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June 21, 2006

ブラジルに勝てばいいんだろー!!

Image074勝ちたかった。勝たせたかった。われわれの声が足りなかった。みんな、ゴメン。

スタンドのサポーターは一様に下を向いた。虚ろな顔で動けなくなる人も多い。勝てなかった。負けたわけではないけど、勝てなかった。次のことを考えれば、勝ちたかった。でも、終わったわけじゃない。

「ブラジルに勝てばいいんだろー!!!!!」

叫んだ。一人だけおじさんサポが振り向いて「そうだ!」と言って笑ってくれたけど、みんなの耳には届かなかった。試合終了まで立って声を出していたサポが、ホイッスルと同時にへたり込んで、動けなくなっていた。帰ろうとし始める人さえいない。いや、いた。中にはホイッスルと同時に記念写真を取り始める人もいた。彼らにとってW杯は一種の「観光」でしかないのだろう。しかしそういう人のことはもう目に入らない。

選手が挨拶に来た。全員じゃないけど、ちゃんとわれわれの真正面まで来た。炎天下で2試合動き回って、しかも負けと引き分け、精も根も尽き果てているだろうに、挨拶に来た。私は思い切り拍手をした。大声で「まだあるぞー!!!」「次だー、次――――!!!!」と叫んだ。試合終了と同時にうるさい音楽をかけるスタジアムのせいで、それはかき消されてしまったけれども。

中には選手にブーイングするサポもいた。それに同調するサポもいれば、選手に拍手するサポもいる。でも一番多かったのは、放心状態になり動けなくなっているサポだった。どう受け止めていいのか分からない。そんな精神状態と、勝てなかった悔しさと、その他にいろいろなものがごちゃ混ぜになり、そんな顔になっていたのだろう。勝てた試合のような気がする。なぜ勝てなかったのか。


■高いラインと抑え気味のパス回し?

キックオフ直後、日本が最終ラインをすごく高く上げているのがわかった。もう上げるぞこのやろうーとでも言うように、高く高く、敵ボール時でもセンターサークル近くまで。コンパクトフィールドからのプレス、ヒデや高原がやって欲しいと言っていたそれが、全体にはまずまず機能していると思われた。しかし、最終合宿が始まってからほとんどやっていない4バックだけに、時々プレスがちぐはぐになり、真ん中をぱっくり割られたり、スルーパスでスパッと裏を取られたりすることもあった。ピンチが多い。そして、一本のロングパスで宮本とFWが1vs1になり、ちょっとした芝目のバウンドでボールをキープされ、後ろからチャージせざるを得なくなりPKを与えてしまう。

これをスーパーセーブした川口にはどんなに感謝してもしきれない。喉も避けよとばかりに「ヨシカツ」コール。このシーンのほかにも、この日は「ヨシカツ」コールを多くした。「人生で一番ヨシカツコールをした日」と、古参サポの友人は言う。日本では、日本のFWの決定力不足が槍玉にあがっているとあとから聞いた。それはもちろんあるだろうが、この試合の前半は、それを言いたかったのはクロアチアサイドだろう。あれだけのチャンスを外しているのだ。お互い様という感じだ。


■持ち味を発揮しやすい相手

クロアチアはやはりロングボールをあまり蹴ってこず、技術とパス回しで日本を下せると思っていたのだろう。日本の弱点を突く戦い方ではなく、「普通にやれば勝てるだろう」というやり方だ。これは日本のキーマンにハードマーク、ハードチャージをしてこないところからでもわかる。ヒディンク監督とはまったく違うアプローチだ。それでも、クラニチャルのヘッドをはじめ、相当なピンチを何度も招いてしまう。ヨシカツ大活躍。

ピンチはあったとは言え、こういうタイプ相手なら、日本は持ち味を発揮できる。じっくりしっかりとしたパス回し、ビルドアップができる。ジーコ監督の指示通り、パスを走らせて敵の体力を奪うやり方だ。前方にスペースがある時でも、日本の選手は動き出さず、キープしてからの横パスを選択していた。周りの何人かのサポは「遅いよ!もっと早く前に入れないと!」「前の選手動こうよ!」などと声を上げていた。確かにもっと縦に速くしたほうが敵を崩しやすいだろうが、前半はあえてそうしないという作戦なのだろうと思った。

果たして、暑さは日本に味方した(半分は)。クロアチアは前半の終盤から動けなくなり始め、後半開始早々から完全に足が止まってしまった。vsアルゼンチンや、vsブラジルで見せたハードさ、ソリッドさ、攻撃の鋭さはどこにもなくなった。日本の作戦勝ちか。日本が攻勢に出る時間が長くなっていく。クロアチアサポは次第におとなしくなり、日本サポの声援が加速していく。勝てる、勝ちパターンだ。私は友人のサポと目をあわせてうなずきあった。


■できなかったペースチェンジ

ところが、暑さのもう半分が日本に不利に働いた。PKを取られてからラインが下がりはじめ、前半攻められた時に守備で走り回ったのがマイナスになってきた。前半は、中村選手がペナルティエリア付近にいて、高原選手でさえ、サイドアタックをサイドバックのような位置でクリアーしていたのだ。それに加えて、2試合続けて暑さの中の試合というところが拍車をかける。後半の中盤から、動けなくなる選手がまた出てきてしまった。

結果的に、前半と同じような「持ってから離すまでが長い」サッカーになってしまった。中田選手が志向する、「奪ってからシンプルに、すばやく攻める」こと、あるいは「じっくりしたパス回しからペースチェンジして敵のゴールへ迫る速攻」が、なかなかできなくなった。すばやい攻撃には、回りの動き出しが必要になる。それが少なくなってしまった。ゆっくりじっくりした攻撃だと、欧州予選でしっかり守ることが身についているクロアチアの守備はなかなか崩れない。アジアレベルや親善試合レベルでは「完全に崩した」と思えるような状態でも、彼らはまだ1枚か2枚、奥を隠していた。ファウルを取られない体の使い方でボールを奪われ、あるいは最後の瞬間に足が出て、パスコース、シュートコースを消されてしまう。

それでも何度かチャンスは作ったが、決められなかった。ただ、決定力不足を嘆くのもいいが、チャンスの数自体も少なかったと思う。中田ヒデが「前に行ってしまったらいいのか、後ろに残ったほうがいいのか、迷った点に悔いが残る」と試合後に語ったらしい。それはそうだろう。彼からすれば後半の試合内容はもどかしかったに違いない。しかし、彼が上がってしまわないことで、この試合ではバランスが取れていたことも確かだ。難しいところだ。


■勝てる試合を落とした?

よく監督が槍玉に上がるのが「采配」だが、この試合では悪くなかったと思う。福西を稲本に代えて後半の守備は安定したし、疲労したヤナギに代えてフレッシュな玉田を入れるのも理にかなっている。大黒の投入が遅いと私の後ろのサポは叫んでいたが、私は無理もないと思っていた。全員が疲労していて、宮本はイエローを一枚もらっている。こういうぎりぎりのバランスで戦っている時は、カードを切ってバランスを崩すのが吉に出るか凶に出るかは微妙なところなのだ(私はシドニー五輪のUSA戦を思い出していた)。

しかし、結果は出なかった。前述のように、スタンドは静まり返った。何故勝てなかったのか。「勝てる試合を落とした」と選手が言ったらしい。確かにそうだ。しかし、チャンスの数では上回ったクロアチア選手だってそう思っていただろう。双方から見て、同じように残念な結果になった。TV局の都合で2試合が昼間の試合になったことをジーコ監督が嘆いたらしい。ただ、それを勝てない原因にするのも違うと思う。それはとうにわかっていたことだし、だいたい暑くなかったら、クロアチアの出来が続いていたら、むしろ向こうに有利たったのではないか?オーストラリア戦でも、先に動けなくなっていたのは向こうだった(そのあと得点で息を吹き返したけど)。


■最高の舞台だよ

これで日本は最低でも2点差でブラジル戦を勝たなければいけなくなった。ブラジルは強い。確かに強い。ただ、クロアチア以上に、「こちらの持ち味を消す」戦い方はしてこないチームだろう。日本とは噛み合うスタイルだと思う。涼しい夜の試合ということもあるし、日本は「強敵と戦うと自然と結束し、モチベーションが上がる」という特徴もある。、ブラジルという強敵を迎えるこの最高の舞台で、これまでで一番の試合内容を見せてくれるに違いない。チャンスも作れるだろう。

ジーコ監督は20日の練習を「シュート練習のみ」にしたそうだ。もうそれで正しいと思う。ここまで来たらあとは自分たちを信じて、これまでやってきたことを信じて、そして思い切り脚を振りぬくしかない。そうすれば、今のブラジル守備陣からなら、2得点は不可能じゃない。

不可能じゃない。まったく不可能じゃない。これは奇跡じゃない。つかみ取ることができる現実なんだ。

ブラジルに勝てばいいんだろー!!!!

ニ゛ィィィィィィィィッッッッポン!!!!!

それではまた。

06:55 PM [ジーコジャパン] | 固定リンク

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