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December 27, 2006

ちょっといい一里塚(サウジ戦回顧)

Saudihomeもう時機を逸しているのは明らかなのですが、オシム日本の今年最後の試合だったアジアカップ予選サウジ戦(ホーム)について、思うところを書いておきたいと思います。とてもよい内容で、アジアの難敵を3-1とねじ伏せたこの試合、個人的には「Jリーグの選手の力もしっかりまとめ上げれば、ここまで(あるいはもっと)いけるのだ」という指標となりうる試合だと思いました。まあ、SoccerCastで語ってしまっていることでもありますが、年末でもありますし、重なるところも含めて、文字で残しておきますね。

 
 
 
 
 


半年分の集大成

この試合、オシム日本の攻撃の方向性がついにはっきりとし、また守備の問題点が再び明らかになった試合だったと思う。

オシム日本の攻撃の特徴は、
 

・すばやい守→攻の切り替え
・数多いフリーランニング・追い越し
・数的有利を作ってのサイドアタック
・DFラインからの攻撃参加

といったところだろう。これらを総じて「考えて走るサッカー」と言われるわけだ。

しかし、この試合までのオシム日本には、「技術のない選手を走らせてもダメなんじゃないか」といった批判が幾分出ていた。ジェフサポでもある西部謙司氏でさえ、次のように書いている。

 40メートルの距離を正確に蹴る技術がない選手は、40メートル先の状況を精緻に観察しようとはしない。左足で蹴れなければ、左足を使ったプレーをイメージできない。アイデアには技術の精度と不可分なところもある。

おっしゃっていることはまったく正しいのだが、私は少し違う考えを持っている。SoccerCastのほうでは英会話になぞらえて話をさせてもらったが、「その技術が必要な環境がないと、その技術の必要性に気づかないし、伸びない」のではないかと思っているのだ。JFAのテクニカルレポートでは日本の課題として、「ボールと人が動きながら正確にコントロールする技術は不足している」ということをあげている。走りながらボールをコントロールする技術の必要性に気づく、伸ばすためには、走っていなくては不可能だ。そのためにも、まずは「走ること」を要求していくのは、理にかなっていることではないだろうか。

サウジ戦(ホーム)では、これまで蓄積されたものがついに少し実を結び始めた、という印象だった。もちろんまだまだ端緒についた程度だろうが、これからだんだん果実が大きくなりそうな道が、かなりはっきり見えてきたと思う。アウェイの試合ではよい試合をしながら敗北してしまった日本だが、4ムンタシャリ、20カフタニら主力メンバーが戻ってきたサウジを攻撃面で大幅に上回り、3-1で勝利した。サウジは2006年ワールドカップ出場国であり、アジア5強の一角を占めると言っていいだろう。そういう敵に対して、この内容は立派なものだ。想像していたよりも、チームの仕上がり、コンセプトの浸透が早いという印象だった。


2トップの組み合わせ

この試合で興味深かったのは、4バックのサウジに対してオシム監督が、巻と我那覇の2トップをピッチに送り込んだことだ。同じ4バックのガーナとは、山岸-巻-佐藤寿人というほぼ3トップのような布陣で戦ったが、この試合ではそれとは違い、2トップの後ろに三都主、中村憲剛を並べるというやり方を取った。ガーナ戦では、SBの上がりに対する佐藤寿人の守備面での頑張りが目を引いた。あの3トップはオシム監督の中では4バックに対する守備の対応の色合いが濃いものだったのかもしれない。逆にこの試合では、アウェイの戦い方をしてきたサウジアラビアの4バックに対して、2トップが攻撃面でうまく機能していた。

巻は運動量豊富に動き回ってスペースを作り、またハイボールに競り勝って我那覇に確実につなぐ。我那覇はできたスペースで足元でやわらかくポストプレーをし、フォローに来た中村憲剛に落とす。ダブルポストのこの組み合わせはお互いがお互いをよく生かしていたと思う。そうして前を向いてボールを持った憲剛は、長短のパスを操ってポゼッションを高め、攻撃をリードしていった。こうなると、オシム日本のいいところである、豊富な動き出し、追い越し、数的有利を作ってのサイドアタックなどがうまく機能し始める。

余談だが、今年の2月に日本代表はUSAと親善試合を行った。このときジーコ監督は久保の1トップを試している。しかし怪我を抱え調子の上がりきらない久保は1トップの役割をこなしきれず、ハーフタイムで巻、佐藤寿人の2トップに変更された。それを見ていて私は、ポストというよりもストライカーである久保のようなタイプには、巻や柳沢のような「スペースを作り、他の選手に使わせることのできるタイプ」と組み合わせたほうが、より効果が上がるだろうと思った。USA戦でも、ちょっとでいいから久保と巻の組み合わせが見たかったものだ(もちろんコンディションの問題もあったのだろうが)。サウジ戦での生かしあう二人のFWを見て、私は当時のことを懐かしく思い起こした。


コンセプトの具現した攻撃

閑話休題。サウジ戦の先制点は、CKを巻がヘディングシュート、GKがはじいてこぼれたところを闘莉王が押し込んだもの。その後も闘莉王はしばしば上がって中盤の構成に参加していく。DFラインからのロングパスを含め、阿部、今野、闘莉王と、この日のDF陣は攻撃面でも非常に目立っていた。やはりオシム監督はCBにもポリバレンスというか、「ピッチのどこでもチカラを発揮できること」を求めている、特に足元の技術を重視しているのだろうな、とこの試合で改めて理解できたところでもある。

追加点はその象徴のような形。右サイドを追い越した今野(豊富な追い越し、CBの攻撃参加、数的有利をサイドで作る)が、中に切り込んでクロス、それを我那覇がヘディングシュート!非常にきれいな、コンセプトの具現された得点だった。しかし思い起こせば、アウェーイエメン戦での得点もアシストは坪井ではなかったか。それも同じようなアーリー気味のクロスからの得点。「これからは代表ではこういうことが必要とされるのだ」ということの見事なメッセージになっているだろう。よいことだと思う。

しかし、鈴木啓太のパスミスから、一気にカウンターを食らって今野がペナルティエリア内でファウル、PKを与えてしまう。ちょっと厳しい判定だと思わなくもなかった(笑)。ただ、この試合は攻撃面、構成面でいいところが多くなってきたとはいえ、実はこういうミスもまだ多かった。動き回る周りの選手の前方のスペースにパスを出すことを、多くの選手が狙っているのだが、そのパスがやや「えいやっ」とでもいうような、チャレンジパスになっていることがままあったのだ。もちろん、リスクを負わなくては勝負できないのだが、それを「していいところ」と「するべきではないところ」をきちんと判断しなくてはならない。鈴木にはこれを教訓としてほしい。また、問題はパスミスの後に高い位置で攻撃の芽を摘めなかったところでもあるだろう。その辺は後述したい。

3点目は、今野と駒野のコンビネーション。今野の左サイドへのパスを駒野が受け、ダイレクトでクロス、ニアに走りこんでいたのは逆サイドにいるはずの加地で、彼がスルーしたボールを我那覇が決める。ここでもオシム日本のいいところが出ている。全員の守→攻の切り替えが早く、また運動量も多く、チャンスに参加する人数が非常に多いのだ。このシーンでもペナルティエリア内にサイドの加地が入り込んでいるが、そのほかのシーンでもクロスに3人、場合によっては4人以上がペナルティエリアに入っていることが多い。加地からのクロスに大外で駒野が受けてシュートしたシーンもある。「走るサッカー」の面目躍如たるところだろう。


積み残した守備面の課題

ところがこの後日本はややサウジにペースを握られてしまう。世間一般では「疲労が出た」と評されるシーンだと思う。が、私はそれと同時に、「守備面での走るサッカー」ができていなかったという問題も指摘しておきたい。それは前半から存在していた問題なのだ。PKを与えてしまったシーンもその範疇に入る。オシム日本のサッカーの守備面の特徴は
 

・全員守備
・ほぼ全員がマンマーク
・高い位置から(FWから)奪いに行く
・DFラインは敵の人数+1

などで表現されるだろう。しかし、攻撃戦術とあわせると、そこに乖離があるのは誰にもわかるところではないだろうか。

オシムのチームでは、攻撃時には誰もがポジションを崩して攻撃参加することが奨励されている。しかしいったん奪われれば、マンマークにつかなくてはならない。ポジションを崩しているのだから、試合前に決められたマーカーがフリーになってしまっている可能性もある。また、最終ラインが受動的な守備だと、大きくスペースが空いてしまうこともある。そうなると、「誰かが」急いでケアにいかなくてはならない。それらの点で、オシム日本は守備面でも「考えて走ること」が要求されるサッカーなのだ。

サウジ戦では、敵の中盤の右7ハイダルと左24スリマニが脅威となった。それに対しては加地と駒野がケアをするという考えだったとオシム監督は会見で話している。それも、マークすることよりも攻撃面で上回ることで、敵陣に押し込めてしまおうということだ。これは常道でもあり、実際機能している時間もあった。

しかし、ハイダルやスリマニがいったん自陣を出、ドリブルでするすると持ち上がってくると、日本の選手たちの頭には一瞬の空白ができてしまう。加地や駒野が下がっていると「彼らがケアするだろうからいいだろう」とでもいうような一瞬の間ができてしまっていたのだ。また、加地や駒野も最終ラインが数的有利でも、前からドリブルで向かってくる相手をケアしに「出て行く」のが少し遅れていた。これによって、1ボランチ鈴木啓太の両側のスペースを使われることが多くなってしまっていたのだ。

これは前半からあった問題であり、日本が3点目を入れてから顕著になったのは、日本の疲労と「3点入ったから」という意識もあるが、サウジが「もう攻めるしかない」状態になってどんどん仕掛けてくるようになったことも大きい。このような場合は、現在のやり方で戦うかぎり、三都主や憲剛、加地、駒野にもっともっと「敵を高い位置でつかむ」意識を持ってもらいたいところだ。「後ろに人が足りているからいい」ではなく、自分で当たりにいく。その後のスペースはまた誰かが「考えて」埋める、というようにしたほうがよいと思う。

この守備面での「考えて走る」サッカーは、実は攻撃面よりも完成させるのが難しいのではないかと私は思っている。ここを世界レベルまで引き上げることがオシム監督の重要なミッションになるだろう。今私はJFAのテクニカルレポートを読んでいるのだが、この「守備面でも考えて走るサッカー」は少なくともレポートに指摘された課題に沿った、正しい(少なくとも間違っていない)方向への進歩だとも言える。この点については次回に詳しく見てみよう。

2007年は、形を見せてきたオシムのチームらしい攻撃の上に、この守備面での課題をはっきりとした形で改善する年にしてほしいと思う。

それではまた。

01:02 AM [オシム日本] | 固定リンク

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