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September 30, 2006ガーナ戦に向けて
前回のエントリーでは、アウェー・イエメン戦での日本代表の向上した点を主に書いたが、もちろんまだできていないことも多々ある。今回は近づいてきたガーナ戦へ向けて、それらを見ていこうと思う。しかし、よく言われるような「最後のワンプレーの精度」についてではない。それは確かに問題だし、「もっと精度の高い選手を選べばいいのに」とも思うが、そこに対する批判、叱咤激励はもう十分いろいろな人がしていると思うので。
Number誌662号で、オシム監督はリトバルスキーのインタビューに次のように答えている。
オシム: 残念なことに、日本人は最後のアイディアだけが唯一だと思っている。例えば5つのコンビネーションについて話している。彼らには、ただ最後のものだけが大切でその前の4つを忘れている。日本のチームのどこでもそうだ。基礎ができていないこと、これが日本人の問題だ。彼らはいまだにサーカスのテクニックでやっていこうとしている。間違っているよ。
ここではなるべく、「その前の4つ」について見て、考えてみたいと思う。
羽生の動き出しのタイミングと周囲のプレー
前回私は、「羽生の動き出しが非常に早いこと」「そこへボールを入れて、基点とすること」について書いた。それは「できていたこと」ではあったのだが、それに集中することによる弊害もまた、あったのだ。サイドのスペースへ先に羽生が侵入してしまうことで、三都主は上がることが減っていった(ニッカンデータセンター:「プレーヤー分析」の羽生と三都主のプレイポジションを参照)。
右サイドでは比較的、「数的有利を作ってのサイドアタック」の意識が高かったのだが、左サイドは羽生がシンプルに侵入していくことの方が多かった。後半、田中達也に代えて佐藤寿人が投入されたのは、その点を改善しようとしてのことだろう(同じくニッカンデータセンター:佐藤のプレーポジションを参照)。そうすると今度は、佐藤、羽生が先に左サイドのスペースを占有してしまうことで「人の渋滞」とでも言うべき現象が起こり、攻撃がやや窮屈になってしまっていった。
これは別の見方をすると「羽生の動き出しが早すぎる」と言うこともできる。ただ、世界レベルでの展開の速いサッカー(YOUTUBE)では、「羽生のタイミングで普通」であると思う。世界レベルでは、素晴らしく早いタイミングの動き出しに呼応し、周り中がパスコースを作ったり、横を併走したり、スペースへ走ったり、ということができる。イエメン戦の日本は、まだまだ羽生のタイミングとテンポを合わせることができなかった。羽生がタイミングをもっと見るべきか、周りがそれに呼応するようにしていくべきか>
前代表時代は、まず「ミスを少なくするように、確実に、無理せずつなぐ」ということが優先され、その限りにおいてスピードを上げていくことが求められていた。言わば「自分のできるスピードで」ということだったわけだ。私はオシム日本では、例えばプレミアに見るような「あの速いスピードで」という目標を掲げて、今は無理でミスが出たとしても、ハイテンポ、ハイスピードのプレーを目指していった方がよいと思う。ややあっぷあっぷしながらでも目標を高く持ちながら過ごしていったほうが、「そこで必要な技術がいかに足りないか」が理解でき、最終的な到達点は高くなると思うからだ。
トップ下地帯の空白
また、羽生が攻撃的MFの位置から早いタイミングで左サイド前方へ流れることで、いわゆるトップ下地帯に空白ができてしまっていたことも気になる。遠藤は、阿部が下がって3バックを形成したことによってやや下がり目でのプレーが多くなり、また加地の外をオーバーラップするなど、「数的有利を作ってのサイドアタック」への参加を主に意識していたように思える。これは前日の練習で、それを主に練習したことが染み着いていたからだろう。
それ自体は悪いことではない。前の試合でできていなかったことを練習で修正し、それが次の試合でピッチ上に表現される。また別の問題があれば、さらに修正すればよい。そうやって「強化の課程」が目に見えていくというのも、楽しいことではないか。それでこそ、マッチ→トレーニング→マッチの意味があるというものだ。ただ、遠藤がそのようなプレーを多くすることで、トップ下地帯の空白はより顕著となったことは、この試合では確かだろう。
上記のような羽生と遠藤のプレーによりトップ下に空白ができたため、この試合ではそこを基点にする攻撃が少なかった。もちろん、引いた敵をトップ下地点からこじ開けていくことは難しいのだが、「空白がある」=スペースができている、ということでもあるわけで、田中達也や巻がそのスペースに下がってボールを受けてもよかった。そのように人の出入りがあると、ボールが動き、敵のマークを混乱させていくことができるものだ。
これは実は、よい時の柳沢の得意とするプレーでもある。ちょっと下がってクサビの縦パスを受け、はたいてパス&ゴー、それによってまわりの選手が生きるスペースを作り出す。彼の「ムービングポスト」とでも言うようなプレーは、ポジションチェンジや2列目、3列目の攻撃参加を重視するオシムサッカーには、実にフィットするものだと思う。現状の彼のコンディションや、今は若手発掘を優先するオシム日本の方針もあるから、「ヤナギを呼ぶべきだ!」とは言わないが、他のFWもそういうことを意識してもよいのではないだろうか。
また、このスペースはJEF千葉では佐藤勇人(ボランチ)が上がっていって使うところでもある。代表では鈴木啓太や、遠藤、阿部がもっとここに進入し、場合によってはFWを追い越していってもよいだろう。スペースを空けるのは、そこを誰かが使うために行うことだ。敵からするともっとも怖いゾーンであるが故に「バイタルエリア」と呼ばれるのだから、これからはもっとそこを使う意識を高めていってほしいと思う。
羽生の卒論
SOCCER UNDERGROUNDさんのところで知ったのだが、羽生の筑波大学の卒業論文は、森島(セレッソ大阪)のプレースタイルについてだったという(Wikipedia)。私は個人的にはモリシのプレースタイルは大変好きであり、これはとてもうれしい話題だった。日本がその特長を生かしたサッカーをするには、モリシのようなプレーヤーを生かしていくことが重要だろう。羽生にもどんどん研究し、盗み、最後には全盛期のモリシをも越えて行ってほしいものだ。
その森島のプレースタイルだが、いわゆる「運動量、2列目からの飛び出し」に加え、スペースを作り、使うプレーも非常にうまかった。直線的な速さだけでなく、いったん下がってボールを受けて、はたいた後の「きゅっ」と反転するプレー、ボールホルダーに寄って行った後「すっ」と離れ、自分で作ったスペースに侵入するプレー、そういうプレーが抜群だったと思う。
このオシム日本で言えば、巻がいったん下がってボールをさわり、そこに達也が流れ、空いたスペースに羽生が侵入していく、などのプレーが個人的にはもっと見たかった。前線でくるくるとポジションチェンジをしていってのパス回しは、ヤナギ、モリシがいる時の代表のもっともよいパターンだった。直線的なスピード、動き出しの早さも大事なのだが、そういう曲線的なムーブメントもモリシのプレースタイルの特徴的なところだ、と羽生の卒論に書き加えておいて欲しいと思う。そういうプレーがあると、マークについた相手も混乱し、引かれた相手も崩せて行くものだ。
次のガーナ戦は、イエメン戦とは違い「引いた相手を崩さなくてはならない」という試合にはならないだろうと推測している。よりオープンな試合となるだろうから、羽生の(出場するとしてだが)すばやい動き出しにまわりが呼応していくようなアタックが、より有効となることだろう。しかし、これからまた引かれた相手を崩さなくてはならなかった時には、トップ下の位置をかわるがわる利用してスペースを作り、使うプレーを意識して欲しいと思う。そうすれば全盛期モリシのいた2000レバノンアジアカップのように、連動した攻撃で引いた相手からも得点を奪っていくことができるようになるだろう。
阿部のプレー
羽生がややセンターよりでプレーした場合には、阿部がサイドアタックを担ってもよいだろう。後半右のCB坪井が何度も見せていたように、どんどん上がって攻撃参加してもよいと思う(アウェー・イエメン戦では先に書いたように左サイドは渋滞していたため、あがる必要はなかったが)。またこのポジションには、現在スイスのバーゼルでCBとしてレギュラー出場中の中田浩二選手も入ることができ、彼ならば攻撃参加した後の左足のクロスの精度も非常に高いものがあるだろう。
サイドアタックというとすごいドリブルやすごいスピードの切込みを思い浮かべるが、オシム監督がやろうとしている「数的有利を作ってのサイドアタック」では、それよりもお互いによく走り、タイミングを生かして攻めることが求められる。であれば、坪井や阿部、中田浩二(選ばれれば)がどんどんそれに参加するのも、当然のことになるだろうし、そこで阿部や中田浩二のように精度の高いキックを持っているCB(不足している、とオシムは語る)は、非常に重要になっていくだろう。
中央は使えなかったのか、使わなかったのか?
また、先ほどのトップ下地帯が空白になっていることについてだが、これは「意図的に、わざと」である可能性も実はある。この試合の最大の敵は劣悪なピッチではなかったかと私は思っているのだが(笑)、それによってどうしてもパスミス、トラップミスが出る。中央からの攻撃は、そこで日本選手がミスをして奪われると、一気に数人が置いていかれるカウンターに晒される危険性が高いのだ。サイドでならば、ミスが出てもそういう危険は少ない。それを考慮して、あえてサイド攻撃を主とした、という可能性があるのである。
それは、この試合ではパススピードの速い「ビシッとクサビパス」がほとんど見られなかったこととも関連する。阿部や遠藤、三都主や加地あたりから、「ビシッとクサビパス」がFWに入れば、中央からの効率的な攻撃ももっとできたと思うのだが、それはやはり少なかった。ピッチの影響でミスとなる危険、敵の狙うカウンターにはまる危険を避けたのではないか、とも思えるのだ。
日本で行うガーナ戦ならば、ピッチの問題はないだろう。この試合では思う存分、コンセプトどおりの試合を展開して欲しい。そのためには、阿部にはもっともっとリーダーシップを発揮して欲しいものだと思う。現在のチームには、長短のパスで攻撃のリズムを作り出す「レジスタ」役となれる選手が、前代表と比べてそれほど選ばれていない。それに適任なのはやはり素晴らしい右足の精度を持ち、視野も広い阿部なのだ。DFの都合でCBに下がったとしても、そこからでも「俺が試合を仕切る!」という意思を持って回りを動かして欲しいと思う。
さあ、ガーナ戦!
ガーナ戦、誰がピッチに立つのかはわかりませんが、羽生(的な選手)の動き出しのタイミング、センターを使えているか、ビシッとクサビパスは入るか、そしてサウジ戦からの持ち越しの課題:ボランチがバイタルを空けた時の、周囲のケアをやり通せるかどうか、などに注目してみてみようと思っています。試合ごとに監督や選手が問題を認識し、改善しようという姿勢の見える代表は、継続してウォッチするのが楽しいものですね。あ、それともちろん、個人的にすごく期待している二川と山瀬、もしかしたらそろそろ呼ばれるかもしれない播戸あたりの出場があると、すごくうれしいのですけど。
平日夜の日産スタジアム行きはちょっと大変ですが、楽しみです。
それではまた。
03:37 AM [オシム日本] | 固定リンク | トラックバック (2) |
September 18, 2006U-17代表おめでとう!
シンガポールで行われていたU-17アジア選手権の決勝戦、日本が北朝鮮を4-2で下して優勝です!小野たちの世代以来、12年ぶりにU-17がアジアを制しました。おめでとう、本当におめでとう!選手、監督、関係者の皆さん、本当におめでとう&お疲れさまでした!
布陣は最初はこんな↓感じでしょうか。
前半、北朝鮮の大きい・速い・強い選手たちにちょっとペースを見失い、自分たちのサッカーができず、ロングボールを蹴りこむことが多くなっていました。もしかしたら、決勝戦という大一番ならではの緊張もあったかもしれません。こういうしびれる試合の経験が選手を成長させていくものですね。日本はすでにこの先のU-17ワールドカップへの出場を決めていますから、さらに厳しい勝負が待っています。そういう意味でも本当によかったですね。
北朝鮮は、その大・速・強3拍子ボディに物を言わせた、ちょっと昔の韓国サッカーのイメージ。ドカンとFWに放り込み、体でそれをものにして、ゴリゴリと個人でサイドをえぐり、前が開けばずどんとミドルシュート。荒削りだけど、迫力はある。先制されたのは敵の8番の選手のミドルシュートが、日本DFに当たってコースが変わった、ちょっと不運なものでした。
北朝鮮の選手は本当に大きく、身体能力も高く、ちょっと何歳ですか、と聞きたくなるような・・・。日本は序盤それを生かしたサッカーにやや呑まれるものの、次第にペースを取り返し、パスをつなげるようになってくる。ところが実は、そういう時がちょっと危ないんですね。「さあやるぞ」と前に出かかったところが、攻守の、試合の流れの分岐点になってくることが多いのです。
2失点目は、まさにそういうタイミング。日本の選手がなんとなく上がり目になってきたところ、敵の7番、アン・イルボンにボールを入れられてためられて(この時に「あれ、DF薄いぞ。戻り遅いぞ」と思いました)横へ流され、11番のあまりうまくない切り返しに日本のDFが滑ってしまい(人工芝ということもあるでしょう)、シュートを決められてしまったもの。
残念、しかしパスは回せている、人も動いている。日本の形はできているのですから、後半で取り返せばいいんです。
■日本のサッカーを取り戻す、そして得点
後半、日本は柿谷君を左サイドMFに移します。斉藤君と大塚君が2トップのようなカタチでしょうか?ボランチの10番山田君も、前半以上に攻撃に絡み、上がっていくようになります。柿谷君は、比較的マークがゆるくなるサイドでボールを持つと、ほとんど失いません。彼を基点に日本はどんどん走ってパスを回して、ペースを握っていきます。
後半12分、山田君のパスが敵DFライン左(敵から見て右)の柿谷君に入り、彼はボールを(わざと?)トラップでポーンと浮かせて、もう一度ポーンと浮かせて反転、DFを置き去りにしてキーパーと1vs1、右足アウトにかけてゴール右隅へ、というなんとも技巧的なゴール!素晴らしい技術!まるでレオナルドかベルカンプか、と思いましたよ!(笑)
その後も日本の攻勢は続き、後半33分、ペナルティエリア直前でドリブルのスピードを落とした柿谷君から、途中交代で入った端戸君へ、わざとのゆるい、短いスルーパスが通って、端戸君は強いグラウンダーのシュート!GKの脇の下を抜いてゴール!
私はナイジェリアワールドユースでの、小野のプレーを思い起こしました。あの時も、「小野が持つと時間が止まる」という印象があったのですが、この時の柿谷君の「ふっ」とスピードを緩めるプレー、それに呼応してDF全員が一瞬「これからどうなる?」と混乱した時、その瞬間も私には時間が止まったように感じられました。
また、影のアシストとしてはこの時CB金井君が、中央から柿谷君を追い越しているんですね。柿谷君はそっち(柿谷君から見て右)を見つつ、それとは違う方(同左前方)へ、ノールック・スルーパス。敵DFは全員が柿谷君の視線を追って、金井君のほうへ首を回していました。敵の視線が完全にコントロールされている瞬間。ちょっとゾクッとしてしまいましたね。
■延長~「走ること」と技術・アイデアの両立
同点になり、延長になると、またちょっと北朝鮮がペースを握ります。何かに尻を炙られたような、そういう勢いで前に出てくる。もともと体も速さもありますから、そうなると少しずつ後手にまわり、いくつかのチャンスを作られてしまいます。日本側で気になるのはちょっと「えいやっ!」とでもいうようなディフェンスが増えてきたこと。疲れてくると、難しく考えるよりも当たりに行ってしまいたくなるんですが、それがかわされるとピンチが広がってしまう。人工芝だからということもあるのでしょうが、スライディングのタイミングも早すぎ、リカバーできなく、ピンチが広がっていたりすることもありました。
が、敵のシュートミスにも助けられ、延長後半へ。ここでFW河野が投入されます。この時間帯になっても、ボランチの山田も岡本もOMFをオーバーラップしていく運動量。いやーこのチームも「走るサッカー」ですね。水を運ぶ選手がたくさんいる(笑)。
3点めは河野君が、ドリブル、Pエリア内でDFを背負った水沼君にパスを出して&ゴー、水沼君はDFを背負ったままヒールでぽわんと横へ、河野君がそれを走りこんで受け、DFの密集の中でシュート!ゴール!
4点目は、北朝鮮がさらに前がかりになったところ、一発のカウンターでDFラインを抜け、キーパーと1vs1になった河野君が、普通にシュートを打つより「半拍」速いタイミングで、左足のアウトでシュート!
キーパーのタイミングを完全にはずしてゴール!2002年W杯のロナウドのトゥキックシュートを思い出しましたよ。ああいうキーパーとの1vs1は意外に決まらないもの。正直にキーパーにぶつけてしまうケースも多いです。この、キーパーが準備を整える前のアウトサイドシュートは、いいアイデア&技術でした。
2点先制されたところから、4点取り返しての、これはなんとも価値がある勝利ではないでしょうか。しかもスタミナ自慢の北朝鮮から、延長後半で2点とは!さらに、得点がいずれも技術とアイデアと走力で奪った素晴らしいゴール!いやー、いいものを見ました(嬉)。今日はみんな、みんなヒーローですね!そうそう、試合終了後にみんなが肩を組んで歌っていたのもよかったです。みんなもゴル裏好きなのかな(笑)?
■「日本化」されるU-17のサッカー
ところで、U-17のサッカーはオシムサッカーみたいだなあと思っていたら、サポティスタでこういう記事が紹介されていました。トリニダート・トバゴ戦後ですから、アジアU-17選手権よりも前に書かれた記事だと思いますが、大会を(いくつかはインターネットで、決勝はBSで)見ていると、まさにここに書かれたようなサッカーをしているように見えました。
城福監督: 「セーフティにやれ、と言えば、選手たちはできる。だけど、自分たちがリスクを冒さないと、点は取れない」
と同時に、「やり続けなければ、すぐにリスクを冒せるようにはならない」と、その難しさも痛感しているようだった。だからこそ、「ジェフのサッカーは、日本人が一番生きる」と常々考えていた城福は、オシムへの期待をこう表現した。
「このチームでもう1年7カ月やっていますけど、その意識を植え付けるためには、僕らが5年やるより、A代表が2カ月やるほうが影響は大きいでしょう」
あのサッカーが、「ジェフのサッカーは、日本人が一番生きる」と考える監督によって指導されていたというのは、なんとも納得ですね。
こういう風に日本サッカーの「日本化」は行われていくのだ、と思います。オシムだけがやることではない。城福さんをはじめ、小野技術委員長も、大熊さんも、反町さんも、井原さんも、それどころかあらゆる年代の、日本全国津々浦々の指導者のかたがた、そして選手、みんながやることなのでしょう。私は「オシム監督に期待すること」でまさにそのように書きました。
そして、城福監督が言うように、フル代表のサッカーがそのためのショーケース、いいお手本となる必要があると思います。トリニダート・トバゴ戦はともかく、その後のサッカーはまだそれをなしえていませんが、なんだか一足先にU-17がいいサッカーを見せてくれましたね。これが日本中のサッカー少年に広がって、さらに「日本化」が浸透、加速していってくれるといいですね。
さて、今回のU-17チームに話を戻すと、これで世界の同年代と戦う資格を得ましたが、もちろん今やっているサッカーで十分なわけではありません。先にも言ったDFの問題もそうですし、パス回しだってムービングだって、まだまだ先へ行けるはず。逆に言えば、先に行かないと世界ではそう簡単に通用しないはずです。もっともっと自分を磨いて、レベルを上げて、そしてそれを出し切って、世界をあっと驚かせるような、いい試合をして欲しいですね。
とにかく今日はおめでとう!
それではまた。
06:45 PM [ユース代表] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (2) |
September 11, 2006前進を始めた車(イエメン戦/A)
アジアカップ最終予選、アウェー・イエメン戦を1-0で勝利し、サウジアラビアがインドを下したことで、日本はアジアカップ本大会出場の権利を得た。Jリーグも含めた恐ろしいほど過酷な日程、酷暑の後に2300メートルの高地、でこぼこのピッチといった悪条件のなか、戦い抜いた選手たち、監督、スタッフには、本当に敬意を表したい。お疲れさま。ありがとう。
さてそのイエメン戦だが、個人的には「この高地でどこまでやれるのか」という目で見ていた。高地環境でよく知られているのはエクアドル(2850メートル)だが、かの国もワールドカップ予選でブラジル、アルゼンチンにもホームでは勝ってしまう程、高地ホームというのはアドバンテージが大きいものだ。イエメンもホームで北朝鮮に引き分け、UAEに3-1と勝っている。そのような環境は日本選手にどのような悪影響を及ぼすものか。ありていに言って「大丈夫か」という心境だった。
ところが日本は前半から飛ばしていく。私は「えっ、ペース配分考えないの?」と思ったのだが、まあ動ける前半でガツンとやって先制して、その後は動きが落ちても我慢する、というゲームプランなのだろうと納得することにした。ところがここで日本の前に立ちはだかったのが、劣悪な凸凹ピッチという敵だった。これも、オシム監督の重視する「ショートパスをつないでいく流動性サッカー」には不向きなものだったのだ。
悪いピッチだとどうなるかといえば、2004年のアジアカップvsヨルダンにおけるPK戦で、PKスポット付近の足場が不安定になっていたことで、中村、三都主の名手二人がPKをはずしたことを思い起こせば、想像がつくだろう。イエメン戦も同様か、それ以上だった。軸足が定まらない。キックの瞬間にボールの重心が十センチも動くようなイレギュラーバウンド。これではDFラインでのパス回しなどは、怖くてできないくらいではないだろうか。
イエメン戦では、とりあえず慣れるまでは、DFラインで奪っても、ショートパスをつなぐより、大きく放り込む方を選手は選択していた。これは当然のことと思う。アウェーでもあり、ホームでは勝っていることもあり、序盤はそれほどリスクを犯す必要はないからだ。代わりに、高い位置で奪ってシュートまで手数少なく持っていく。いきなり開始早々、敵の短いクリアを拾って羽生がシュートしている。その方が正しい。
■なじみの4-3バック
布陣はサウジ戦から駒野を羽生に代え、三都主を左サイドに下げた形。敵が1トップなら4-4-2になるか、というところだったが、阿部は途中からやはり3バックの左に近いポジションを取る。このように敵のFWの人数に応じて最終ラインの人数を試合中にでも増減するのはオシム監督がジェフでもやっていたことだ。さらに言えば、DFラインの選手でも前が開いていればポジションを崩してオーバーラップすることも奨励されているわけで、オシム日本では「全員がフィールド全域で力を発揮すること」が求められている。
DFが上がれば誰かが下がり、鈴木が迎撃に出て行けば誰かがそこを埋め、サイドが中に切り込めば、ボランチ、OMFがその外側をオーバーラップしていく。チャンスになると思えばリスクチャレンジが当然であり、逆に回りの選手はそれに対してリスクヘッジのために自分でポジションを移動していく。流動的、ポリバレントであることが当然のオシムサッカーは、もはや固定的なフォーメーション論では語れなくなっていくだろう。
さて、イエメン戦の3バックだが、この試合では3人がピッチいっぱいに広がってパス回しをしようというシーンが出てきた。この方がDFラインでのパス回しには効果的で、オシムのいわゆる「各駅停車」から改善しようという意図だろう。DFラインでは「一人飛ばして」(←これ大事)パスを回すようになり、坪井もパスを早く強く蹴ることを意識しているように見えたし、ボランチも早く顔を出すようになった。川口もロングフィードを止め、ショートパスでつなぐようになった。こういう「前進」が少しずつだが各所で見られていたことは歓迎したい。
■MHT(もっと羽生を使えばいいのに)
前半8分には、羽生が動き出し、阿部がそこへロングフィードを入れている。この「動き出す羽生を使うプレー」は今後もっと注目されていいだろう。ホームでのイエメン戦では、後半羽生が入り、同じようにフリーでサイドへダイアゴナルランを繰り返していたが、ボールを持った三都主はほとんどそれを使わなかった。私は「もっと羽生を使えばいいのに」と思い、それが起こるたびに観戦メモに「MHT」と何度も書いたほどだ。ダイナミックに動く選手は、おとりとするのもいいが、やはりそこへボールを入れて基点とすることで、敵の守備網を広げていくことができる(注:もちろん羽生「的」な選手という意味である)。
この前半8分のシーンでは、おそらく気圧の関係でボールが飛びすぎ、ラインを割ってしまったが、これ以外にも「動き出す羽生にパスを出し、基点として、攻撃を構築する」という意図のある攻撃を、前半14分、18、24、35、後半1分、9、11、16、26と、繰り出すことができている。24分の攻撃では、左サイドで基点となった羽生から、遠藤→加地とつなぎ、あと少しでシュートまでいけそうな攻撃ができていた。まだ連携不足で、またイエメンが守備に人数を裂いてきたこともあり、決定機につながるものは多くはなかったが、ホームイエメン戦での「羽生の動き出しを使えない」という状況からはだいぶ向上しているのだ。
■数的有利を作ってのサイドアタック、プレスからのダイレクトプレー
向上といえば、サイドアタックもいくらか向上しているといえる。サウジ戦の駒野-三都主という組み合わせから、三都主-羽生という組み合わせへ(羽生は実際には右サイドへも動いていたが、左が多かった)。羽生は高い位置で三都主からのパスを何度も受けている。逆に右サイドは、遠藤-加地という組み合わせ。右サイドは加地の判断がよく、加地がもって中に入ると外を遠藤や鈴木がオーバーラップするという攻撃もできていた。後半8分などは、遠藤はほぼフリーで加地からボールを受け、クロスを上げている(ただこのクロスが、完全にあさっての方向へ飛んだのはなんとも残念だった)。サイドで数的優位を作り、攻撃していく、という狙いは、サウジ戦よりもよくできていたといえるだろう。
また、奪って即攻撃、あるいは全力ダッシュというオシムサッカーらしい攻撃も、空気の薄い悪コンディションでありながら、だんだん増えてきている。前半12分、17、31、41、後半6分、7、22、35。奪う時の連動性、奪えると思った瞬間に走り出すこと。前半31分は、奪って加地→羽生→達也がすばらしいクロスを上げて、ゴール前でフリーの巻がヘッド。後半22分は巻の足がもつれなければビッグチャンスだったし、35分は佐藤寿人がふかしてしまうが、なかなかの決定機だった。このように、「チームとして狙っていることができて来る」というのも、練習の成果を感じるものだ。
ただ、田中達也と巻、羽生のコンビネーションはいまひとつだった。羽生はすばやく動き出し、サイドのスペースへ入り込むため、2トップの後ろにはスペースが空く。ここには遠藤や鈴木が詰めるか、2トップの一人がいったん下がるかするところだが、この試合ではそれはまだ難しかった。それが原因で、田中達也の2度のヒールパスが誰もいないところへ出てしまうことになる。田中達也から佐藤寿人への交代は、コンディションもあるだろうが、この辺のコンビに賭けるよりも、ある程度はラインを上げてきているイエメン相手には、佐藤寿人の「裏を取る動き」の方が有効という考えだったのだろう。
■狙って作ったチャンスと、問題点・・・
前半23分には、自陣で奪った阿部が闘莉王にバックパス、闘莉王は羽生へパスするが羽生がスルー&ゴーし、巻がダイレクトで流したパスがもう一度羽生へ、羽生は前の達也へスルーパス、もうちょっと合えば1点もののシーンだった。24分には前述の羽生→遠藤→加地。44分には坪井が左へドリブルで上がり、達也へ、達也はミニドリブルから前の羽生へ短いスルーパス、羽生の折り返しはDFに当たるがもう一度達也へ、達也→遠藤→加地、加地のシュートは浮いてしまう。
後半17分には加地にパスが入ったところで坪井が駆け上がり、加地から巻がスルー&ゴー、佐藤寿人がダイレクトで折り返すと、外から上がってきた坪井がシュート(ただしオフサイド)。26分には遠藤のドリブルから、巻がスクリーン・スルー、受けた寿人が横にパスすると遠藤がどフリー、しかしこのシュートもふかしてしまう。これらのように、練習で繰り返した「ダイレクトを中心にしたショートパスの連続&2人目、3人目の動きを絡める」攻撃から、狙ってチャンスを作ることもできているのだ。
ただ、残念だったのはこれらの最後が「ふかしてしまう」などになってしまっていることだ。これはW杯前の、シュート22本で1点しか奪えなかったvsマルタ戦(JFA.STATS)でもそうだったが、どうしても最後のところのシュート、クロス、パスの精度が低い。個人的には特に、経験もあり、おそらくはオシム監督のいわゆる「エキストラキッカー」(*1)として起用されているだろう、三都主と遠藤にそれがあると、問題だと思ってしまう。もちろん、芝の問題、疲労の問題、空気の問題など、多くのことが彼らの足に縛りをかけているのだろう。ただやはり、後半8分のフリーのクロス、後半26分のフリーのシュートなどは、正確に蹴ってほしいものだ。
*1:(技術が高く、試合を決める力を持つ選手のこと=時として、幾分「走り」が少なくとも許される?笑)
■この時期、条件における「内容」とは
この試合に関して、「内容が悪い」という批判があるという。「サウジが4点取った相手」だということから来るのだそうだが、それ「だけ」で考えるのは、ちょっと短絡的ではないだろうか。日本のJリーグの過密スケジュール、アウェー2連戦、サウジは継続したチームだが、こちらは立ち上げたて、など、多くの条件が違うのだ。確かに万々歳といえるような内容ではなかった。しかし、前日に負荷の高い練習をしていることからわかるように、オシム監督はこの試合も、「勝ちさえすればそれでいい」とはしていないのだ。そこを考えるべきだろう。
アジアカップ予選は、公式戦ではあるが、GL2位までに入ればいいのである。であれば、先を見据えてチーム作りを優先させながらでも、突破できるだろう。拙速に勝利だけを求めるやり方ではなく、である。そう考えれば、この時期にこのように、先を見て強化していくことは理にかなっている。そうして、前の試合ではできていなかったことがしっかりと改善され、チームとしての共通理解も深まってきている。アウェーでシュート16本(JFA.STATS)を放っている。これを「内容が悪い」とまで言うほどだろうか。
ただ、試合をライブで見ているときは、私もずいぶんと腹が立っていたことを告白しておく(笑)。どうしてこれほどのチャンスを無駄にするのか、どうして簡単なプレーをミスするのか、TVの前で声をあげたことも二度や三度ではない。しかし、後からビデオで見直してみると、むしろ「いいチャンスをけっこう作っているじゃないか」「なかなか運動量が落ちないじゃないか」というほうが先にたつのだ。サッカーの試合とは、1点が遠いもの。本質的にフラストレーションのゲームなのだ。ライブではその感情が試合内容を悪く見せる。しかし実際のプレーは、上で細かく見たように少しずつだが、向上していると思う。
最後に、前回上げた「向上すべき点」について。
○ボランチがバイタルを空けた時の、周囲のケア(をやり通す) →ほとんどイエメンに攻撃させなかったのでわかりにくいが、後半31分にも加地がバイタルエリアに絞っているのが確認できる。 ○ペースを握られた時の、落ち着かせ →これも判断しにくい。 ○「ビシッとクサビパス」の精度 →グラウンダーのパスを通しにくいピッチだったので保留。 ○可能性の低いフィードを蹴らない →川口のロングボールも減っており、全体にパスで組み立てることは向上していた。 ○さらに早い守→攻の切替 →これは、先にも書いたように向上していると思う。ただ、いい時のジェフのような「何人攻撃参加するんだ?」と言うほどのものにはなっていない。もっともっと、先にいける部分であると思う。 |
もちろん、これで十分ではまったくない。それは監督も、選手も我々以上によくわかっているだろう。これはあくまでも、車の押し始めに過ぎないのだ。ようやくタイヤが回転して、車が微動し始めた。ただ、車も動き出すまでが一番大変なのであって、動き始めれば慣性がついて、次第に加速していくものだ。本当に最低限の、アジアカップ出場というハードルをクリアした今、「日本化」されたムービング・フットボールの実現に向けて、さらにさらに向上していって欲しいと思う。
それではまた。
06:06 PM [オシム日本] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (2) |
September 06, 2006早すぎる試金石
アジアカップ最終予選、アウェーのサウジアラビア戦が終了した。0-1と悔しい敗戦だったが、アジア5強の一角、ホームで絶対的強さを誇るサウジアラビアとのアウェー戦である。しかも日本は監督が代わって3試合目、サウジは監督が留任しチームの熟成度は段違い、という条件の中で、オシム監督が言うようにむしろ内容では上回っていたのだから、私は及第点だと思う。
「内容」を計る一つの物差し(もちろんあくまで参考にしかならないが)は、「シュート数」だろう。それを見ると、この試合は13:13とまったくの互角であったことがわかる(ニッカンデータセンター)。ただし、サウジは可能性の低いミドルシュートも多く、枠内シュート数では日本5:サウジ2であることを見ても、観戦中に「内容では押していた」という感覚を持っていた人は正しいといえるだろう。もちろん、だからこそ勝っておきたかった試合であって、悔しいことは確かなのだが。
ところで、就任して試合数が少ない時期がいかにコンセプトを浸透させるのに苦しいものか、過去の事例を一つ見てみよう。ジーコ監督時代にちょうど、4試合目にしてアジア4強(当時)の一角、韓国とのホーム&アウェーの親善試合があった。その試合は、日本も韓国も海外組抜きで行われたアウェー戦でシュート数日本8:韓国16、日本ホームでは日本2:韓国15ということになっている(繰り返すが、シュート数はあくまで参考にしかならないが)。
日本はアジアではトップレベルだが、監督就任して日が浅く、コンセプトの浸透がなされていなければ、他のアジアトップレベルの国に苦戦することはこれまでもあったことだ。毎日練習できるクラブの監督に比べ、代表監督はとびとびにしか選手と接することができない。そういう中での3試合目、しかも連続ではなく、間にJリーグの試合をいくつも挟んで、というのは、まだまだ「チーム立ち上げたて」と考えるべきだ。
私は、ジェフのサッカーを見ていても、また難解な(笑)ビブス練習を見ていても、「選手個々の対応力を練習を通じて向上させる」ことを主たる方法論とするオシムサッカーの浸透には、もっとずっと時間がかかると思っていた。しかし、3試合目にしてサウジアラビア相手に、あれだけの内容のサッカー(開始15分は除く)を見せられるとは、代表の選手の吸収力にむしろ私は驚いたくらいである。今後さらにオシムサッカーへの理解を深めていけば、日本はどのように成長していくのか。この1戦で、私はさらに楽しみになった。
■できたこと、できなかったこと
しかし言うまでもなく、敗戦は敗戦である。そこに問題はあるし、それは改善されていかねばならないだろう。「できたこと」と「できなかったこと」を、いくつかのポイントで見ていこう。
○守備面
開始1分30秒、阿部は早くも3バックの左に入っている。ディフェンスは、この阿部-闘莉王-坪井の3バックに、その前に鈴木を配する形だが、全体としてはうまく機能したと思う。3分には、三都主が高い位置からプレッシャーをかけて奪い、達也へパスを通している。高い位置で奪っての速攻を狙うというかたちは、いくつか作ることができていた。19分ごろの、阿部の前へ出てのインターセプトから、達也とのパス交換、達也へのパスなどはまさにこのチームの「やりたいこと」そのものだろう。
また、11分には敵にドリブル侵入されているが、鈴木と遠藤がバイタルエリアを埋め、左右のアウトサイドもしっかりと絞って対応している。23分には鈴木がバイタルエリアを空け、左サイドへ出て行ってディフェンスしているが、中央には加地が絞ってバイタルエリアを埋めている。鈴木も、加地も、駒野も臨機応変に中盤で守り、あるいは3バックに入り、複雑に役割を分担して、守備を機能させている。この短期間でできることとしてはなかなかのものだと思う。
失点シーンは、後半28分に鈴木がやはりサイドへ出て行って空いたバイタルエリアを、7アミンに使われてシュートを打たれ、こぼれだまが43アルドサリに渡って決められたもの。このシーンでは、空いたバイタルエリアを埋めるべき遠藤、加地の動きがやや遅かった。また、鈴木自身、首を振って後方を確認していればアミンがフリーなのが確認できたはずで、彼なら戻ってケアすることもできただろう。この点では23分にできていたことが、各人できなくなっているわけだ。
後半には敵がサイドの攻防に人数をかけて来て、鈴木がバイタルエリアを空けることが増え、そのケアができないシーンが増えていく。日本にもチャンスがあったため選手が上がっていたこともあるが、同じ形で何度かやられかけているだけに、試合中にでも修正を施したかったところだ。あるいは、いったんわざと落ち着かせて敵の勢いをそぐか。その辺のゲーム中の対応は、国際試合の経験が少ないだけにまだ時間が必要なのかもしれない。
■ビルドアップ、攻撃面
○ビルドアップ
鈴木や坪井、阿部はグラウンダーのビシッとした楔に入れるパスを何本も狙い、何本も成功させていた。これはイエメン戦で少なかったものでもあり、オシム監督の狙いが選手に浸透し始めている証左だろう。33分の達也のドリブルからの、遠藤の惜しいミドルシュートは、坪井が達也に出した「ビシッとクサビパス」からはじまっている。これは増やして行きたいし、正確性も増したいところだ(狙いはいいが、インターセプトされることもままあった)。
ただ、オシム監督から怒られたらしいが(笑)、特に闘莉王には可能性の低いロングフィードを蹴ってしまうことが目立った。もちろん彼だけの問題ではなく、FWや周りの動き出しのせいもあるのだが、自分がフリーだったり、周りにセーフティーなパスコースがある時は、もっと確実なビルドアップをしていきたい。今日の(もう今日だ!)イエメン戦ではそこを確認しよう。
○攻撃面
DFラインやボランチからの「ビシッとクサビパス」からの攻撃はだいぶできるようになってきた(例えば前半42分にも)。また、サイドからクロスを上げる時には、ペナルティエリア内には2トップだけではなく、多くの人数が入っていくこともできている(イエメン戦の前半はこれができていなかった)。前半29分には加地からのクロスに巻、達也、遠藤、三都主、駒野までペナルティエリア内にいる。これもよいところだろう。
ただ、奪ってからの早い攻撃といういう面では、ジェフのいい時に見せるような、「奪った瞬間に全員が一斉に走り出す」というシーンはあまり見せることができなかった。これは熟成度の問題、一人ひとりの「リスク・チャレンジングマインド」の問題などによるものだろう。オシム監督はここをもっとも重視しているはず。もっと向上して欲しいところだ。
ただ、アウェーであること、サウジが意外と低いDFラインを採っていたこと、それによって敵陣にあまりスペースがなかったことで、そういうサッカーにとって難しい状態ではあったことは付記しておきたい。イエメン戦も同様、敵が自陣にしっかりと陣形を引いてしまうと、2列目からの「追い越し」は難しくなる。イエメンではサイドにはスペースがあったが、サウジではそこもかなりつぶされていた。早いサイドチェンジや、「ビシッとクサビパス」からの攻撃でそこをこじ開けていくことが、今後もっと必要になるだろう。
総じて、就任3試合目にしては、攻守ともになかなかの機能性を見せ、内容面では及第点といいたいところだ。ただ、今後の課題として、
○ボランチがバイタルを空けた時の、周囲のケア(をやり通す)
○ペースを握られた時の、落ち着かせ
○「ビシッとクサビパス」の精度
○可能性の低いフィードを蹴らない
○さらに早い守→攻の切替
といったところがあるだろうか。もちろんまだまだ向上すべき点は多いが、オシム監督第1シーズンとしては、まずはこれらの点をクリアしていって、「考えて走る」オシムサッカー、「日本化された」ムービングフットボールのとりあえずの完成形を見せてほしいと思う。
■さあ、イエメン戦!
さあ、もういよいよイエメン戦だ(早い!)。報道によれば、オシム監督は先発を多少いじるようだ。強行日程を考えれば、このような策は常道でもあるだろう。二川、羽生、長谷部といったあたりを投入するらしい。このような形だろうか?
----巻---達也----
------二川------
三都主-遠藤--長谷部-羽生
--阿部--闘莉王-坪井--
--------------
------川口------
イエメンは2300メートルの高地であり、ホームではサウジに対しても主導権を握り、攻勢に出たチームと聞く。それに対してこの布陣は、「やけに攻撃的だな」と個人的には思うのだが、さて、オシム監督の意図は那辺にあるのだろうか。
それはともかく、アジアカップ予選の確実な通過を得るためには、この試合はぜひ勝っておきたい試合である。詰まりに詰まったリーグ戦からさらに強行日程での、苛酷な環境のアウェー戦。選手もスタッフも本当に大変だろうが、あとひとふんばり、大和魂を見せて、頑張ってほしい。私たちはここから、「魂」を送っている。
それではまた。
08:27 PM [オシム日本] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (3) |
September 03, 2006オシム監督に期待すること
オシム監督は、日本代表監督に就いた二人目の「プロの代表監督」である。私はこの監督の就任を歓迎したいと思う。私が、日本代表監督に望む条件のほとんどを満たしているからだ。
1:経験と実績のあるプロの代表監督であること*1
2:ボールも人も動く、コレクティブなムービング・フットボールを志向していること*2
3:できれば、日本や日本サッカーについて知識を持っている人であること
4:できれば、協会やマスコミなど、日本サッカー全体を改革する意思を持っている人であること
(*1:それは必然的に外国人監督となる=日本人に、経験と実績のあるプロの代表監督はまだいない)
(*2:ここ数年の日本全体の強化方針もこちらであった・・・ジーコジャパン以外は)
以上のような条件である。それも、経験においてはトルシェ監督の持っていたそれよりも一段上のものを求めたい。具体的には、W杯のグループリーグを突破、決勝トーナメントで指揮をとった経験があるとより望ましい。
一目瞭然、オシム監督はこれらの全てを満たしている(「できれば」のものまで含めて)。よい監督が日本代表監督に就いてくれたものだと思っている。
■難しい時期
オシム監督は、難しい時期に日本代表監督に就任した。4年前のような、国際経験のある能力の高い選手たちの豊富なプールは、前監督の固定方針により今回は提供されない。能力のあるJリーグの選手たちも、代表レベルでの国際経験は浅い。また、ドイツW杯を戦った選手たちは、4年後には主力として計算できる年齢ではない。4年後をにらめば、大幅な世代交代が必然となる。
本来であれば、オシム監督には2年~3年の歳月を与え、フリーハンドで日本代表をリ・ビルド(再構築)していってもらいたいところだ。そうすれば、2年後からはじまるアジア予選にある程度のレベルに達したチームで臨むことができるだろうし、同時にその後のベースも作っておくことができるだろう。4年後を見据えながら、アジア予選で戦うチームを作るのは簡単なことではない。それには最初の2年を丸々充てるくらいのことが必要だろう。
しかし、今回はアジアカップが一年前倒しになり、2007年に本大会、今年2006年にアジアカップ予選を行わなくてはならないこととなった。しかも、前回優勝国でも予選は免除されないというレギュレーションに変更された。これによって、オシム監督は就任するとほぼ同時に、アジアカップ予選という公式戦を戦わなくてはならないという、きわめて異例、かつ同情すべき事態に陥っているのだ。
■オシム監督への二つの期待
私は、オシム監督には大きく二つの期待をしたいと思っている。
一つは、主として川淵氏の過度なコマーシャリズムへの傾倒によって歪んでしまった日本代表をめぐる環境を「正常化」すること。
もう一つは、オシム監督のいわゆる日本サッカーの「ジャパナイズ(日本化)」、日本人の特長を生かしたムービング・フットボールを、4年後に完成させ、ワールドカップで披露すること。
一つ目については、前回軽くふれた。今回は二つ目について詳述しよう。
オシム監督: 日本は、ほかのチームにないものを持っているわけで、それを生かすことが大事である。具体的には、素晴らしい敏しょう性、いい意味での攻撃性やアグレッシブさ、そして個人の技術。(中略)例えば走るスピード、展開のスピード。
オシム監督はこれらを日本の長所と認めているようだ。私もそれは正しいと思う。またそれに加えて、組織志向性の高さ、持久力なども長所としてあげることができるだろう。アジリティ、技術、スピード、アグレッシブさ、持久力。それらを生かすことを考えた時、「ボールも人も動くムービング・フットボール」が、日本の目指すべきサッカーとして浮上するのは、ごく素直なことだと思われる。
古くは、トルシェ元監督のチームも大まかに言ってそのようなサッカーを志向していたし、西村監督が率いてアルゼンチン・ワールドユースに臨んだユース代表(後のアテネ世代)も、まさに「ムービング・フットボール」を標榜したチームであった。監督によって多少のぶれはあっても、ここ数年そのようなサッカーを日本全体が目標として掲げ、そちらに向かっていたというのは、日本人の特徴を考えても、正しい方向性であったと私は思う。
それを踏まえ、4年後、日本人の特長を生かした、そしてどこの真似でもないサッカーを、南アフリカのピッチの上で存分に発揮してくれること、それができるチームを作ることを、私はオシム監督に望みたい。それができる選手を発掘、育成し、またクラブに影響を与え、また日本の指導者陣に、育成に影響を与え、日本全体をそちらに導いていく、そのための船長となってほしいと思う。
もちろんそれは、オシム監督だけに押し付けていいことではない。日本人の側、すなわち協会も、周囲の指導陣も、技術委員会も、もちろん選手も、そしてジャーナリストも、サポーターも。彼とともにそれを作り上げ、また吸収できるものは全て吸収していこうという姿勢がなければならない。少なくとも現在、反町コーチをはじめとする日本人コーチ陣は、オシム監督に食らいついていこうという気持ちを見せていると思う。私たちも負けてはいられない(笑)。
ただし、今言っているようなサッカーをフル代表で行おうとするのは、ずいぶんと久しぶりのこととなる。ムービング・フットボールには、かつての代表で言えば森島、現在では山瀬や羽生のような、運動量豊富で2列目から飛び出していける選手が不可欠なのだが、この4年間そういった選手はほとんど起用されていない。それはやろうとするサッカーが違っていたからだ。フル代表では「ムービング・フットボール」志向の方針が採られなかった結果、そういったタイプの若い選手たちの国際経験も少ない。オシム監督はほぼゼロから、それを組み上げていかなければならないのだ。
■チーム作り優先を
先にも書いたように、オシム監督は難しい時期に日本代表の監督に就任した。世代交代が必然であること。サッカースタイルの変換が必然であること。一朝一夕で達成することのできるはずがないこの2つの課題に手をつけたばかりのところで、早くもアジアトップレベルの強敵サウジアラビアとの、アウェーのアジアカップ予選が待っているのだ。ジーコ監督もトルシェ監督も、これほどの厳しい条件下での試合は経験したことがない。オシム監督があまりに平然とそれに臨もうとしているから、みんな気がつかないが(笑)。
また、今年はワールドカップやそのための親善試合、A3などによるJリーグの中断があったために、この時期選手たちはほぼ休みなしで戦い抜いている。これはとんでもないハードスケジュールであり、選手たちの体には疲労が重くのしかかっているだろう。しかも直前の30日まで試合があり、すぐに飛行機に飛び乗って長時間の移動があり、時差もあり、気候も恐ろしく違う。イエメンに至っては、2300メートルの高地である。
こういった点から、私はオシム監督の就任第1期は「スタイルを浸透させること」「多くの選手にそのエッセンスに触れさせること」「選手の見極めを行うこと」などを優先し、アジアカップ予選に関しては「出場すること」だけを得られればよしと考える。ゼロからのチーム作りと、結果を出すことを並行して行わなければならないわけだが、アジアカップ予選は4チームのグループリーグ中、上位2位に入ればアジアカップのチケットを取れるのである。ここではウェイトをチーム作りにおいてかまわないだろう。
さて、と言うわけで、私はこの中東アウェー2連戦、勝ち点2(以上)を取れればそれでオッケーだと思う。2引き分けか、1勝か。ほぼそれでアジアカップ出場が決まるだろう。そうして最初の、異常に性急な(笑)ハードルをクリアしたところで、あとはじっくりと日本代表の環境の「正常化」、そして日本サッカーの「日本化」に取り組んで欲しい。この8年間の代表狂騒曲のあとは、そろそろじっくりしっかりとした強化が必要だと理解されるべきだ。オシム監督はそれを気づかせてくれる人でもあるだろう。私はそれを期待している。
さて、今夜はもう(もう!)サウジアラビア戦だ。監督も、選手も、スタッフもさぞや大変だろうと思うが、ぜひ頑張って、いい戦いを見せてほしい。私たちはここから、「魂」を送っている。
ニッポン!!!!
それではまた。
11:49 AM [オシム日本] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (3) |