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October 23, 2006

オシムの「多中心」サッカー

IpodBLOGではちょっと遅いご報告になりますが、盟友の発汗さん(「発汗」)、エルゲラさん(「サッカーのある幸せ」)とともに、SoccerCastと題したポッドキャスティングを始めています。どうぞよろしくお願いします。

http://soccercast.cocolog-nifty.com/blog/

3人で対談すると、意見がシャッフルされて、思った以上に話していておもしろかったですね。第1回目の内容はガーナ戦の感想、その成果と課題についてでした。「ガーナのプレースピード」「オールコートでのマンマーク?」「フォーメーション談義は?」「アレックスってどういう存在なんだろう?」「どの辺が気になった、どの辺がよかった?」「トラップミスは?」「両ストッパーは」「インサイドの顔出し」「新加入選手の評価は?」「中村憲剛のプレー」「播戸に見たもの」「海外組は誰が欲しい?」などなどについて語っています。

先日UPした第2回目は、アジアカップ最終予選インド戦(アウェー)の感想についての前半、「概観と成果、課題」についてのものです。全体に評判の悪いインド戦ですが、私はライブでは試合を見れなくて、後日HDDに録っていたのを見たものですから、もしかするとネット界随一?というくらいポジティブな内容かもしれません。まあ一つくらいそういうのがあってもいいじゃないですか(笑)。後編は「中村憲剛選手について」と「次戦サウジアラビア戦へ向けて」になります。もうしばらくしたらアップできると思います。

それにしても公開を前提に話すのは緊張するものですね。もしよければ、ダウンロードして私の緊張ぶりをお聞きいただけるとうれしいです。


インド戦の二つのポジティブ

その SoccerCast に語ったことですが、インド戦には二つのポジティブなポイントがあると思いました。一つは、DFラインからの大きなサイドチェンジ気味のパスが、逆のサイドに開いた選手に何度も入っていたこと。これはこちらの記事にもあるように、前のガーナ戦での反省点をはっきりと認識、チームとしてテーマに設定して、それを解決するべく練習した成果です。こういうものがピッチ上に現れてくると「着実に前進しているな」と思えますね。

加藤GKコーチ: (ガーナ戦では)日本もボールに近い選手は良く走り、良く連動していた。でもボールから遠く離れていた選手は休んでしまった
インド戦前・練習メニュー: 命じた変則ルールは、攻撃側が両サイドとピッチ中央に設けられた3つのゴールの、どこに攻めてもいいというもの。FWだけでなく、MFやDFも、動き次第で簡単にゴールに迫れた。ボールから遠く離れたサイドでも、選手たちはスペースに走り、おいしいロングパスを求めた。

スタッフ会議では、問題を明確にするべく、ガーナ戦を30分に縮めたビデオも上映された。

この日最初のメニューだった6対4のボール回しでも、ボールから一番遠い選手のパスの受け方が重要視された。

インドは、わかりやすい4-4-2中盤フラットを引いてきましたが、近代的な監督に率いられると4バックもほぼラインを形成し、押し上げてコンパクトフィールドを作ろうと狙ってきます。この際、4人のバックがかなり「左右にもコンパクト」になることが多いんですね。これを日本は、最終ラインのパス回しで左右に振っておいて、その逆サイドへ、阿部、鈴木、今野、水本あたりからズバッと意図のあるロングフィードを通していました。

DFラインとボランチでパスをまわしてインドの4バックを片方にひきつけておいて、その逆サイドに開いた選手へしっかりとしたフィードを蹴る。ああ、これがやりたいから「(大型で)足技のしっかりしたCBが足りない」と言っていたんだなあ、と理解できました。

チームとして動きが整備され、受け手の意思と出し手の意思がしっかりと一致していれば、ロングボールでも「放り込み」とは呼ばない。

トルシェのときの中田浩二や森岡も出していたような、こういうダイナミックなパスを、日本代表はもっと使うべきだと私は思っていましたので、この変化は歓迎です。そればっかりにならなくてもよいですが、これをオプションとして持つと、攻撃のスピードが上がるでしょう。そして、前戦の戦いをしっかりと反省して次につなげていけるスタッフ、指導陣、私はこういう「歩みの見える代表」は好きですね。


左サイドの連携と課題

また、山岸と三都主の役割、連携もだいぶ整備されてきたように思いました。これまでは、羽生も山岸も、どちらもサイドへ流れるタイミングが三都主と共有されていなく、彼の上がりを阻害するようなところがちょっとありましたね。この試合では、山岸がうまいタイミングで中へに切れ込んで三都主の上がりを引き出したり、逆に山岸がポイントになって三都主を動かしたり、といいところが出てきたと思います。

まさに先制点は山岸が受けて、三都主に落とし、そのまま反転してサイドへ流れたことで、三都主がフリーになってきれいな斜めのスルーパスを巻→播戸と通したもの。このような動きがあると、三都主も「低目のサイドの司令塔」としての役割をもっともっと果たせるようになっていくかもしれません。この試合ではなんだか、持ちすぎて取られる三都主のドリブルは減っていたように思いませんか?山岸がずっと起用されるかはわからないですが、こういう風に三都主の個性が生かせるのは良いことと思います。

課題はもちろん、ちょっとミスが多かったことですが、その一番大きな原因は経験不足によるものでしょう。技術のある選手でも、海外経験が浅い頃はミスが多く代表でも叱責されていましたから、それはこれから解決されていくものと信じたいですね。ただ、普通は20代も前半の頃にそういう経験をしている選手が増えていくはずですが、この数年の日本は、五輪世代とフル代表世代の強化の連携が取れていなかったこともあり、これからの短期間で経験を急速に血肉にしていく必要があります。今選ばれている選手には、がんばって欲しいものです。


エレガント?

ところで、インド戦のもう一つの(共通する?)改善点として、オシム監督の以下の談話がありますね。

オシム: 改善点で一番重要なのは、落ち着いて冷静でいられること。それから効果的なプレーをすること。スキルをもっと正確にすること。これらをひとまとめにしてひとつの単語にするなら「エレガント」ということになる。私の考えだが。

以前は「あまりにもエレガントなプレーヤーは難しいかもしれない」と言っていましたから、「これは心境の変化か?」とスポーツ新聞が騒ぐのはわかるのですが、この真意はどこにあるのでしょうか。あるいは、これを受けて、オシム日本にはなにか変化が訪れるのでしょうか?

まず素直に考えられるのは、中村憲剛選手や長谷部、山岸といったあたりの選手が、もっと「落ち着いて、冷静に、効果的なプレーを」アウェーの地でも行えるようにすることが求められる、ということでしょう。また彼らには、試合展開を見て、あるいは相手のサッカーを見て、わざといったんスピードを緩めるようなプレーもしていって欲しいと思います。今はまだ、「早く前へ」の意識が強すぎて、かえって自分で苦しくしてしまっているように見えますね。

そして、もう一つ考えられるのはオシム監督がこれまで以上に「エレガントなプレーヤーを呼ぶ」という可能性です。

私は個人的に、オシム監督はいずれは海外組を呼ぶだろう、と思っています。松井、小笠原、中田浩二、そして中村俊輔、高原、稲本といった選手は、タイプの差こそあれ、みんなオシムサッカーに適合すると考えられるからです。ダイナミックな守備力、展開力、そして怒涛の攻撃参加の稲本は、まさにうってつけですし、中田浩二の守備と、左足の精度もオシムサッカーに向いていますね。その他の選手も、誰もが呼ばれておかしくないと思います。

今呼ばないのは、国内組でのベース作りをまずするべき、という意図があってのことだろうと思います。また、海外組みには当面自分のチームでの地歩がために専念してもらうために、親善試合やアジアカップ予選ごときでは呼ばない。また「いずれ呼ぶ」と言ってしまうと、今のチームのメンタルにいい影響があまりないから、それは当面は言わない。これはサッカー的には、きわめて論理的な態度だと思います。さて、これからはどうなるのか。


仮説: オシムの「多中心」サッカー

先に「いったんボールを落ち着けるプレー」を、中村憲剛選手、長谷部選手、中盤にいるならば鈴木選手、山岸選手といったあたりに「して欲しい」と私は書きましたが、オシム監督がそれを望むかどうか、と言うのは正直わかりません。今の日本のスピードも、例えばプレミアなどと見比べると別段それほど「早い!」と言うほどではありません。ここでいったんスピードを落とすプレーを今後の日本代表が求めるのかどうなのか、興味深いところですね。

実はそういう意味で、現行オシム日本の「エキストラキッカー」枠は三都主であろうと思っています。先に触れたような「エレガントな」プレー、いったんボールを落ち着けるプレーは、主に彼に担わせるようにチームが設計されているのではないか。常々言われるように、サイドはもっとも敵のプレッシャーがかかりにくいところ。そこに三都主というボールを持てる選手を置くことで、困った時の預けどころとしているのではないか、という仮説です。

これは前々トルシェ代表監督も採っていた手法ですね。トップ下はプレッシャーがきついために、中田ヒデ選手のような強さか、森島選手のような運動量がないと起用しない。左アウトサイドを高めにおいて、「エレガント」なプレーはそこの選手に担わせ、ゲームを作っていく。名波選手、中村選手、小野選手といった、ゲームを作れる選手をそこに置いたのは、そういう意味があったわけです。

当時、ポリバレンスを重視するトルシェ日本のサッカーを「リゾーム」的なのではないか、とする議論がなされていたようですが、私はその中に深くは参加しなかったのでよくは知りません。ただ、もしリゾームの定義を「脱中心化」とするのなら、私はトルシェのサッカーは意外と「左サイドという中心」をはっきりと持っていたチームだったと、今では捉えています。「左サイドにゲームメーカーがいる」というのは比喩でも煽りでもなく、そのままの意味だったのですね。

さて、オシム監督は今後「ゲームメーカー」を置くかどうか、というのが非常に興味深い点だと思います。トルシェ時代の「左サイドのゲームメーカー」に比べると、三都主は明らかにゲームメーカー「然」としていない。彼を中心にゲームを組み立てていく、というようではない。中心というよりは、チームの一部としての「エキストラキッカー」という方がしっくりきます。ポジションとしてではなく、役割として、今後オシム日本は「ゲームメーカー」を求めていくのかどうなのか。

すくなくとも、これまでのオシム監督は「こいつにボールが渡ったら攻撃の合図だ」的な、中心となる選手を決めていないように見えます。トルシェ時代に比べてもさらに、「多中心」とでも呼ぶべきサッカーを展開している。しようとしている。中心となる選手なんかいない。そういうプレーができる選手も、ちょっとボールが動いたらそれに反応してアウトサイドの選手の外を大きく走って上がらないと、それはオシムサッカーではない。

これまでは、オシム監督はそういうメッセージを発していたように思います。さて、これからはどうなるでしょうか。あるいはサウジ戦までは国内組でベースを作るとして、その後、海外組が合流してきた時、彼らは一つの「中心」となることを求められるのでしょうか、それとも、「多中心サッカー」の一部となることを求められるのでしょうか。

なんとも興味深いことですね。それではまた。

02:19 AM [オシム日本] | 固定リンク

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