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June 25, 2006

川淵キャプテンは辞任すべきである

ジーコと共に臨んだ日本代表のドイツW杯は失敗に終わった。川淵キャプテンは、責任を取って辞任すべきである。「キャプテン(会長)は代表の仕事だけを見ているわけではない。代表の成績で会長が辞任するという悪しき前例は作らない」という理屈は一見もっともだが、今回はまったくあてはまらない。

なぜならば、4年前ジーコ監督に決定する際、川淵キャプテンは独断でそれを決定しているからだ。すでにきちんとある組織的手続きを踏まずに、独断で決定したからには、その責任も一人で負うのが当然と言うべきだろう。これまでの日本で最高レベルの能力、経験を持った選手たちでの、2得点7失点、2敗1分けという結果はあきらかな「失敗」である。その原因は主にジーコ監督の能力にあり、彼を独断で監督に据えた川淵キャプテンの責任はこれ以上ないほどに重いと言わなければならない。専横で行ったその決定の責任をとる手段はただ一つ、辞任でしかありえない。


■独断で選ばれたジーコ監督

ジーコ監督の決定経緯について、川淵氏は責任逃れのために次のように言っている

責任を回避するために言うわけではないが、ジーコ監督の時は「ジーコも候補に入れておきなさい」というところから始まったが、私が理事会の承認も受けずに決めたかのような印象を持っている人もいるかもしれない。

これはまったくの欺瞞である。候補を一人に絞ってから、ほぼ契約が決定してからの理事会の承認はあくまでも「追認」に近いものであり、あまり意味のあるものではないだろう。それよりも重要なのは、技術委員会があげていたフランス系の監督のリストをくつがえし、そこにないジーコを加えるように命じた、という部分である。

ちょっと考えれば誰にでもわかることだが、リストアップされたフランス系監督と、ジーコとではその哲学、志向するサッカーがまったく違う。フランス系監督は、個人で差こそあれ、基本的にはコレクティブな(組織だった)サッカーを志向している。これに対し、ジーコ監督に決定後は、川淵キャプテンはことあるごとに、「戦術で縛らない、自由なサッカーをすべきだ」と発言している。それはジーコ路線を川淵キャプテンが強力に推進しているということに他ならない。これは何を意味するか。

技術委員会のリストアップしたフランス系監督候補を川淵キャプテンが「否定し」「覆し」、キャプテンの考える条件にそって「そこにはなかった」「それらとは方向性の違う」ジーコを選んだ、ということである。これを独断と言わなくて何と言おう。それなりに分析され、立案された方針と違う方向に、キャプテンのひと言ですべてが変わってしまったのだ。その成果、結果がドイツW杯の失敗である。責任は誰にあるのか、明白であろう。


■姑息な責任追及逃れ

さらに許せないのが、この「ドイツW杯の総括のための記者会見」において、ほぼ意図的に(と私は推測するのだが)「ドイツW杯の失敗」から目をそらさせるために、次の監督候補としてのオシム氏をリークする、というそのやり方である。実際、このリークのあとの質疑では、敗戦の責任を問う声と、オシム監督との交渉についての質疑が半々になってしまった。特にジーコ監督の能力の問題についての質問がなされなかったのが、非常に問題である。


■個の力と組織力と

もう一度言うが、ドイツW杯における「失敗」は、ジーコ監督の能力の低さによる部分が非常に大きい。選手の「個」の能力の低さということが今言われているが、それはおかしい。「個」の能力が十分に高く、トルコにも勝てたはずであるから、これからは戦術にしばられずに自由を、というのがジーコ監督擁立時の考え方だったのではないのか?私たちから言えば、「個」の能力が(少なくともブラジルに比べて)足りないのは、最初からわかりきったことであり、であるからこそ、戦術や組織だったサッカーが必要だと言ってきたのだ。それをあえて捨て去った上で、さらにまた「個」の能力が低いと口にするとは、何という欺瞞だろう。

選手自身が失敗を恐れずに思い切ってトライする初めての大会だったが、残念ながら成果には表れなかった。われわれも当然分かっていたことだが、組織だけで勝ち切るのは限界があって、個の力を高めた上での組織力が、(W杯を)勝ち抜くためには絶対に必要不可欠なものであると、明確な形で見せ付けられた大会だったと思う。

これは帰国会見での川淵キャプテンの言葉だが、普通に日本語力のある人には「????」となるような文言ではないだろうか?もちろん組織だけで勝ちきるのにはどこかに限界があるのだろうが、まさかそれはこの大会のジーコジャパンのことを指しているのではあるまい?ジーコジャパンは、多くの点でこの大会の32カ国のチームの中でも組織力が相当低いほうだろう。それはそうだ、戦術であえてしばらない、選手の組み合わせが変わって急造4バックになっても、戦術練習もしないでブラジル戦に臨むチームなのだから。そのチームの限界は「真剣勝負に組織を整備せずに裸で当たるのは間違っている」というごく当たり前の結論を示しただけだ。

「個の力を高めた上での組織力」が必要という言葉自体にはまったく賛成である。しかし、「個」の力を高めるのは代表監督の仕事ではない。だいたいジーコ監督が「個」の力を伸ばした選手などいるだろうか?それはあくまでも育成と、各クラブにおける日々の練習で行うことであって、代表監督はその上での「組織力」を高めることが重要な仕事なのだ。その点において、ジーコ監督の能力が高いとは言えなかったことは論を待たないだろう。


■ジーコジャパンの組織上の問題点

詳しくは後日また振り返ろうと思うが、

「敵が研究してしっかりプレスをかけてくるとパス回しからの攻撃ができない」(オーストラリア戦)
「DFラインのディシプリンが選手任せなため、ラインが押し上げられず、引いた守備になってしまう」(アジアカップ、オーストラリア戦、ブラジル戦)
「DFラインが下がり、前線でのプレスも未整備なため、ロングボール攻撃に弱い」(オーストラリア戦)
「前線からDFラインまでの距離が伸びきってしまうため、中盤の選手のカバーする範囲が広くなり、疲弊する」(ドイツ3戦とも)
「DFラインが下がり、中盤ので役割分担が不明確なため、バイタルエリアがぽっかり空き、利用されてしまう」(オーストラリア戦、ブラジル戦・・・特にミドルシュートのシーン)

などなどが、ドイツ大会はるか以前より指摘されてきたジーコジャパンの組織上の問題点である。これらはすべて本番たるワールドカップでも改善されず、そこを突かれ敗北をしているのだ。「個の力を高めた上での組織力が、(W杯を)勝ち抜くためには絶対に必要不可欠なものである」であるならば、この監督に任せてはならなかった。その失敗は、ジーコ体制を強力に推し進め、反対意見を圧殺してきた川淵キャプテンが責任を負うべきであるのは当然ではないか。

このほかにもジーコ監督には、サブの充実を含めたチーム・マネジメントの問題、非常に重要な初戦に臨むゲームプランの問題、選手を戦う集団にするモチベーション・コントロールの問題、コンディションを重視して選考、起用を行えない問題、そしていわゆる「采配」、選手交代の問題などがあり、それらもすべてこの大会で露呈し、日本の敗戦につながった。これらもまた後日振り返ってみたいと思うが、基本的な問題点は以前に書いたこれこの記事と同じことになるだろう。


■教えられることはすべて教えた

最後になるが、ブラジル戦直後の川淵キャプテンの談話から。

川淵三郎キャプテン 「みなさんの期待に応えられず、僕も残念だ。ジーコと何分か話したけど、ジーコは自分が教えられることは全て伝えたと言っていた。」

その通りだろう。ジーコは教えられることはすべて教えたのだろう。しかし、監督としての専門教育を受けておらず、監督としての経験も非常に浅いジーコ監督が教えられることは、非常に限られていたということなのだ。または、「口で言うだけで(本番で)選手に実践させることができなかった」のだ。教育者なら「教えたけど理解してもらえなかった」ですむが、サッカーの監督は違う。「教える」事が大事なのではなく、選手を動かして「結果を出す」ことがミッションなのだ。ジーコ監督はそれに失敗した。それはしかたがない。監督初心者なのだから。

最大の問題、責任はそのような「監督未経験者」を、自分の好みにより日本代表監督に据えた人物にある。もちろん川淵キャプテンだ。彼は今回の失敗の責任を取って辞任すべきである。オシム監督を登用したからといって、その責は逃れられない。私たちサポーターは彼を許してはならない。


■スタジアムでの直接民主主義

もうひとつ、川淵キャプテンのずるいところを上げておこう。彼はスタジアムでサポーターの前に出るときに、単独で出ることがない。選手を激励する時や、何らかのセレモニーの時も、高円宮妃殿下や海外からの要人と共に出るようにしている。かつて代表戦のスタジアムで、「加茂でW杯に行けなかったら俺が辞める」の長沼氏に対するブーイングが響いたこと、あるいは川淵氏が辞めさせようとしたトルシェ前監督に対する「トルシェ、ニッポン」コールがこだましたこと、それらが彼にとって心の傷になっているからだろう。

さて、その感覚は正しいと言おう。川淵キャプテンよ、次の代表戦、スタジアムに「川淵ヤメロ!」コールが響くことを想像してもらおう。選手に声をかけに出てきたら、今度は誰を伴っていても、盛大なブーイングがあなたを迎えるだろう。それはドイツW杯の失敗によるものではない。その原因から目をそらし、自分の責任を追及されないようにという、ここ数日のあなたの保身、そのための欺瞞に対するものだ。それから逃れる方法はただ一つしかない。

川淵キャプテン、あなたの日本サッカーに対する貢献は非常に大きいと思う。その部分は素直に認めるし、尊敬する。だからこそ、これ以上ご自分の晩節を汚すのは止められたらいかがか。それは同時に、あなたの愛してやまないサッカーを汚すこととイコールなのだ。

このようなことは書きたくなかった。それではまた。

01:22 PM [Good Bye!川淵さん] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (39) |

June 23, 2006

焼け跡の中から

Image102負けてしまった。ブラジルに負けてしまったというより、「W杯」に負けてしまった。目標の16強進出はならなかった。残念だ。この選手層なら、16強にいけるはず、それどころか、この大会で非常に魅力的なサッカーを見せてくれるはず、と思っていた。それがならなかった。残念だ。

それはともかく、選手、監督、関係者のみなさんにはほんとうにお疲れさまといいたい。今はまだ敗戦の悔しさでまんじりともできないかもしれないが、とにかく体を休めて欲しい。ホームであれアウェーであれ、家庭から離れての1ヶ月に及ぶ合宿生活、それも日本中からの期待というプレッシャーにさらされたそれは、ものすごいストレスだ。選手は炎天下の2試合を含む3つの戦いをこなし、スタッフもおそらく不眠不休に近いサポートをしてきたことと思う。とにかくお疲れさま、そしてゆっくり休んでください。


■コンフェデの再現なるか?

ブラジル戦の立ち上がりはいい感じだった。昨年のコンフェデ杯の後半からできた「下がり過ぎないで我慢するDFラインと、その前方でじっくりと網を張るMF」というカタチができていた。4バック4ボランチに近いような守備の形で、しかも敵にボールが入ればすばやくチェックに行き自由にさせない。特に稲本と中田ヒデの「プレミアセンターハーフコンビ」は強力で、何度もボールを奪っていた。

もちろん敵はブラジルだし、こちらのセンターバックは久しぶりに組むコンビ。何度かペナルティエリア内に進入されるチャンスもあったが、そこは「いつものように神憑った(?)」川口が素晴らしいセーブを見せる。このまま推移すれば敵はあせり始めるだろう。日本のチャンスも出てくるに違いない、と思えた。

実際、コンパクトな布陣で奪えば、敵はラインを上げてきているので広大なスペースがあり、稲本、ヒデ、小笠原、中村と、誰が持っても決定的なラストパスが出そうな面子でもあり、また運動量豊富な玉田、巻というFWでもあり、決定期はいくつか作れた。そして、稲本→三都主→玉田という華麗な得点!ここまでは素晴らしい、16強の座がその先に朧に見えるような気がした瞬間だった。


■ブラジルの本領

ブラジルは、真ん中を地上戦で突破するのが無理と悟ると、とりあえずその外をおおきくパスを回し始めた。そうしてDFラインを広げておいてクロス、ファーの選手が落としたところを真ん中のロナウドが得点してしまう。この「クロスをファーの選手が落として真ん中で(あるいは逆サイドで)シュート」というのはセオリーだ。トルシェ前監督もセットプレーでよく使っていたし、欧州のリーグ戦でもよく見る。マークがずれやすく、ボールウォッチャーになりやすいのだ。急造コンビ、統率役がいないことを見抜かれていたのだろうか。

ここでスタジアムで見たブラジルの特徴について少し触れておくと、「誰も難しいことをしない」ということが上げられると思う(ロナウジーニョは別)。誰もボールをこねず、パスはほとんどダイレクトか1タッチ、それもパスを受けやすいところに移動してきた選手にパッと渡すだけ。ドリブルの時も必ず2人目の選手がそばを走るため、詰められればそちらにわたせばよい。ロングボールも、すぐそばにフォローの選手が来るために、ダイレクトで彼に落とすだけ。

これらをするための、ほんのちょっとの「献身」「ボールを持っていないときの動き」が、ブラジル選手は抜群にうまかった。「走るサッカー」というイメージから程遠い彼らも、ボールが移動するたびに5メートル、時には1メートルでも、スッ、スッ、と移動するのだ。これによって、パスコースが複数できて、その間をパスを通していけるのだ。私はアテネ五輪のサッカーに関して、「動け、ちょっとでいいから」というエントリーを書いたのだが、それを実際に見事にやっていたのがこの日のブラジルだったと言えると思う。ひるがえって後半の日本選手は、ボールを持ってからどこに出そうか考え、その間は回りの選手もあまり動き出さないサッカーになってしまっていた。それがあの多数のパスミスにつながっているのだ。


■後半のブラジルとジーコ采配

後半から、ブラジルはDFラインをわざと下げてしまった。そして、もしかすると日本をおびき寄せていたのかも、と思えるほどに日本が攻撃している時に日本陣内にスペースを作らせ、そこをスピーディーに突いてくる。これはピンチが増えそうだと思った矢先、次のゴールが決まってしまう。ジュニーニョが中盤でボールを持ち、ミドルシュート。この大会で何度も見たあのカタチだ。バイタルエリアでは絶対にフリーで持たせたらいけないのだが・・・。一瞬の気の緩みが、日本を絶望の渕へ落とし込んでしまう。このブラジルから、あと3点とって勝利?スタンドはそれを振り払うようにあらん限りの声で、「ニッポン」コール!

この時、ジーコ監督は「もっと攻めないと」と思ったのだろうか?小笠原選手に代えて中田浩二選手を投入、中田英を一列前にあげ、中村と並べトップ下とする。しかしこれは私には怖かった。前半のソリッドさを演出していた「プレミアセンターハーフコンビ」の一角を崩していいのだろうか?しかも、このカタチで練習した、あるいは試合したことがこの大会に入りほとんどないのに?はたして、中田浩二はどこにポジショニングしていいか、あるいは奪ったボールをどこに出していいかわからずにいるようだった。無理もないと思う。

そしてやはり中盤がルーズになって、ロナウジーニョ→ジウベルトでゴール。もう日本は総攻撃に出るしか仕方がない。15分巻に代えて高原投入、高原が痛んで大黒投入、しかし、時間が経つごとに点を取れる気配が薄れていく。前半のようには敵がスペースを与えてくれない。敵の前でボールを動かすだけなのだが、ボールホルダー以外が動かなくなっていく。途中投入の大黒が動き出すのだが、ボールホルダーとタイミングが合わない。ブラジルが動かなくなり、ただパスを回すだけになる(これをオーストラリア戦でやれていたら)。そして最後は、ロナウドが反転してシュート。川口の神通力も、20本のシュートは防ぎきれなかった。


■これを始まりにしよう

選手たちは真ん中で倒れた。もう何度目だろう、スタンドはあらん限りの声で、「ニッポン」コールをする。スタジアムの音響係を恨めしく思った。どうでもいい音楽をかけるな。俺たちと選手たちの時間にしてくれ。選手たちは、挨拶に来た。私はタオルマフラーをきりきりと掲げて、選手をねぎらった。これは終わりじゃない。ここから始まりなんだ。「下を向くなー!!!!!」私は叫んだ。また見知らぬおじさんが「そうだ!」といって握手を求めてきた。

ヒデが倒れていた。まだ立ち上がらない。私たちはかすれた喉を振り絞ってヒデコールをする。今日も、最後まであきらめずに誰よりも走っていたのは君だったよ。スタジアムのサポはみんなわかっている。スタッフに起こされて、サポーター席に挨拶に来た。ヒデコールがひときわ大きくなる。もしかすると、これでヒデは代表引退をしないかもしれないな、と思った。彼にとっても、これが何度目かの始まりになるのじゃないか。なって欲しい。


■きわめて幅の狭い強化の4年間

これから、もちろんジーコ監督を含めたこの4年間の検証がなされるだろう。さまざまな切り口からのそれがあることだろうと思うが、私がひとつ大きく気になっているのは、ジーコ監督の「功罪」のうちの「功」の部分があったとして、その恩恵を受けられた選手が非常に少ないということだ。自主性の開花でもいい、攻撃力のアップでもいい、勝者のメンタリティでもいい。そのどれであれ、これまでの4年間で中心として起用してきた選手は非常に少なく、彼らにしか伝授されていないものが、今後受け継がれていく可能性は少ない。しかも、この大会に若手も連れてきていない。次代へ受け継ぐものが非常に、非常に少ない。そこが問題だと思う。そして、そういう状態であるならば、この大会で求められるものは「結果」だけであったはずだ。

果たして結果は、2敗1分け、2得点7失点、グループ最下位・・・ということに終わった。これが「黄金世代」の結実かと思うと、さびしすぎる。これは「敗戦」だろう。そして我々に残されたものは、焼け焦げた大地だけ。しかし、しかし大地はある。大地は残っているのだ。我々には、この10年でたくましさを増したJリーグをはじめとする日本サッカーの土台がある。サッカーは終わらない。この日が、終戦ではなく、新たな始まりの日となることを祈念して、この項を終わりとしたいと思う。

ニッポン!!!!!!

それではまた。

10:40 PM [ジーコジャパン] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (4) |

June 21, 2006

ブラジルに勝てばいいんだろー!!

Image074勝ちたかった。勝たせたかった。われわれの声が足りなかった。みんな、ゴメン。

スタンドのサポーターは一様に下を向いた。虚ろな顔で動けなくなる人も多い。勝てなかった。負けたわけではないけど、勝てなかった。次のことを考えれば、勝ちたかった。でも、終わったわけじゃない。

「ブラジルに勝てばいいんだろー!!!!!」

叫んだ。一人だけおじさんサポが振り向いて「そうだ!」と言って笑ってくれたけど、みんなの耳には届かなかった。試合終了まで立って声を出していたサポが、ホイッスルと同時にへたり込んで、動けなくなっていた。帰ろうとし始める人さえいない。いや、いた。中にはホイッスルと同時に記念写真を取り始める人もいた。彼らにとってW杯は一種の「観光」でしかないのだろう。しかしそういう人のことはもう目に入らない。

選手が挨拶に来た。全員じゃないけど、ちゃんとわれわれの真正面まで来た。炎天下で2試合動き回って、しかも負けと引き分け、精も根も尽き果てているだろうに、挨拶に来た。私は思い切り拍手をした。大声で「まだあるぞー!!!」「次だー、次――――!!!!」と叫んだ。試合終了と同時にうるさい音楽をかけるスタジアムのせいで、それはかき消されてしまったけれども。

中には選手にブーイングするサポもいた。それに同調するサポもいれば、選手に拍手するサポもいる。でも一番多かったのは、放心状態になり動けなくなっているサポだった。どう受け止めていいのか分からない。そんな精神状態と、勝てなかった悔しさと、その他にいろいろなものがごちゃ混ぜになり、そんな顔になっていたのだろう。勝てた試合のような気がする。なぜ勝てなかったのか。


■高いラインと抑え気味のパス回し?

キックオフ直後、日本が最終ラインをすごく高く上げているのがわかった。もう上げるぞこのやろうーとでも言うように、高く高く、敵ボール時でもセンターサークル近くまで。コンパクトフィールドからのプレス、ヒデや高原がやって欲しいと言っていたそれが、全体にはまずまず機能していると思われた。しかし、最終合宿が始まってからほとんどやっていない4バックだけに、時々プレスがちぐはぐになり、真ん中をぱっくり割られたり、スルーパスでスパッと裏を取られたりすることもあった。ピンチが多い。そして、一本のロングパスで宮本とFWが1vs1になり、ちょっとした芝目のバウンドでボールをキープされ、後ろからチャージせざるを得なくなりPKを与えてしまう。

これをスーパーセーブした川口にはどんなに感謝してもしきれない。喉も避けよとばかりに「ヨシカツ」コール。このシーンのほかにも、この日は「ヨシカツ」コールを多くした。「人生で一番ヨシカツコールをした日」と、古参サポの友人は言う。日本では、日本のFWの決定力不足が槍玉にあがっているとあとから聞いた。それはもちろんあるだろうが、この試合の前半は、それを言いたかったのはクロアチアサイドだろう。あれだけのチャンスを外しているのだ。お互い様という感じだ。


■持ち味を発揮しやすい相手

クロアチアはやはりロングボールをあまり蹴ってこず、技術とパス回しで日本を下せると思っていたのだろう。日本の弱点を突く戦い方ではなく、「普通にやれば勝てるだろう」というやり方だ。これは日本のキーマンにハードマーク、ハードチャージをしてこないところからでもわかる。ヒディンク監督とはまったく違うアプローチだ。それでも、クラニチャルのヘッドをはじめ、相当なピンチを何度も招いてしまう。ヨシカツ大活躍。

ピンチはあったとは言え、こういうタイプ相手なら、日本は持ち味を発揮できる。じっくりしっかりとしたパス回し、ビルドアップができる。ジーコ監督の指示通り、パスを走らせて敵の体力を奪うやり方だ。前方にスペースがある時でも、日本の選手は動き出さず、キープしてからの横パスを選択していた。周りの何人かのサポは「遅いよ!もっと早く前に入れないと!」「前の選手動こうよ!」などと声を上げていた。確かにもっと縦に速くしたほうが敵を崩しやすいだろうが、前半はあえてそうしないという作戦なのだろうと思った。

果たして、暑さは日本に味方した(半分は)。クロアチアは前半の終盤から動けなくなり始め、後半開始早々から完全に足が止まってしまった。vsアルゼンチンや、vsブラジルで見せたハードさ、ソリッドさ、攻撃の鋭さはどこにもなくなった。日本の作戦勝ちか。日本が攻勢に出る時間が長くなっていく。クロアチアサポは次第におとなしくなり、日本サポの声援が加速していく。勝てる、勝ちパターンだ。私は友人のサポと目をあわせてうなずきあった。


■できなかったペースチェンジ

ところが、暑さのもう半分が日本に不利に働いた。PKを取られてからラインが下がりはじめ、前半攻められた時に守備で走り回ったのがマイナスになってきた。前半は、中村選手がペナルティエリア付近にいて、高原選手でさえ、サイドアタックをサイドバックのような位置でクリアーしていたのだ。それに加えて、2試合続けて暑さの中の試合というところが拍車をかける。後半の中盤から、動けなくなる選手がまた出てきてしまった。

結果的に、前半と同じような「持ってから離すまでが長い」サッカーになってしまった。中田選手が志向する、「奪ってからシンプルに、すばやく攻める」こと、あるいは「じっくりしたパス回しからペースチェンジして敵のゴールへ迫る速攻」が、なかなかできなくなった。すばやい攻撃には、回りの動き出しが必要になる。それが少なくなってしまった。ゆっくりじっくりした攻撃だと、欧州予選でしっかり守ることが身についているクロアチアの守備はなかなか崩れない。アジアレベルや親善試合レベルでは「完全に崩した」と思えるような状態でも、彼らはまだ1枚か2枚、奥を隠していた。ファウルを取られない体の使い方でボールを奪われ、あるいは最後の瞬間に足が出て、パスコース、シュートコースを消されてしまう。

それでも何度かチャンスは作ったが、決められなかった。ただ、決定力不足を嘆くのもいいが、チャンスの数自体も少なかったと思う。中田ヒデが「前に行ってしまったらいいのか、後ろに残ったほうがいいのか、迷った点に悔いが残る」と試合後に語ったらしい。それはそうだろう。彼からすれば後半の試合内容はもどかしかったに違いない。しかし、彼が上がってしまわないことで、この試合ではバランスが取れていたことも確かだ。難しいところだ。


■勝てる試合を落とした?

よく監督が槍玉に上がるのが「采配」だが、この試合では悪くなかったと思う。福西を稲本に代えて後半の守備は安定したし、疲労したヤナギに代えてフレッシュな玉田を入れるのも理にかなっている。大黒の投入が遅いと私の後ろのサポは叫んでいたが、私は無理もないと思っていた。全員が疲労していて、宮本はイエローを一枚もらっている。こういうぎりぎりのバランスで戦っている時は、カードを切ってバランスを崩すのが吉に出るか凶に出るかは微妙なところなのだ(私はシドニー五輪のUSA戦を思い出していた)。

しかし、結果は出なかった。前述のように、スタンドは静まり返った。何故勝てなかったのか。「勝てる試合を落とした」と選手が言ったらしい。確かにそうだ。しかし、チャンスの数では上回ったクロアチア選手だってそう思っていただろう。双方から見て、同じように残念な結果になった。TV局の都合で2試合が昼間の試合になったことをジーコ監督が嘆いたらしい。ただ、それを勝てない原因にするのも違うと思う。それはとうにわかっていたことだし、だいたい暑くなかったら、クロアチアの出来が続いていたら、むしろ向こうに有利たったのではないか?オーストラリア戦でも、先に動けなくなっていたのは向こうだった(そのあと得点で息を吹き返したけど)。


■最高の舞台だよ

これで日本は最低でも2点差でブラジル戦を勝たなければいけなくなった。ブラジルは強い。確かに強い。ただ、クロアチア以上に、「こちらの持ち味を消す」戦い方はしてこないチームだろう。日本とは噛み合うスタイルだと思う。涼しい夜の試合ということもあるし、日本は「強敵と戦うと自然と結束し、モチベーションが上がる」という特徴もある。、ブラジルという強敵を迎えるこの最高の舞台で、これまでで一番の試合内容を見せてくれるに違いない。チャンスも作れるだろう。

ジーコ監督は20日の練習を「シュート練習のみ」にしたそうだ。もうそれで正しいと思う。ここまで来たらあとは自分たちを信じて、これまでやってきたことを信じて、そして思い切り脚を振りぬくしかない。そうすれば、今のブラジル守備陣からなら、2得点は不可能じゃない。

不可能じゃない。まったく不可能じゃない。これは奇跡じゃない。つかみ取ることができる現実なんだ。

ブラジルに勝てばいいんだろー!!!!

ニ゛ィィィィィィィィッッッッポン!!!!!

それではまた。

06:55 PM [ジーコジャパン] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (4) |

June 17, 2006

信じる気持ち

Before現地では悲観論が蔓延しています。

(6月18日AM6時30分訂正。現地を歩き回ると、サポはみんな吹っ切れて「明日は頑張りましょう」と意気盛んでした。クロアチアサポも非常に多いですが、明日は負けません!)

私はそのたびにそばによって行き、「大丈夫だ、信じよう。僕たちが信じなくてどうするんだ!」と諭しています。そして「信じる根拠」をインプットしています。ただし、このタイミングで「信じる根拠」を振りまいているからと言って、これが根拠のない空虚なものだと思われては困ります。以下は、2月に刊行された「ブログキャスター」に私が書いた文章の一部ですが、今でも有効だと思いますので自己引用しておきます。

問題はクロアチアだ。欧州の伝統国のなかには、アジアのサッカーの実力をかなり軽視している国がある。日本が01コンフェデ杯で準優勝しても、05コンフェデ杯でブラジルと引き分けて見せても、それは変わらないようだ。02ワールドカップでは、ベルギーが明らかに日本を研究してきたのに対し、カルピン、モストポイを擁し、サッカー強国を自任するロシアは、「普通にやれば勝てるだろう」と臨んで来たように感じられる。クロアチアはどちらに属するか。

興味深いのは、欧州予選ではクロアチアは、どちらかといえばカウンターチームだったということだ。テクニックのあるチームなのだが、ポゼッションで勝ってきたチームではない。しかし、日本と対戦した時には彼らがボールを持つ時間が相当長くなることが予想される。そうなるとむしろ彼らの調子は狂うかもしれない。押され慣れているジーコ日本は、そこからあわてずにしっかりつなぐサッカーをできるはずだ。クロアチアが日本対策としてのプレスを採らず、「普通にやれば勝てるだろう」というメンタリティで臨んで来たならば・・・。

そして最後に気になってくるのが「気温」だ。日本はクロアチアと98年フランス大会でも対戦をしているが、シュケルの一発にやられたものの、むしろ日本が押しているといってもよい内容だった。その時の問題が気温だったのだ。欧州ではめずらしいほどの暑さに、クロアチア選手たちはコンディションを崩し、動けなくなっていた。05年コンフェデ杯でも、日本が勝利したギリシャ戦は、3試合の中でもっとも暑い日だった(29℃)。日本対策=「高目からのプレス」にとって、高い気温は天敵なのである。

クロアチアがどこまで日本を脅威に思い対策を取ってくるか、そしてそれが有効にできないような気温がその日に襲って来るか、こないか。日本が1次リーグを勝ちあがるために非常に重要なクロアチア戦の行方には、この2点が大きな影響を与えるだろう。


幸い、大会が始まってからはドイツはぐんぐん暑くなりました。初戦の日本は暑さと、大きな相手とのハードなフィジカルコンタクトで疲弊して行ってしまいましたが、それも一試合経験して慣れています。対するクロアチアは、湿潤なアジアの日本よりも弱いのみならず、初戦が涼しい夜のゲームだったためにあの暑さを未体験です。さらに日本人の身体的特性として、持久力はその長所でもあります。先のゲームでは日本の敵となったこの暑さ、次戦では日本に味方するでしょう。させましょう。


■クロアチアの出方は?

また、こうなるとマルタ戦、オーストラリア戦と日本があまりよくない戦いをしたこともむしろプラスに働くと言えます。ニュースでもクロアチア選手が「ガッカリした」などと語っているのが報道されていますね。もちろん、この本番中の本番、本気中の本気の戦いで敵がこっちを「研究してこない」「舐めてかかってくる」などということは期待できません。しかし、私はクロアチアはオーストラリアのような「日本のよさをつぶす」戦略は取ってこず、「自分たち(クロアチア)の良さを発揮する」やりかた、ある程度距離を置いてノーマルに守る、こちらが技術を発揮しやすい戦い方をしてきてくれるのではないか、と思っています。

その根拠は、クロアチアからすると日本は「絶対に勝ち点3を取るべき相手」だからです。彼らは最初から攻めてくるでしょう。そうなればこちらの思い通りです。彼らの攻めをがっちり受け止め、しっかりとボールポゼッションして球を走らせて敵を疲弊させましょう。敵が疲れれば、日本の俊敏性に大男DFの足元はついて来れないはず。そこに玉田や大黒を投入すれば、勝利は見えてくるでしょう(敵を疲れさせ後半勝負と言うのは、かのベルギー戦と同じ戦略ですね)。

クロアチアの監督はやはり、「日本戦は前から攻めに行く」と発言しているようです。ただ、ジーコ監督はそれは「情報戦略としてのウソ」=三味線であり、実際には引いてくると予想しているようです。これは凄い裏の読み合いですね。どちらになるのでしょうか。


■チームの意思の統一を

また、ここで中田選手とジーコ監督宮本選手とジーコ監督に意見の齟齬があるようだということが報道されています(スポーツ新聞報道だから割り引いて考えないといけないですが)。中田選手には「前に行くな」という指示が出ているようですが、これは前へ前へ出て行ってボールを奪おうという中田選手の特性を抑制しろということでしょうか。敵が引いてくるならこちらも攻め急がず、開始30分はボールを回して敵を疲れさせる、という戦略だともっぱら報道されていますね。それはこの暑さの中ではひとつの正解でしょうから、あとは全員でそれを共有して、しっかりと実行して欲しいですね。また、敵の出方が想定と違っていたならば、それに対しての作戦もある程度は共有して、臨機応変に対処して欲しいものです。じっくり話し合えば、大丈夫でしょう。


■任されて来たからこそ

さて最後に、私が周囲に語っている「信じる根拠」は、このチームの「精神性」です。いつも言う「家族は追い詰められてからが強い」というだけではなく、これまで何度も見せてきた「最後まであきらめない気持ち」、ピッチ上のすべてを任され、自立を要求される中で身につけてきたはずの、一体感、強い気持ち、リバウンドメンタリティ、そしてゲームを読む目、それらこそがこのチームの最大の美点だったはずです。それが、それこそが、今最も必要とされるものであり、そしてもちろん、これからまさに最大限に発揮されるだろうものです。それを信じましょう。

さあ、もう泣いても笑っても明日です。私たちサポーターのチカラも今また試されようとしています。クロアチアサポも大挙して参戦しそうですぞ。まずは応援で絶対に負けないようにいたしましょう。

「絶対気持ちで負けんなよ!」

ゴン中山隊長の声を脳裏に響かせながら。

それではまた。

09:01 PM [ジーコジャパン] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (5) |

June 15, 2006

次だーーーー!!!!

Anthemみなさま、オーストラリア戦はお疲れさまでした。

現地では、切り替えられないサポーターが俯いて歩き、今日などは同じレストランで食事していた日本人夫婦が喧嘩を始め、おさめるのがたいへんでした。いやー、落ち込みますね、あの負け方は。私はまだ声が枯れております(笑)。


■リスクを犯したくない?

試合を生で見ていると、まずは前半のラインの非常な低さが目につきました。まあ、「まずは低目からスタートして、プレスがかかれば次第にラインを上げていく」というのは、ドイツ戦でも成功したやり方ですから、それでいいといえばいいのですが・・・。それにしても異様に低い。オーストラリアを過剰に警戒した宮本が個人で下げてしまったのか、ジーコの指示なのか・・・?

私は、ドイツ戦のように低い位置でもコンパクト、プレスがかかればラインを上げ、高い位置にコンパクトを作るやり方なら、この暑さでも先にスタミナ切れを起こすのはオーストラリアだろうと思っていました。しかし、この試合ではディフェンスラインは低いまま、日本ボールになっても押し上げる気配がない。これでは、攻撃性の高い中田が走らせる前線の選手とDFラインの距離が開いてしまい、無駄に体力を消耗するぞ、という懸念が、前半途中で沸いてきました。


■なぜ押し上げられなかったのか?

そのひとつの原因は、あきらかに中田、中村にターゲットを絞っていた敵のハードなチャージです(ヒディンク監督のコメントでもそう言っていますね)。こういう「ボールを持つ」タイプのポゼッション(ボールを回す、のではなく)では、キープする時間の長い選手が狙われるのは必然です。これによって、おそらくは中村選手は次第に「壊れ」(フィジカル的にもメンタル的にも)に陥っていたのではないでしょうか。終盤には本当に動けなくなっていたようでした。

このようにハードにチャージされることで、日本の「低い位置からでもボールを持ちながらじっくりとゾーンを押し上げていく」というやり方がまったくできなくなっていたこと。それにより、ゾーンが低いままで、高い位置からのプレッシングがほとんど機能せず、敵に自由にボールを回されていました。まあ、ある程度は「回させていた」という部分もあると思いますが、あそこまでラインが低いとチャンスを作られやすくなり、シュートも多く打たれてしまいます。

→オーストラリアはロングボールを蹴るだけだった、という意見を目にしますが、「そう?」と私は疑問に思います。ヒディンク監督になってからのオーストラリアはむしろグラウンダーのパスを回すチームで、それも前半からけっこう日本はやられていました。本来なら日本のプレスと相性のいいはずの敵のやり方なのですが、日本チームのラインの引きすぎ、敵のチャージにやられ高いゾーンを保持できなくなっていたことなどから、かなり自由にやらせてしまっていましたね。まあ先制後は、「あえてそうした」という部分もあるでしょうが。(オーストラリアがロングボールを増やしていったのは後半途中からですね。)


■わかりやすいヒディングの戦略

これは、日本は体力勝負に持ち込まれるとやばいかもしれない。リードされたヒディンク監督は、後半途中からFWをどんどん投入し、バンザイアタック(あれ?)に出てくるでしょうから、それに付き合わないようにしないといけない。それにはロングボールの出所を押さえることですね。セオリーです。

また、これまでのオーストラリアのテストマッチを見ていると、ロングボールを入れてくるにしてもそれでそのままヘディングシュートではなく、また裏に抜けるのでもなく、まずは後ろを向いて胸トラップ、キープ、そのまま反転するか、2列目に落としてシュート、というカタチがものすごく多いことに気がついたはずです。それはまったく予想がついたことでした。

案の定、後半途中からどんどん新しいFWが投入され、次第にロングボール攻撃が増えてきます。それにしても、裏に一発で抜けることの少ない敵FWですから、バイタルエリア(DFラインの前、ボランチの後ろぐらいのエリア)を締めておけば、それほど怖くないはず。ダブルボランチの自重が求められる局面でした(1点リードしているんだし)。


■局面を変えた選手交代

さてここで小野投入です。先にも書いたように、中田と中村がハードなマークでボールポゼッションしきれていなく、それがゾーンの低さにつながり、守備にも悪影響を及ぼしている・・・とジーコ監督は考えたのだろうと私は想像します。そこで起点をひとつ増やして、「キープしてほっと一息する時間」を作ろうとした・・・?そうであれば、この采配はあながち間違いではないと思います。ただ、敵がFWの枚数を増やして、また先に書いたようなロングボール→胸トラップ→キープ→2列目という攻撃を狙っている時に、バイタルエリアを開けることは完全に間違いです。ジーコ監督の指示がどうだったのかわかりませんが、結果的にそのパターンで失点していますね。なんとも残念です。

ここで個人的には本当はやってほしかったことは、巻か玉田の投入でした。玉田ならロングボール1発でもカウンターの役に立つ(終盤はカウンターのチャンスに誰一人走っていませんでした)し、敵陣深くでキープしてくれれば時間稼ぎにもなります。あるいは巻なら、かつてのゴン中山を思わせるような、最前線からの「魂の」強烈なチェックをして、ロングボールの出所をつぶし、日本の守備陣を楽にしてくれたでしょう。私はいわゆる「守備的ボランチを入れろ」よりも、こういう交代のほうが勝利に近かったと思っています。


■日本は戦っていたか?

選手たちも、監督も、日本の美点であるボールポゼッションを放棄しようとは思っていなかったでしょう。ただ、予想以上に中盤でのハードなフィジカルコンタクトでそれが分断され、復帰のめどが立たなかった。それはもうひとつにはジーコ監督のハーフタイムの指示「1点を守りきれ」によって、選手が慎重になり、スペースを作り、使う「オフザボールの動き」に参加しにくくなっていたこともあったでしょう。しかし、ヒデは守りきるつもりは全然なく、相変わらずスペースへ鋭いパスをビシッと通していましたね。その辺のジーコとヒデ、ヒデと周囲の選手の意識の乖離が、なんとも残念だったことです。

ただ、試合終盤では(TVには映っていなかったかも知れませんが)、マイボールになった瞬間に走っているのはヒデ一人でした。彼の姿からは「戦っている」事がよく伝わってきました。しかし、他のほとんどの選手は走らないばかりか、守備でマイボールになった瞬間にはボールから目を離して歩いていて、自分にパスが出ると驚く選手もいる。守備陣がようやく敵から絡め奪ったボールを前線にパスをしようとしても、誰も走っていないからただのクリヤーになってしまう(6/15 20時訂正済)。この試合で現地のサポが本当に打ちのめされたのは、同点にされ、逆転された後の選手たちの「あの」姿でした。しまった、書いていてまた涙が出そうです(笑)。


■NEXT TWO WIN!!!!

しかし、しかしです。まだあと2試合あります。

「緒戦で負けたチームが勝ちあがれる確率は4%」ですと????たった2大会のそれではデータが少なすぎますよ。だいたい「緒戦で」というのが統計の嘘です。どういうチームと当たるかということのほうが重要なはずで、そういう意味では「グループリーグで1敗したチームが勝ちあがれる確率」とするべきです。この2大会に限定すると、決勝トーナメントへ上がったのべ32か国中、9カ国が1敗しています。割合にして26%!ですよ。しかもその中には、イングランドやブラジル、結果的に3位になったクロアチア(98年)、トルコ(02)も入っています。そう考えると、悲観することはまったくないでしょう。ないんですよ。

今ごろ選手たちは次へ向けて熱い話し合いの真っ最中でしょう。ある意味これで吹っ切れて、「やることはひとつ」と考えられるはず。次試合は「攻め」に吹っ切った選手たちののびのびとした「自分たちのサッカー」が見られるでしょう。幸い、オーストラリア戦を見て「がっかりした」らしいクロアチアは日本を舐め、オーストラリアほどは激しいチャージをしてこない、日本にとって持ち味を発揮しやすい敵となると予想されます。いいサッカーを見せて、そしてもちろん勝ってほしいですね。いや、勝てるでしょう、勝ちます!

ニ”ィィィィィィィィッッッポン!!!!

それではまた。

01:13 AM [ジーコジャパン] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (3) |

June 07, 2006

ではドイツで!

ドイツワールドカップ2006も開幕まであと少しと迫ってきましたが、まずはじめにご報告です。

私は日本戦3試合を見に、ドイツへ渡ることにしました。

現地に一応インターネット環境は持って行くつもりですが、現地から更新ができるかどうかはわかりません。最悪は、W杯期間中の更新がなくなってしまうかもしれませんが、ご容赦願えれば幸いです。


■最高の試合と・・・

さて、ドイツ戦、マルタ戦と、最高の試合を見せてくれた後に少し気の抜けた試合を見せてくれた日本代表ですが、これらはどれもそれほど驚くようなことではないでしょう。以前にも書いたように、加茂監督の昔から、出てきてスペースを与えてくれる欧州強豪に対してはいい試合を見せられても、引いて守ってくる相手には苦戦するのが日本の特徴でした。さらには、何と言っても現代表は「家族」なのであって、家族は、ドイツ戦のように自然にモチベーションの上がる「危機」には強いが、マルタ戦のような「平時」にはピリッとしなくなってしまう。これは以前から見られたことですね。

ドイツ戦のままオーストラリア戦を迎えるより、マルタ戦を経験しておくことでチーム全体がふたたび「危機」を感じ取ってくれているほうが、W杯に向けてはよかったと言えると思います。そしてまこそ、この「家族」の最大の目標だったW杯に直面しているわけですから、だいじょうぶ、マルタ戦のようにピリッとしない試合は本大会ではないはずです。


■アジアカップ代表+チーム・ヒデ

ドイツ戦は、直前の話し合いの成果が十分に出て、前半のように押し込められた時間にはFWも下がって全体を低い位置でコンパクトにして我慢でき、プレスが利きだしたらラインを上げて積極的に奪いに行く、そういう使い分けができていましたね。前半はアジアカップ仕様、途中からはそこに中田英や高原の要求していたプレス主導~シンプルな速攻仕様を織り交ぜた、というところでしょうか。これはドイツのような「出てきてくれる」敵に対しては実に有効でした。

そして特筆すべきは、このような「プレッシングからのショートカウンター」戦術においては、中田英選手の特徴である「すばやく的確なアプローチ」「力強い1vs1のディフェンス」「視野の広さと大きな展開」が非常によく活きていたことです。そしてそれを引き出すヤナギをはじめとする選手たちの動き出しのよさ。私や中田英が、常々代表に「やってほしかった」「やるべきだと思っていた」サッカーがそこに出現していました。このサッカーができればオーストラリアやクロアチアには十分対抗できるでしょう。


■バーンアウト

ところがマルタ戦です。マルタは先制されても出てこない、5バックで引いてスペースを消し、入ってきたら集中して体を張って止める、攻められ続けてもあわてない、あせらない、という、トルシェの言う「守備の文化」が息づいているような敵でした。「勝って景気をつける」という目的のために選ばれたのでしょうが、「日本と対戦することに恐怖を感じていた」と監督の言う、こういうチーム相手に大勝するのは難しい。

その上、ドイツとの激闘の結果、精神的にややバーンアウトした選手たち。グループリーグにピークを持っていくためにかけている負荷による、フィジカルコンディションの低下、などなどが拍車をかけました。ヒデは「走らないと勝てない」と言っていたようで、確かにその通りなのですが、私は「無理もない」と思ってしまいますね。

この試合ではヒデの「走れよ!」というメッセージの乗ったパスが目に付きましたね。味方選手が動き出していなくても、その前方へ、前方へのパススピードの速い、力強いパス。あるいは、FWの足元につけるビシッとしたクサビのパス。どちらもロジカルで、勝つためにはよい選択肢なのですが、チーム全体となんともフィットしていない感を受けました。

さらには、有限実行というか、最も動き出しが早く、走り回っていたのも中田英でした。しかし、この試合ではこう言っちゃなんですが、それは逆効果の部分もあり、中田がトップスピードで引いた敵の中に入っていっても、トラップがどうしても浮いてしまい、奪われることのほうが多かったですね。ペナルティエリア付近で「なにか」を起こす力は小野や中村、選ばれていませんが松井あたりのほうが上だと思います。

ジーコ監督もそう思ったのはわかりませんが、後半から4バックになり小野投入、しかも中田英を上げるのではなく、小野がオフェンシブに。この3バックから4バックへのシフトチェンジは、アジア予選などでは効果を上げてきたわけですが、ここではうまく行きませんでしたね。さらに玉田に代え小笠原(大黒のワントップ)、福西に代えて稲本(ヒデよりも高い位置にいましたね)、そして大黒に代えて巻のワントップと、日本は完全に「選手に試合を経験させる」モードへ。

ただ、ドイツ戦までで出来た「レギュラー組の話し合い」には彼らは入っていないわけで、また国内で行われたキリンカップの試合には中田英や中村は出ていなく、コンビネーションがまだまだ。フレッシュな選手を投入するほど攻撃がこう着状態に陥るという、やや残念な結果となりました。

まあ、後半の選手交代も「1点をもぎ取って来い!」というよりは、「試合勘を取り戻して来い」だったことは確かですし、ここで出来上がった4-5-1も「オプションを充実」ではなくて、「使うべき選手を投入していたらそうなった」だけでしょうから、ここでできていなくても取り立てて問題視するには当たらないでしょう。点を取りたいときのオプションは他で充実しているはずです(そういえば中村選手はFKをあまり見せていませんでしたね・・・笑)。


■彼らは出てきてくれるか

個人的に少しだけ気になるのは、ドイツ戦をオーストラリアとクロアチアに「見せてしまった」ことです。「日本相手には出て行くとやられる」・・・もし彼らがそう思って、マルタのようなやり方を取ってくると、マルタよりもカウンター時がはるかに鋭いですから、少し困ったことになりますね。ただ、クロアチアは自らを強者と自認してくるでしょうし、「日本から勝ち点3を取らなくては」という状況にあるはずですから、出てきてくれるものと思います。そうなればドイツ戦の再現ができるでしょう。

オーストラリアは激しいフィジカルコンタクトを高い位置からかけてくるチームですね。2002年の韓国を思い出しました(笑)。ただあの時にくらべると、韓国人選手の持っていた凄いスタミナはないでしょうから、後半に日本がポゼッションを回復し、細かいパス回しをしていけば、大男DFの足元を突いていけるでしょう。両チームともセットプレーから得点しようとするでしょうが、コンフェデの時のギリシャも「日本は小さいから高さで勝てばかんたんだ」とばかりそこばかり狙って来て、かえって対処がしやすかったですね。

どちらの試合も、ドイツ戦の再現になれば十二分に勝機があるし、マルタ戦のような試合振りになったら危険でしょう。その最大のポイントはメンタル面と、コンディション、そして「敵が出てくるか、否か」。敵に関すること以外は、こちらで完全にしておくことができるものですから、これまで自分たちがやってきたことを信じて、しっかりと準備をして臨みたいですね。

ではドイツで!

ガンバレガンバレ、日本代表!

それではまた。

02:44 AM [ジーコジャパン] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0) |