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June 23, 2006

焼け跡の中から

Image102負けてしまった。ブラジルに負けてしまったというより、「W杯」に負けてしまった。目標の16強進出はならなかった。残念だ。この選手層なら、16強にいけるはず、それどころか、この大会で非常に魅力的なサッカーを見せてくれるはず、と思っていた。それがならなかった。残念だ。

それはともかく、選手、監督、関係者のみなさんにはほんとうにお疲れさまといいたい。今はまだ敗戦の悔しさでまんじりともできないかもしれないが、とにかく体を休めて欲しい。ホームであれアウェーであれ、家庭から離れての1ヶ月に及ぶ合宿生活、それも日本中からの期待というプレッシャーにさらされたそれは、ものすごいストレスだ。選手は炎天下の2試合を含む3つの戦いをこなし、スタッフもおそらく不眠不休に近いサポートをしてきたことと思う。とにかくお疲れさま、そしてゆっくり休んでください。


■コンフェデの再現なるか?

ブラジル戦の立ち上がりはいい感じだった。昨年のコンフェデ杯の後半からできた「下がり過ぎないで我慢するDFラインと、その前方でじっくりと網を張るMF」というカタチができていた。4バック4ボランチに近いような守備の形で、しかも敵にボールが入ればすばやくチェックに行き自由にさせない。特に稲本と中田ヒデの「プレミアセンターハーフコンビ」は強力で、何度もボールを奪っていた。

もちろん敵はブラジルだし、こちらのセンターバックは久しぶりに組むコンビ。何度かペナルティエリア内に進入されるチャンスもあったが、そこは「いつものように神憑った(?)」川口が素晴らしいセーブを見せる。このまま推移すれば敵はあせり始めるだろう。日本のチャンスも出てくるに違いない、と思えた。

実際、コンパクトな布陣で奪えば、敵はラインを上げてきているので広大なスペースがあり、稲本、ヒデ、小笠原、中村と、誰が持っても決定的なラストパスが出そうな面子でもあり、また運動量豊富な玉田、巻というFWでもあり、決定期はいくつか作れた。そして、稲本→三都主→玉田という華麗な得点!ここまでは素晴らしい、16強の座がその先に朧に見えるような気がした瞬間だった。


■ブラジルの本領

ブラジルは、真ん中を地上戦で突破するのが無理と悟ると、とりあえずその外をおおきくパスを回し始めた。そうしてDFラインを広げておいてクロス、ファーの選手が落としたところを真ん中のロナウドが得点してしまう。この「クロスをファーの選手が落として真ん中で(あるいは逆サイドで)シュート」というのはセオリーだ。トルシェ前監督もセットプレーでよく使っていたし、欧州のリーグ戦でもよく見る。マークがずれやすく、ボールウォッチャーになりやすいのだ。急造コンビ、統率役がいないことを見抜かれていたのだろうか。

ここでスタジアムで見たブラジルの特徴について少し触れておくと、「誰も難しいことをしない」ということが上げられると思う(ロナウジーニョは別)。誰もボールをこねず、パスはほとんどダイレクトか1タッチ、それもパスを受けやすいところに移動してきた選手にパッと渡すだけ。ドリブルの時も必ず2人目の選手がそばを走るため、詰められればそちらにわたせばよい。ロングボールも、すぐそばにフォローの選手が来るために、ダイレクトで彼に落とすだけ。

これらをするための、ほんのちょっとの「献身」「ボールを持っていないときの動き」が、ブラジル選手は抜群にうまかった。「走るサッカー」というイメージから程遠い彼らも、ボールが移動するたびに5メートル、時には1メートルでも、スッ、スッ、と移動するのだ。これによって、パスコースが複数できて、その間をパスを通していけるのだ。私はアテネ五輪のサッカーに関して、「動け、ちょっとでいいから」というエントリーを書いたのだが、それを実際に見事にやっていたのがこの日のブラジルだったと言えると思う。ひるがえって後半の日本選手は、ボールを持ってからどこに出そうか考え、その間は回りの選手もあまり動き出さないサッカーになってしまっていた。それがあの多数のパスミスにつながっているのだ。


■後半のブラジルとジーコ采配

後半から、ブラジルはDFラインをわざと下げてしまった。そして、もしかすると日本をおびき寄せていたのかも、と思えるほどに日本が攻撃している時に日本陣内にスペースを作らせ、そこをスピーディーに突いてくる。これはピンチが増えそうだと思った矢先、次のゴールが決まってしまう。ジュニーニョが中盤でボールを持ち、ミドルシュート。この大会で何度も見たあのカタチだ。バイタルエリアでは絶対にフリーで持たせたらいけないのだが・・・。一瞬の気の緩みが、日本を絶望の渕へ落とし込んでしまう。このブラジルから、あと3点とって勝利?スタンドはそれを振り払うようにあらん限りの声で、「ニッポン」コール!

この時、ジーコ監督は「もっと攻めないと」と思ったのだろうか?小笠原選手に代えて中田浩二選手を投入、中田英を一列前にあげ、中村と並べトップ下とする。しかしこれは私には怖かった。前半のソリッドさを演出していた「プレミアセンターハーフコンビ」の一角を崩していいのだろうか?しかも、このカタチで練習した、あるいは試合したことがこの大会に入りほとんどないのに?はたして、中田浩二はどこにポジショニングしていいか、あるいは奪ったボールをどこに出していいかわからずにいるようだった。無理もないと思う。

そしてやはり中盤がルーズになって、ロナウジーニョ→ジウベルトでゴール。もう日本は総攻撃に出るしか仕方がない。15分巻に代えて高原投入、高原が痛んで大黒投入、しかし、時間が経つごとに点を取れる気配が薄れていく。前半のようには敵がスペースを与えてくれない。敵の前でボールを動かすだけなのだが、ボールホルダー以外が動かなくなっていく。途中投入の大黒が動き出すのだが、ボールホルダーとタイミングが合わない。ブラジルが動かなくなり、ただパスを回すだけになる(これをオーストラリア戦でやれていたら)。そして最後は、ロナウドが反転してシュート。川口の神通力も、20本のシュートは防ぎきれなかった。


■これを始まりにしよう

選手たちは真ん中で倒れた。もう何度目だろう、スタンドはあらん限りの声で、「ニッポン」コールをする。スタジアムの音響係を恨めしく思った。どうでもいい音楽をかけるな。俺たちと選手たちの時間にしてくれ。選手たちは、挨拶に来た。私はタオルマフラーをきりきりと掲げて、選手をねぎらった。これは終わりじゃない。ここから始まりなんだ。「下を向くなー!!!!!」私は叫んだ。また見知らぬおじさんが「そうだ!」といって握手を求めてきた。

ヒデが倒れていた。まだ立ち上がらない。私たちはかすれた喉を振り絞ってヒデコールをする。今日も、最後まであきらめずに誰よりも走っていたのは君だったよ。スタジアムのサポはみんなわかっている。スタッフに起こされて、サポーター席に挨拶に来た。ヒデコールがひときわ大きくなる。もしかすると、これでヒデは代表引退をしないかもしれないな、と思った。彼にとっても、これが何度目かの始まりになるのじゃないか。なって欲しい。


■きわめて幅の狭い強化の4年間

これから、もちろんジーコ監督を含めたこの4年間の検証がなされるだろう。さまざまな切り口からのそれがあることだろうと思うが、私がひとつ大きく気になっているのは、ジーコ監督の「功罪」のうちの「功」の部分があったとして、その恩恵を受けられた選手が非常に少ないということだ。自主性の開花でもいい、攻撃力のアップでもいい、勝者のメンタリティでもいい。そのどれであれ、これまでの4年間で中心として起用してきた選手は非常に少なく、彼らにしか伝授されていないものが、今後受け継がれていく可能性は少ない。しかも、この大会に若手も連れてきていない。次代へ受け継ぐものが非常に、非常に少ない。そこが問題だと思う。そして、そういう状態であるならば、この大会で求められるものは「結果」だけであったはずだ。

果たして結果は、2敗1分け、2得点7失点、グループ最下位・・・ということに終わった。これが「黄金世代」の結実かと思うと、さびしすぎる。これは「敗戦」だろう。そして我々に残されたものは、焼け焦げた大地だけ。しかし、しかし大地はある。大地は残っているのだ。我々には、この10年でたくましさを増したJリーグをはじめとする日本サッカーの土台がある。サッカーは終わらない。この日が、終戦ではなく、新たな始まりの日となることを祈念して、この項を終わりとしたいと思う。

ニッポン!!!!!!

それではまた。

10:40 PM [ジーコジャパン] | 固定リンク

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