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September 11, 2006

前進を始めた車(イエメン戦/A)

Yemenawアジアカップ最終予選、アウェー・イエメン戦を1-0で勝利し、サウジアラビアがインドを下したことで、日本はアジアカップ本大会出場の権利を得た。Jリーグも含めた恐ろしいほど過酷な日程、酷暑の後に2300メートルの高地、でこぼこのピッチといった悪条件のなか、戦い抜いた選手たち、監督、スタッフには、本当に敬意を表したい。お疲れさま。ありがとう。

さてそのイエメン戦だが、個人的には「この高地でどこまでやれるのか」という目で見ていた。高地環境でよく知られているのはエクアドル(2850メートル)だが、かの国もワールドカップ予選でブラジル、アルゼンチンにもホームでは勝ってしまう程、高地ホームというのはアドバンテージが大きいものだ。イエメンもホームで北朝鮮に引き分け、UAEに3-1と勝っている。そのような環境は日本選手にどのような悪影響を及ぼすものか。ありていに言って「大丈夫か」という心境だった。

ところが日本は前半から飛ばしていく。私は「えっ、ペース配分考えないの?」と思ったのだが、まあ動ける前半でガツンとやって先制して、その後は動きが落ちても我慢する、というゲームプランなのだろうと納得することにした。ところがここで日本の前に立ちはだかったのが、劣悪な凸凹ピッチという敵だった。これも、オシム監督の重視する「ショートパスをつないでいく流動性サッカー」には不向きなものだったのだ。

悪いピッチだとどうなるかといえば、2004年のアジアカップvsヨルダンにおけるPK戦で、PKスポット付近の足場が不安定になっていたことで、中村、三都主の名手二人がPKをはずしたことを思い起こせば、想像がつくだろう。イエメン戦も同様か、それ以上だった。軸足が定まらない。キックの瞬間にボールの重心が十センチも動くようなイレギュラーバウンド。これではDFラインでのパス回しなどは、怖くてできないくらいではないだろうか。

イエメン戦では、とりあえず慣れるまでは、DFラインで奪っても、ショートパスをつなぐより、大きく放り込む方を選手は選択していた。これは当然のことと思う。アウェーでもあり、ホームでは勝っていることもあり、序盤はそれほどリスクを犯す必要はないからだ。代わりに、高い位置で奪ってシュートまで手数少なく持っていく。いきなり開始早々、敵の短いクリアを拾って羽生がシュートしている。その方が正しい。


■なじみの4-3バック

布陣はサウジ戦から駒野を羽生に代え、三都主を左サイドに下げた形。敵が1トップなら4-4-2になるか、というところだったが、阿部は途中からやはり3バックの左に近いポジションを取る。このように敵のFWの人数に応じて最終ラインの人数を試合中にでも増減するのはオシム監督がジェフでもやっていたことだ。さらに言えば、DFラインの選手でも前が開いていればポジションを崩してオーバーラップすることも奨励されているわけで、オシム日本では「全員がフィールド全域で力を発揮すること」が求められている。

DFが上がれば誰かが下がり、鈴木が迎撃に出て行けば誰かがそこを埋め、サイドが中に切り込めば、ボランチ、OMFがその外側をオーバーラップしていく。チャンスになると思えばリスクチャレンジが当然であり、逆に回りの選手はそれに対してリスクヘッジのために自分でポジションを移動していく。流動的、ポリバレントであることが当然のオシムサッカーは、もはや固定的なフォーメーション論では語れなくなっていくだろう。

さて、イエメン戦の3バックだが、この試合では3人がピッチいっぱいに広がってパス回しをしようというシーンが出てきた。この方がDFラインでのパス回しには効果的で、オシムのいわゆる「各駅停車」から改善しようという意図だろう。DFラインでは「一人飛ばして」(←これ大事)パスを回すようになり、坪井もパスを早く強く蹴ることを意識しているように見えたし、ボランチも早く顔を出すようになった。川口もロングフィードを止め、ショートパスでつなぐようになった。こういう「前進」が少しずつだが各所で見られていたことは歓迎したい。


■MHT(もっと羽生を使えばいいのに)

前半8分には、羽生が動き出し、阿部がそこへロングフィードを入れている。この「動き出す羽生を使うプレー」は今後もっと注目されていいだろう。ホームでのイエメン戦では、後半羽生が入り、同じようにフリーでサイドへダイアゴナルランを繰り返していたが、ボールを持った三都主はほとんどそれを使わなかった。私は「もっと羽生を使えばいいのに」と思い、それが起こるたびに観戦メモに「MHT」と何度も書いたほどだ。ダイナミックに動く選手は、おとりとするのもいいが、やはりそこへボールを入れて基点とすることで、敵の守備網を広げていくことができる(注:もちろん羽生「的」な選手という意味である)。

この前半8分のシーンでは、おそらく気圧の関係でボールが飛びすぎ、ラインを割ってしまったが、これ以外にも「動き出す羽生にパスを出し、基点として、攻撃を構築する」という意図のある攻撃を、前半14分、18、24、35、後半1分、9、11、16、26と、繰り出すことができている。24分の攻撃では、左サイドで基点となった羽生から、遠藤→加地とつなぎ、あと少しでシュートまでいけそうな攻撃ができていた。まだ連携不足で、またイエメンが守備に人数を裂いてきたこともあり、決定機につながるものは多くはなかったが、ホームイエメン戦での「羽生の動き出しを使えない」という状況からはだいぶ向上しているのだ。


■数的有利を作ってのサイドアタック、プレスからのダイレクトプレー

向上といえば、サイドアタックもいくらか向上しているといえる。サウジ戦の駒野-三都主という組み合わせから、三都主-羽生という組み合わせへ(羽生は実際には右サイドへも動いていたが、左が多かった)。羽生は高い位置で三都主からのパスを何度も受けている。逆に右サイドは、遠藤-加地という組み合わせ。右サイドは加地の判断がよく、加地がもって中に入ると外を遠藤や鈴木がオーバーラップするという攻撃もできていた。後半8分などは、遠藤はほぼフリーで加地からボールを受け、クロスを上げている(ただこのクロスが、完全にあさっての方向へ飛んだのはなんとも残念だった)。サイドで数的優位を作り、攻撃していく、という狙いは、サウジ戦よりもよくできていたといえるだろう。

また、奪って即攻撃、あるいは全力ダッシュというオシムサッカーらしい攻撃も、空気の薄い悪コンディションでありながら、だんだん増えてきている。前半12分、17、31、41、後半6分、7、22、35。奪う時の連動性、奪えると思った瞬間に走り出すこと。前半31分は、奪って加地→羽生→達也がすばらしいクロスを上げて、ゴール前でフリーの巻がヘッド。後半22分は巻の足がもつれなければビッグチャンスだったし、35分は佐藤寿人がふかしてしまうが、なかなかの決定機だった。このように、「チームとして狙っていることができて来る」というのも、練習の成果を感じるものだ。

ただ、田中達也と巻、羽生のコンビネーションはいまひとつだった。羽生はすばやく動き出し、サイドのスペースへ入り込むため、2トップの後ろにはスペースが空く。ここには遠藤や鈴木が詰めるか、2トップの一人がいったん下がるかするところだが、この試合ではそれはまだ難しかった。それが原因で、田中達也の2度のヒールパスが誰もいないところへ出てしまうことになる。田中達也から佐藤寿人への交代は、コンディションもあるだろうが、この辺のコンビに賭けるよりも、ある程度はラインを上げてきているイエメン相手には、佐藤寿人の「裏を取る動き」の方が有効という考えだったのだろう。


■狙って作ったチャンスと、問題点・・・

前半23分には、自陣で奪った阿部が闘莉王にバックパス、闘莉王は羽生へパスするが羽生がスルー&ゴーし、巻がダイレクトで流したパスがもう一度羽生へ、羽生は前の達也へスルーパス、もうちょっと合えば1点もののシーンだった。24分には前述の羽生→遠藤→加地。44分には坪井が左へドリブルで上がり、達也へ、達也はミニドリブルから前の羽生へ短いスルーパス、羽生の折り返しはDFに当たるがもう一度達也へ、達也→遠藤→加地、加地のシュートは浮いてしまう。

後半17分には加地にパスが入ったところで坪井が駆け上がり、加地から巻がスルー&ゴー、佐藤寿人がダイレクトで折り返すと、外から上がってきた坪井がシュート(ただしオフサイド)。26分には遠藤のドリブルから、巻がスクリーン・スルー、受けた寿人が横にパスすると遠藤がどフリー、しかしこのシュートもふかしてしまう。これらのように、練習で繰り返した「ダイレクトを中心にしたショートパスの連続&2人目、3人目の動きを絡める」攻撃から、狙ってチャンスを作ることもできているのだ。

ただ、残念だったのはこれらの最後が「ふかしてしまう」などになってしまっていることだ。これはW杯前の、シュート22本で1点しか奪えなかったvsマルタ戦(JFA.STATS)でもそうだったが、どうしても最後のところのシュート、クロス、パスの精度が低い。個人的には特に、経験もあり、おそらくはオシム監督のいわゆる「エキストラキッカー」(*1)として起用されているだろう、三都主と遠藤にそれがあると、問題だと思ってしまう。もちろん、芝の問題、疲労の問題、空気の問題など、多くのことが彼らの足に縛りをかけているのだろう。ただやはり、後半8分のフリーのクロス、後半26分のフリーのシュートなどは、正確に蹴ってほしいものだ。

*1:(技術が高く、試合を決める力を持つ選手のこと=時として、幾分「走り」が少なくとも許される?笑)


■この時期、条件における「内容」とは

この試合に関して、「内容が悪い」という批判があるという。「サウジが4点取った相手」だということから来るのだそうだが、それ「だけ」で考えるのは、ちょっと短絡的ではないだろうか。日本のJリーグの過密スケジュール、アウェー2連戦、サウジは継続したチームだが、こちらは立ち上げたて、など、多くの条件が違うのだ。確かに万々歳といえるような内容ではなかった。しかし、前日に負荷の高い練習をしていることからわかるように、オシム監督はこの試合も、「勝ちさえすればそれでいい」とはしていないのだ。そこを考えるべきだろう。

アジアカップ予選は、公式戦ではあるが、GL2位までに入ればいいのである。であれば、先を見据えてチーム作りを優先させながらでも、突破できるだろう。拙速に勝利だけを求めるやり方ではなく、である。そう考えれば、この時期にこのように、先を見て強化していくことは理にかなっている。そうして、前の試合ではできていなかったことがしっかりと改善され、チームとしての共通理解も深まってきている。アウェーでシュート16本(JFA.STATS)を放っている。これを「内容が悪い」とまで言うほどだろうか。

ただ、試合をライブで見ているときは、私もずいぶんと腹が立っていたことを告白しておく(笑)。どうしてこれほどのチャンスを無駄にするのか、どうして簡単なプレーをミスするのか、TVの前で声をあげたことも二度や三度ではない。しかし、後からビデオで見直してみると、むしろ「いいチャンスをけっこう作っているじゃないか」「なかなか運動量が落ちないじゃないか」というほうが先にたつのだ。サッカーの試合とは、1点が遠いもの。本質的にフラストレーションのゲームなのだ。ライブではその感情が試合内容を悪く見せる。しかし実際のプレーは、上で細かく見たように少しずつだが、向上していると思う。

最後に、前回上げた「向上すべき点」について。


○ボランチがバイタルを空けた時の、周囲のケア(をやり通す)

→ほとんどイエメンに攻撃させなかったのでわかりにくいが、後半31分にも加地がバイタルエリアに絞っているのが確認できる。

○ペースを握られた時の、落ち着かせ

→これも判断しにくい。

○「ビシッとクサビパス」の精度

→グラウンダーのパスを通しにくいピッチだったので保留。

○可能性の低いフィードを蹴らない

→川口のロングボールも減っており、全体にパスで組み立てることは向上していた。

○さらに早い守→攻の切替

→これは、先にも書いたように向上していると思う。ただ、いい時のジェフのような「何人攻撃参加するんだ?」と言うほどのものにはなっていない。もっともっと、先にいける部分であると思う。

もちろん、これで十分ではまったくない。それは監督も、選手も我々以上によくわかっているだろう。これはあくまでも、車の押し始めに過ぎないのだ。ようやくタイヤが回転して、車が微動し始めた。ただ、車も動き出すまでが一番大変なのであって、動き始めれば慣性がついて、次第に加速していくものだ。本当に最低限の、アジアカップ出場というハードルをクリアした今、「日本化」されたムービング・フットボールの実現に向けて、さらにさらに向上していって欲しいと思う。

それではまた。

06:06 PM [オシム日本] | 固定リンク

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