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December 29, 2006

テクニカルレポートを考える

日本代表テクニカルレポート(DVD&ブックレット)を購入して読了した。先日紹介した「敗因と」でも、「今後の羅針盤たりえない」と評され、大住良之氏には、「失望以外の何ものでもない」、牛木素吉郎氏には「安直で無責任な敗因分析」」と切って捨てられるこのレポートだが、田嶋氏の「日本代表報告」以外のところには興味深い部分もある。小野剛氏が、大会の趨勢を読み、考察している部分の分量のほうがずっと多いのだ。

今回は「書評」というわけではないが、このテクニカルレポートの「失望」と「興味深いところ」を両方見てみたいと思う。 
 
 

「失望」に関しては、大住氏はこう書いている。

田嶋幸三専務理事(前技術委員長)によるその第5章「日本代表報告」は、無責任極まる、すり替えと自己弁護にほかなりません。

私もこれには同意する。ドイツW杯での日本代表の、自分たちの問題に関する真摯な分析や反省がなく、あのような敗北を繰り返さないための提言にまったくなっていないからだ。これは、「自分たちの責任を認めたくない」という以上に、「川淵氏が独断で任命したジーコの問題点について言及できない」ことが原因だろうと私は想像する。組織人というものだ。同情を禁じえない。

第5章「日本代表報告」 田嶋幸三

「日本代表報告」の要点を以下にまとめてみよう。

1)日本の実力はオーストラリアより劣り4番目と分析していた
2)大会前の独特の雰囲気の中で、日本の実力を客観的に分析できなかった
3)ドイツ戦にピークが来てしまった
4)ドイツ戦の手応えで「受けて立つ」ようになってしまった

5)コンフェデ杯で課題は「フィニッシュの精度、高さ、1対1の玉際の強さ、コミュニケーション」と分析
6)オーストラリア戦を2-0にできなかったのが一番の敗因(フィニッシュ)
7)コンフェデ杯では「連動したボールへのプレス」ができていなかった
8)ブラジル戦の前半はできていた
9)90分持たなかった(チェルシーやアーセナルはできている)
10)高さがボディーブローのように効いてやられた
11)玉際の体のぶつかり合いも弱い

12)コンフェデ杯で分析した課題はすぐには解決できない
13)長期的に、ユース育成などで解決していかなくてはならない
14)守備をしっかりし、連動したプレッシャーをかけることは日本ができていたことで、今後徹底してやりたい
(西野、山本、田中、トルシェ、岡田)

15)ジーコが初戦が大事だといっていたのに、負けたのでダメージが大きかった

16)あらかじめこういう分析をやり続けていたからこそ、1年前にオシム監督に決めることができた

いかがだろうか、読んでうんうんと納得できるものになっているだろうか?すでに大住氏や牛木氏が突っ込みを入れているが、私もこの中にはいくつものすりかえ、責任逃れが含まれているように思う。次から簡単に見ていこう。

大きな疑問の残る考察

3)ドイツ戦にピークが来てしまった

「来てしまった」ってあなた、台風みたいな自然現象か何かのようにいわれても(笑)。もともとジーコジャパンのコンディショニングは、アジア1次予選初戦のオマーン戦や、暑熱馴化が不十分だったシンガポール戦でも、多くの人に問題視されていたことなのだから、そこは予測できたことのはずだ。

6)オーストラリア戦を2-0にできなかったのが一番の敗因(フィニッシュのことだろう)

これはおかしい。オーストラリア戦を見れば日本の3倍以上のシュートを放っているのはオーストラリアであり、「決定力不足」を嘆きたいのは彼らのほうだろう。日本はそもそも「決定不足」だったのであって、それを作り出すチームとしての戦いで負けていたというべきだ。確かにフィニッシュの精度は十分ではないが、それが最大の敗因というのは無理がある。

同じテクニカルレポートのP.59に、今大会の統計が載っている。それによると、「ペナルティエリア内のシュート」は大会全体の平均が一試合6.86本であるのに対し、日本代表は平均2.67本でしかないのだ。半分以下である。まあデータはあくまでもひとつの参考でしかないが、これを見ても「ペナルティエリアに入れていない」「決定機不足」なのがはっきりと現れている。


 ペナルティエリア内ペナルティエリア外
日本代表2.6710
グループステージ7.187.94
決勝トーナメント5.917.5
合計6.86 7.83

ただでさえシュート精度が低いといわれている日本が、ペナルティエリアに入れてさえいないのだ。これで点が取れる可能性はどれほどあったのだろうか?

守備に関する7)8)9)および14)の問題は非常に興味深いところだが、これは次回に送ろう。

10)高さがボディーブローのように効いてやられた

これは主にオーストラリア戦のことだろうが、その側面は否定できない。ただ、失点そのものは高さで競り負けたのではなく、こぼれ玉をぽっかり空いたバイタルエリアで拾われて決められたものだ。バイタルエリアがぽっかり空くのはジーコジャパンの宿痾(しゅくあ=前々からかかっていて、治らない病気)であって、1次予選初戦のオマーン戦から修正されない課題だった。また、ロングボールには動けるFWで「出所つぶし」をするのもセオリーなのだが、それもなかった。そういう部分の言及がないのはフェアではないだろう。

11)玉際の体のぶつかり合いも弱い

まあこれはその通りなのだが、それ以前に「ぶつかり合い」自体も少なかった。この点については次回に詳述するとして、ここでは「唯一うまくやっているのは中田ヒデと今野」と分析されているのが興味深い。

12)コンフェデ杯で分析した課題はすぐには解決できない
13)長期的に、ユース育成などで解決していかなくてはならない

ここが私が感じた「すりかえ」「責任逃れ」の最たる部分だ。さまざまな点において、ジーコジャパンに存在した問題を見ないようにしているか、見ていても、「それは日本人選手全体の課題」としてしまう。その間にある、今大会での戦術、指導、チーム作りに問題はなかったのか。そこをいっさい分析、反省しないで、果たして日本は先に進めるのか。別にジーコ監督を責めろと言っているのではない。この4年間取ってきた方針、やり方が正しいのか、修正するのか、そのためにも真摯な敗因分析(戦術面、運営面)が必要なのではないのか。なぜそれを放棄するのか。

まったく困ったものだ。それもこれも、ジーコを独断で選んだ川淵氏が居座り続けているから起こることだ。このゆがんだ言論空間を協会内に作っていることだけでも、彼の害はいまや非常に大きくなっているといわねばならないだろう。いい加減にして欲しいものだ。

しかし、前半の小野剛氏の「大会全般」「技術・戦術分析」「総括 日本代表の闘い」は、それなりに興味深いところもある。次回はその部分を見ていきたいと思う。

それではまた。

07:21 PM [2006総括] | 固定リンク

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