馬(浦和)、矢野(新潟)といった、Jリーグで必ずしも高い実績を上げたとは言えない選手が選考されている。これについては、オシム監督の「海外組でもレギュラーでなければ呼ばない」といった発言と矛盾しているのではないか、という批判はできるだろう。
ただ個人的には、その発言は「海外クラブ所属だからといって無条件で選ぶことはこれからはしない」という、いわば「優遇の否定」をしただけであって、「Jリーグ所属の選手を出場実績を基準にして選ぶ」ということを言ったわけではないと思っている。
もちろん、代表に入る選手はリーグで十分な実績のある選手が基本となるだろうが、「そればかり」でなくてはならないわけではない。今回の招集に関するオシム監督の発言は、こちらの報知新聞では
―初招集は?
オシム監督: 2~3人いると期待してもらっていい。ただ、初招集とはいっても新人という意味ではない。Jリーグで実績のある選手を呼ぶ
と、あたかも「実績を基準にして選ぶ」と言っているかのように書かれているが、サンスポでは
オシム監督: 新しい選手? それは実績のない選手、Jの新人という意味ですか? それならないです。初選出という意味であれば2、3人の期待はしてくれていいと思います
「Jの『新人』は選ばない」ということを言っているに過ぎないことがわかる。
「Jリーグの実績を基準にして選ぶ」
「Jリーグの新人を選ぶつもりはない」
この両者はまったく違うのは自明だろう。これは、オシム監督が「新しい人を選ぶのか?」という言葉に対して皮肉を浴びせているだけだ、ということは、そろそろ日本代表をしっかり見ている層にはわかってきていることだ。こういうことは、記者の切り取り方によって意味がまったく変わってしまうので、読むメディア、あるいは切り取り方を注視していかないといけないだろう。
かつての「期待枠」たち
また、再び昔語りをするならば、ジーコ監督がはじめて加地を選んだときも、加地は必ずしもJリーグで豊富な経験を持っているわけではなかったのではないか?所属のFC東京では、むしろ徳永(大学生でもあった)のほうが優先的に起用されていたような状態だった。あるいは、先にもあげた2000年当初のトルシェ代表では、例えば中田浩二はボランチでさえ鹿島のレギュラーではなかったのだが、フル代表のCBとして起用されていた(左図は2000年2月のカールスバーグカップvsメキシコ戦)。
「Jリーグでやっている他のアウトサイドはそんなにダメなのか?」「Jリーグでやっている他のCBはそんなにダメなのか?」ジーコ監督が加地を、あるいはトルシェ監督が中田浩二を重用し始めた時、このような批判が多く投げかけられた。しかし、三代続けて代表監督がこのようにしているのは、どういうことなのか、そろそろ考えてみてもいいのではないか?時として、クラブでのパフォーマンスよりも、代表のコンセプトに合うかどうかのほうが重要なこともあるのだ。
オシム日本でも、横浜Fマリノスの山瀬が選ばれたときは怪我から長期にわたる欠場が続き、ようやくその直前のリーグ戦で先発出場を果たしたばかりの状態だった。実績がないという意味では、今回の川島や矢野とそれほど変わらない。しかし私は、その時の代表監督が自分の戦術やコンセプト、方針に合うと思えば、経験が浅かろうとその選手を選べばよいし、起用すればよいと思う。そうすることで2006年の加地のように、あるいは2002年の中田浩二のようになる可能性がある(オシムの目から見て)のであれば、何が問題だというのだろう?
ホームサウジ戦までと、これから
さて、さらにもう一つ、今回がこれまでと、そしておそらくはこれからとも違うのは、これが「試合なしの合宿だけ」の候補メンバーであるということだ。ジーコ監督時代はなかったが、トルシェ時代にはかなりの回数あり、例えば2001年2月には45人(!)のメンバーを集めて、ほぼ「選考合宿」に近いものが行われている。今回、五輪代表が選べない中で、28人選んで行われているこの合宿も、その色が濃い、と思う。
また、この時期にそれが行われるのには理由があるだろう。実は昨年のオシム日本は、就任2試合目から、アジアカップ予選という一応にも公式戦を戦わなくてはならなかったのだ。純然たる親善試合は2試合のみで、残りは公式戦。もちろんアジア相手ではあるにしろ、構築中のチームでは足元をすくわれる可能性もある。その中では、新しい選手を試すとしても限定的にならざるを得なかっただろう(それでも相当新しい選手を招集していたが)。今回、ようやくその枷が外れたのだ。
リーグ戦で出場機会が少ない選手は、試合を戦うコンディション、試合勘という点で、バリバリ出ている選手にはどうしても劣る。そういう選手を昨年起用することは難しかった。しかし、開幕前のこの時期ならば、横一線で並べ、見極めていくことができる。そのことも考慮されているのではないだろうか。
「三都主よりいい選手」?
選手一人ひとりを見ると、川島、矢野は年代別代表歴もあり、林も含め「期待枠」としては妥当だろう。この辺の選出には、コーチ陣の意見も反映されただろうと個人的には想像している。矢野は、大型で体を張ったポストができ、守備も精力的にするという点で、「巻タイプ」としては貴重だという意見もある。相馬も期待枠だろうが、私としては実はちょっと意外。もっと守備をするタイプをオシムは好むのではないかと思っていたからだ。が、その辺の手綱さばきが興味深いところでもある。
ちなみに、「三都主の代わりの選手」について聞かれたオシム監督は「三都主よりいい選手を選ぶ」と語ったと一部報道(先にもあげた報知)ではなっているが、こちらでは
オシム監督: 誰かの代わりというより、誰かよりもいい選手がいると期待した方がチームはよくなります
という「一般論」を語っているに過ぎないこともわかる。「誰かの代役は?」という聞き方は、選手に失礼だから止めて欲しい、というやんわりとした諌めでもあるだろう。
オシム監督はこのようにさまざまな理由で一般論を多く語るのだが、スポーツ新聞はそれを「ある目的を持って」切り取っていく。それに踊らされて「相馬のどこが三都主よりいい選手なんだ!」と言っても仕方がないことだ。以前から言われていることだが、私たちも「売らんかな」のスポーツ新聞に対するメディアリテラシーを、もっともっとしっかり持つことが必要だろう。
あわてないあわてない
私は現時点ではオシム監督を支持している。理由はすでに述べたように、私が代表監督に望む多くの条件を満たしているからだ。また昨年のホームサウジ戦で見せた試合内容も立派なものだった。ただ、だからと言って完全にフリーハンドですべてを丸投げしていいというわけでもないのは、もちろんのことだ。しっかりと注視し、是々非々で考えていかなくてはならないだろう。サポーターだって「考えて走ら」なくては、オシム日本においていかれてしまう(笑)。ただ、今回の選手選考は私には特段問題のあるものには思えないのだ。
選手選考は代表監督の専権事項。私たちよりも自分のコンセプトに(もちろん!)精通し、どんな選手が必要かを知り抜き、そして私たちには知りえない選手に関する情報を多く持っている監督の人選を、とりあえずは信頼して任せてみてもいいのではないか。まだ就任1年目、ジーコ監督で言えば2003年、当時は2試合しかこなしていなくて、この時期合宿もしていなかったんだよ?
それではまた。
10:38 PM [オシム日本] | 固定リンク | トラックバック (0) |
February 13, 2007オシムと俊輔
Number誌671号「日本サッカー2007年の設計図」のなかに、杉山茂樹氏がオシム監督にインタビューをしている記事があります。題して「あえて率直に言わせてもらう」。杉山茂樹氏といえば、例の4−2−3−1を絶賛し、フォーメーションを過剰に重視するライターさんですね。「問題は3か4かではない」というオシム監督とは相性が悪いだろうと思っていたのですが、この記事ではオシム監督と何かが上手くかみ合っているようで、なかなか興味深い記事になっているのが驚きでした。
この中でオシム監督は実に多岐にわたることを語っていますが、核心とも言える「中村俊輔選手について」も、言葉を尽くしています。一読すると、オシム日本代表に中村選手を呼んだ場合の問題点を列記してあるように取れるため、一部では「オシムは中村起用に消極的なのではないか」という推測が出はじめているようです。しかし、これは正しくない読み方だと私は思います。
人生の二つの顔
オシム監督の語りの特徴は、「人生に存在する<二つの側面>について理解して欲しい」という態度だと思います。サッカーはもちろん、人生のあらゆる問題において、AかBか、0か100かで割り切れることはほとんどない。そこには常にメリットとデメリットがあり、正しさと別の正しさが、せめぎあっているものだ。しかしジャーナリストは「Aですよね?」と聞いてくる。それに対しては「Bの側面も考えられないだろうか?」と返す。「Bに決まってますよね?」と聞けば「いやいや、Aの側面もある」と返してくる。それがオシム監督がずっととってきた態度です。
それを理解してこのインタビューを読むと、ただ
A)俊輔を呼んだ場合のメリットとその根拠 B)俊輔を呼んだ場合のデメリットとその根拠 |
を列記し、
前者A)が後者B)を上回っていれば、起用する |
という一般論を述べているのに過ぎないということが分かるでしょう。
オシム: もしポジティブな材料が多いと判断されれば、中村はチームの一員に加われるだろう。
ただ、世間一般には中村を待望する意見があることを、勉強家のオシム監督はよく知っており、それゆえにA)の呼んだ場合のメリットについての言及は控えめになっているのかもしれません。あるいはそこは、「呼ぶべきだ」と主張したいジャーナリストがが立証するべき部分だ、ということでしょうか。
オシム: 今考えなければならないことは、中村という選手を呼ぶ意味だ。あえて率直に言わせてもらおう。彼は日本代表に何をもたらすのか。それによって何を浪費するのか。
ここでも彼は、答えを出していませんね。もちろん、まだ呼ばれていない、テスト起用もされていない状態ですから、答えが出ていないのも当然です。が、それと同時にオシム監督は、「考えるのは君たち自身なんだよ」と言っているようにも思えます。呼ぶべきと言うのでも、呼ぶべきではないと書くのでも、そこの両方の視点を持って、比較の上で考えないといけない。そういうメッセージ。こうしてどんどん、考えるジャーナリストと、そうでないジャーナリストが選別されていくのかもしれませんね。
中村俊輔をどう使うのか
これは、そのNumberの記事中にそのままあった段落タイトルです。中では、中村について、そして起用した場合の構想について、非常に率直にオシム監督は評しています。
オシム: かつてに比べれば、走るようになっている。良いプレーも見せている。しかし、守れない。彼中心にチームを作れば問題が生じる。
興味深いですね。今期の中村選手のプレーの変化をオシム監督は見て取っていますが、同時に「守れない」と言う。本当でしょうか?個人的には、彼の守備の意識も相当に向上してきているように見えているのですが・・・。もしかすると、あえて課題を強調しているのかもしれません。彼がこういう言い方をするときは、インタビュアーが一つのA)に偏りすぎているように見えるから、という可能性がかなりあると思えます。
それはさておき、それに続く、中村選手を起用した場合の構想がまた興味深いものです。オシム監督は中村選手を起用した場合、その特質のために、5人の選手が必要になる、と言っています。
1) サイドを駆け上がるスペシャリスト 2) クロスにあわせるセンターフォワード 3) 逆サイドでサイドチェンジのボールを受けるフォワード 4) 中村の背後をカバーするフィジカルの強い選手(鈴木や阿部) 5) サッカーゲームをよく知っている選手(遠藤や憲剛) |
私は、ほうほうとこれを読みながら、同時ににやりとしてしまいました。だって今の代表チームには、この5人の選手はすでに存在しているじゃないですか?つまり、これは「今の代表チームなら、中村選手を活かせるよ」といっているのと同じことだと私には思われるのです。もし私がインタビュアーだったら、「それなら今のチームは中村の受け入れ態勢が十分ですね?」と突っ込んだでしょう。まあ、また「いやいやBの考え方もある」とはぐらかされたでしょうが(笑)。
例えば2006年ドイツW杯でのフランス、ジダンを活かすためにその周囲には、マケレレやビエラといった4)の選手、あるいはスピード豊かにボールを受け、敵に強烈なプレスをかけていくリベリーのような選手が配されていましたね。そのようにタイプの違う選手を組み合わせて配置することは、サッカーのチーム作りではむしろ常道ともいえることでしょう。ここではオシム監督は、そのようにする、という当たり前のことを言っているだけなのじゃないかと思えるのです。
オシムのタイポロジー
関連して、少し前ですが西部謙司さんが興味深い記事を書かれています。「オシム式タイポロジーの考察」。タイポロジーとは「類型論」で、オシムジャパンでの選手起用はどんなタイプに分けられるか、ということを考察したものですね。オシム監督の選手起用は「ポリバレンス」を重視し、単純にボランチとか、トップ下とかの言葉では言い表せないもので、このようなタイプ分けによる分類は意義があることでしょう。西部さんのこの記事に対する私の意見は一回掲示板のほうに書いたのですが、この杉山氏のNumberの記事を受けて、またさらに考察が深まる部分も出てきたので、ここで見てみたいと思います。
まずそのタイポロジーですが、西部さんの分類に従うと、サウジ戦はどうなるのでしょう。
他は大体しっくりくるのですが、我那覇はターゲットなのかセカンドトップなのか、というところが少し分類しにくいですね。まあ無理やり分けなくても、その中間ぐらいというところで、問題はないでしょう。
もう一つ興味深いのが、MF1と分類されている憲剛と三都主です。MF1の説明はこう。
▼MF1=ボランチタイプを置くこともあるが、より攻撃的なタイプを使うこともある。用兵的には変化を出しやすいところ。いわゆるエクストラキッカーを起用することも。代表では遠藤保仁、三都主アレサンドロ、長谷部誠、中村憲剛など。千葉ではクルプニコビッチなど。
西部さんは「変化を出しやすいところ」としていますがむしろ、「タイプ分けが異なる」と考えたほうがよいのではないか、と思います。これまでの日本代表の試合を見ると、中盤の一人はボランチ2(鈴木)ですが、一人は「ボランチもOMFもできるタイプ」、いわばCMF(セントラルミッドフィールダー)を起用していますね。オシム監督がNumberで言うところの「サッカーゲームをよく知っている選手(遠藤や憲剛)」です。そしてもう一人の枠に三都主が入ってくるか、羽生や山岸が入ってくるか、と見たほうがわかりやすいのではないか、と思います。
羽生や山岸は西部さんのMF2と見たほうが良いですね。しかし三都主はMF2には当てはまりそうにありません。
▼MF2=前線へ早いサポートのできる選手。千葉の羽生直剛が典型。中東遠征で抜擢された大分トリニータの梅崎司もこのタイプ。オシムサッカーの攻撃のスピード感を最も体現しやすいポジションでもある。
こうして見てみると、OMFとして起用されるときの三都主は、ただ一人特別なポジションを与えられているように見えます。もちろん守備は要求されているのでしょうが、それにしても羽生ほどの運動量はない。明らかにタイプが違う。MF1のようにボランチもできる、わけではない。しかしOMFとして起用されている。いわゆるエキストラキッカーとは、こういうタイプのことを言うのではないでしょうか?仮にこれをEX(エキストラキッカー)としてみましょう。
ここで私が興味深く思うのは、オシム監督は中村俊輔選手を先のタイプ分けの「MF1」として考えていない、ということです(Numberの記事でそれは明らかになりましたね。ついでに言えば、中田ヒデ選手もMF1では「ない」ということのようです)。海外組のMFで言えば小笠原、稲本といった選手達は、まさにこちら、ボランチもできるMF1=CMFのほうに分類される選手だと思います。しかし、中村選手は違うとオシム監督は認識しているようです。
個人的には、そしてNumberの記事を読むにつけ、中村選手、松井選手は、「EX」というタイプとしての起用になるのではないか、と思えます。それであれば、そのポジションに入ったときの三都主選手と少なくとも同等か、それ以上のプレーを見せてくれることは確実でしょう。チームにはすでに先に掲げた「一人のスーパーな選手を活かすために走り回る5人の選手」が配置され、熟成を深めています。これはまさに、「中村選手を迎え入れるための器を作っておいた」と言ってしまったら言いすぎでしょうか?
その他、西部さんのタイポロジーに従うと、海外組では図のセカンドトップ(ST)に高原、V1に中田浩二あたりが起用されそうですね。それ以外にレギュラーを取っているのは稲本と松井くらいでしょうか(オシム監督は、海外リーグに所属していても、チームでレギュラーでなければ招集しないと言っていますね)。松井は今必ずしも調子がいいとは言えないようですが、稲本はどうでしょう。MF1での起用があるかどうか?いずれにしても、「時間の取れる国内組でベースを作り、そこに調子のいい海外組をトッピングする」ということになりそうで、これは合理的な強化法だと思います。
さてさて、海外組招集、その融合がいつ、どのようになされるのか、楽しみでもあり、気になるところですね。
それではまた。
04:56 PM [オシム日本] | 固定リンク | トラックバック (3) |
February 05, 2007Homeward Bound
昨年の10月からはじめたポッドキャスト「SoccerCast」ですが、どうやらポッドキャストランキングで総合90位を突破したようです。登録していただいた方は10000人を越えました。聞いていただいた皆様、登録してくださったみなさま、本当にありがとうございます。
ポッドキャストという新世代の大海の端っこで、こそこそとやろうと思っていたのに、こんなことになるとどうも緊張してしまいますね。普段10000人を前にしゃべったりすることはありえないじゃないですか(笑)。
さて、そのSoccerCastですが、少し前にサッカーキャスト 第6回 後半 「『JFAテクニカルレポート』と『敗因と』をめぐって」がアップされました。昨年末に相次いで出た「JFAテクニカルレポート」と「敗因と」。この両者以来、各所で「もう一度ドイツW杯の日本代表を振り返ろう」という風潮が出ていますね。私のBLOGでもちょっとやってみましたが、今回のSoccerCastもその一連の流れに連なるものになるでしょう。
ただ、三人で喋るものなので、こういうテーマだとどうしても熱くなりがち(笑)です。「思わず言っちゃった」とか、「勢いで」という部分がいささかあるトークになってしまいました。編集をしてくださった発汗さんも
やれやれ… 編集に苦労しました。 ともすればピーが飛びがちな激論でありまして、過激な方が良いという諸兄姉には物足りないかもしれませんが…
(^_^;)
とおっしゃっています。そういう熱い(?)トークに興味がおありでしたら、ダウンロードして聞いていただけるとうれしいです。
今すぐにでも帰りたい?
さて、サッカーマガジン2007/2・13「海外組が待ちきれない!」(しかし、川淵キャプテンが書いたようなタイトルですね・笑)において、中村俊輔選手の興味深いインタビューがあったようです。ネット的にはもう旧聞に属するかもしれませんが、非常に興味深いので、取り上げておきたいと思います。BGMは”Homeward Bound”(SIMON AND GARFUNKEL)で。
タイトルは、独占告白「もう一度、日本で・・・」となっています。海外に挑戦した選手が日本に復帰してプレーするのは珍しくないですから、このように言うこと自体は普通のことといえるでしょう。話題になったのは、中で明言されているその「時機」と「動機」についてです。記事中で中村選手は言っています。
中村: 帰れるものなら、今すぐにでも帰りたいよね。(中略)とにかくトップコンディションでいるうちに、日本に帰りたいんだ。
だれもが「えっ?」と耳を疑うような発言ではないでしょうか?彼はドイツでのあの失望を経て、今年雄雄しく復活し、セルティックでチャンピオンズリーグにも出場し、まさに欧州でのキャリアも順風満帆のはず。いよいよ来シーズンは念願のスペインか?と期待していた人も多いでしょう。それが「今すぐにでも日本に帰りたい」とは?
その動機は何なのでしょうか?
中村: そういう(高いレベルのでいろいろな)経験を、トップレベルでいるうちに日本で出してみたい。ワールドカップでやってみてそう思ったんだ。やっぱり負けたくないじゃない。日本代表をさ、日本のサッカーをもっと強くしたいんだよ。日本らしいサッカーをやって、世界で勝てるようにしたいよね。(中略)そのためには、まだ代表のスタメンでプレーできる力があるうちに帰りたいんだ。(括弧内補足:ケット・シー)
なんと、私はこれには驚きました。中村選手は、日本代表を強くするために日本に帰りたいと言うのです。これはちょっとユニークな、見方によっては素晴らしい考え方だと思います。
多くの選手がこれまでに海外へ挑戦しましたが、日本へ帰るにあたり、「夢破れて」というイメージを与えるケースがほとんどでした。本当はもっと海外でプレーしたいんだけど、プレーさせてくれるところがない。だから日本に帰る。残念なことですが、これまでの帰国の多くの場合はそうだったのではないでしょうか?
中村選手は違います。セルティックでも絶対に必要とされる、セルティック以外からでもおそらくオファーはある(だってCLのGL突破の立役者ですからね)だろうにもかかわらず、日本に帰りたい、という。そしてその理由が「日本代表を強くしたいから」。これは、「より高いレベルのリーグでプレーしたい」という欲求を、「日本代表への思い」が上回ったということですね。ドイツW杯での不完全燃焼感によるものでしょうか。私は、「そこまで代表に思い入れがあるんだ」と少ししみじみとしてしまいました。
現実的に契約は?
さて、このような移籍の時機について、現実的に問題となるのは契約がどうなっているか、ということです。何度かこのBLOGでも、あるいは他のいろいろなところでも話題になったことですが、日本の感覚では掴みきれない部分もあります。文中では、中村選手自身も契約の難しさに触れていますね。
中村: セルティックとの契約はあと1年残っている。今回その契約を更新しないで、次で切れるということになったら、今度はセルティックでどうなるか分からないよね。(中略)きちんと移籍金が発生して、日本に帰るっていうのがベストなんだろうね。
私の理解ではこの場合、移籍金が発生するには、
1)このシーズンオフ(契約が一年残った状態)で移籍するか(一年分なので移籍金は安い) 2)このシーズンオフにあらためて複数年契約を結びなおし、それが残った状態で移籍するか |
という必要がありますね。このシーズンオフとは、2006-2007シーズンの終わり、2007年夏ということです。
複数年契約が切れた選手は移籍金ゼロで移籍できますが、それを望んで複数年契約を更新しない選手は、最後の一年間、試合で起用されないなど「飼い殺し」のような目にあうこともあるようです。それでは選手として大きなダメージですし、オシム監督の代表選出基準にも合わなくなる。それもあって中村選手も「きちんと移籍金が発生して、日本に帰るっていうのがベスト」と言っているのでしょう。
ところでこの記事の最後には、中村選手はこう言っています。
中村: とにかく、30歳を迎えるまでには日本に帰るつもりだよ。
中村選手は1978年6月24日生まれであり、今年2007年には29歳になります。そして30歳を迎えるのは来年2008年の6月。と考えると、現行2006-2007シーズンの次、2007-2008シーズンの終わりには、30歳を迎えるわけですね。つまり、遅くとも来シーズンの終わりには、日本に帰るということを発言したわけです。また聞きようによっては先に提示した条件の一つ目、「このシーズンオフ(契約が一年残った状態)で移籍する(一年分なので移籍金は安い)」も視野に入れているとも取れます。
Homeward Bound
これによって、この記事のような騒ぎになったわけですね。
以上に見たサッカーマガジンの彼の発言からすると、「この夏J復帰」はさすがに曲解ですが、記事にあるような「いつかは日本でやりたいと言っただけ。(選手生活の)最後かな…。それが35歳になるかもしれないし」というのも少し食い違っています。まあ、地元サポやメディアの「火消し」のためにもそう言わなければならなかったのかもしれませんね。
もちろん契約のことを考えると、「契約が1年残っていて移籍金の発生するこの夏」という線もないわけではないですが、セルティックの現状を見ると、それはないだろうし、してほしくない。とはいえ、移籍金がからむ契約の問題は非常に微妙です。個人的にはセルティックに残るか、スペインへ挑戦するか、という選択を取って欲しいところですが、契約の問題から電撃的に・・・という可能性もなくはないでしょう。この先の成り行き(まあそれが発生するのは夏でしょうが)に、ちょっと注目する必要がありそうですね。
それにしても、中村選手のこの熱い代表への思いは、意外でもあり、代表サポとしてはうれしくもありました。そして、それだけでもない。オシム監督の「海外組にはクラブでレギュラーをとることに集中してもらうために、当面代表には呼ばない」という方針は、論理的には極めて正しい。しかし同時にそれは、代表への思いが強い選手にとってはうれしくないことでもある。そういうアンビバレント(二律背反)さを私はこの記事から感じたのです。
どうするのが正しいのか。そこに正解はない。オシム監督がいつも言うように、人生すべてがそうなのでしょうね。
それではまた。
03:45 PM [サッカー日本代表] | 固定リンク | トラックバック (0) |