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March 11, 2006

スタート以前

4093800812まず最初に、また更新に間が空いてしまったことをお詫びいたします。さて、日本代表始動シーズンの締めくくり、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦が終了しました。後半敵にペースを握られ、かなり崩されたこの試合を見て、やや現日本代表の守備に不安を感じられた方もいらっしゃるかもしれませんね。そういう方には、この本はちょっと参考になるものです。

佐藤俊というライターは、選手にくっついてコメントを獲ることがメインであまり好きなタイプではないので、オススメとは言わないですが(笑)。少なくともこの著作に関しては、宮本が日本代表のDF戦術の構築にどのように苦労し、またどのように成功していったかが如実に書かれてあり、現日本代表を考察するのには、かなりよい資料といえるでしょう。

私は2003コンフェデ杯後に書いたこちらのコラムで、ジーコ監督のチーム作りにおける

「今回のようにみんなで話合う時間があればいい。でも、そうでない場合や新しいメンバーが入ってきた時に、意見のすリ合わせが十分にできない恐れがある。ディフェンスだけは感覚でできないから」(サッカーマガジン誌:選手談話)

という問題点を指摘しました。監督がそれほど守備に関する細かい指示を出さず、選手間での話し合いで約束事を詰めていくものである以上、選手が固定されることは必然です。そして、それに参加していない新しい選手が入ったときには、かなり戻ったところから話し合いのやり直しになることもまた当然でしょう。ジーコジャパンの3年間における、その話し合いの過程、またメンバーが変わったときに苦労した点などが、本書では詳細に語られています。

一般的には、選手が多少入れ替わっても守備面での組織が崩れないように、チーム全体(11人だけでなく)に戦術(特に守備の)を浸透させておくことが、監督の大きな仕事となりますね。中澤がいう、「困った時に戻る場所としての戦術」とは、そういう意味でしょう。しかし、現在の日本代表はそうなっていない。発足して3年以上経った今でも、選手同士が集まってから、2週間程度の時間をかけて連携を煮詰めた後でないと、チーム全体としての守備、中盤からの守備が整備されていきません。ぱっと顔を合わせて試合をせざるを得なかった1次予選の初めの頃や、3バックを前提に話し合いを重ねてきたのに、急に4バックになった最終予選イラン戦などで混乱があったのは、当然のことなのですね。

そして、アジアレベルを超えた強豪相手には、そういうチームとして連動した守備ができていないと対抗することは難しいですから、再始動したてのアメリカ戦、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦における、特に守備面での苦戦は、ある意味「織り込み済み」のことと言えます。これは、W杯直前の合宿において、23人の選手が決まり、レギュラーとして出場しそうな選手、3バックか、4バックかというところまで決まったあとで、煮詰めていかざるをえないものと考えるべきなのでしょう。

発足して3年以上経った今、それでいいのか悪いのかは置いておいて、現状はそういう意味では「チーム作りスタート前」なのであって、たとえ悪い試合をしたとしてもあらためて問題視するには当たらないわけですね。問題はいくぶんかはある。もちろんあるのですが、それは本大会前の合宿にならないと解決しないのです。逆に言えば、そこでは解決するはずのものでもある。まあここは気を落ち着けて、本大会を楽しみに待ちましょう。


■前半:戦術的ボランチ中田英

さて、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦ですが、海外組と国内組が今年になって初めて顔をあわせ、しかもほとんど練習が一緒にできなかったということを考えると、(ボスニアが様子を見ていた)前半は十分合格点の試合をできたと言えると思います。守備面では、中田、小笠原の早いチェックが効き、じっくりとつないでくるボスニアの攻撃を寸断することができていました。

攻撃面では、中田選手がボランチに入り、いつもの卓越した戦術眼ですばやい攻守の切り替えをつかさどる事で、こちらも十分以上に対抗できていました。特に、すばやく動き出す高原選手に対して、フィールドを斜めに横切るサイドチェンジ気味のロングフィードを何本も通していましたね。

そこに起点を作ることで敵のDFラインを押し下げ、敵をノン・コンパクトに、フィールドを広げてしまう。そうすると、中村選手をはじめとする日本の中盤選手たちの技巧が生きる。私はロジカルな中田英選手の最適ポジションはボランチであると以前から思っていましたが、この試合でますますその感を強くしました。


■もと「バルカンのブラジル」、ボスニア・ヘルツェゴビナとクロアチア

さて、日本vsボスニア戦の翌日は国際Aマッチデーだったために、各所で親善試合が行われましたが、その一つにクロアチアvsアルゼンチンがありました。クロアチアが3—2と逆転勝ちしたために、代表サポーターの中に衝撃が走りましたね。後半クロアチアが盛り返したのは、ジーコ監督がいうようにアルゼンチンの攻め疲れが大きいと思いますが、クロアチアが引いて守ることを徹底したこと、前線からファウルすれすれのフィジカル・コンタクトを含むハイプレッシャーをかけるようにしたこと、の2点も要因といえると思います。

中田英選手は、試合後のサッカーダイジェストでも、ヒデメールでも

(後半のように)プレッシャーが厳しくなるとボール回しができなくなる。日本の持ち味だけにこれを消されると苦しくなる。(サッカーダイジェスト:括弧内補足筆者)

と語っています。前回も指摘しましたが、ウクライナ戦やアメリカ戦でもまさにそうで、この点はこれから日本が意識して向上していかなくてはいけないことでしょう。

ただ、ボスニア・ヘルツェゴビナもクロアチアも、もとは旧ユーゴスラビア、「バルカンのブラジル」と呼ばれ、個人技を生かしたテクニック重視のつなぐサッカーをする国でした。そしてボスニアは、そういうチームによくあることとして、プレスは実はそれほど整備されていないと見ます。ボスニアvs日本の後半も、激しくはあるのだけど単発で、言うほど整備されたプレスをかけているわけではない。クロアチアも、対アルゼンチンや欧州予選では、強敵を封じるためにはプレスをかけていきましたが、彼らからすると格下だと思っているだろう日本に対しては、あれはやってこないのではないでしょうか。

じっくりとパスをつないでいく現日本代表のサッカーともっとも相性が悪いのは、アメリカがやっていたようなサッカーでしょう。ヒディンク監督率いるオーストラリアは日本をスカウティングし、ハードなフィジカルコンタクトを含んだプレスを整備してくる可能性があります。しかし、「アルゼンチンに勝った」ことで自信を深めたクロアチアはそうせず、自分たちの技術を生かして攻撃的に点を取ろうとしてくるのではないでしょうか。そうなればむしろ日本にとってはチャンスですね。一泡吹かせてやりたいですし、またそうできる可能性も十分あると思います。


■後半:サイドの数的不利

ボスニア・ヘルツェゴビナ戦に話を戻しましょう。前半終了間際に中村のCKから高原が得点を決めたこともあり、後半になるとボスニアは立ち上がりから攻撃的に来ました。特にサイドバックが積極的に上がり始め、中盤と絡みながらサイド攻撃を活発化、日本は数多くのクロスをあげられてしまいました。しかもその際、中でボスニア選手をどフリーにさせていて、自由にヘディングシュートを打たれることが何度もありました。ボスニアがW杯に出られないのは、この決定力不足が原因か、と思わせるほどでしたね。

この問題に関して、サイドバックの三都主と加地を攻める意見が多く出ているようです。もちろん、サイドの守備を第一に見るのは彼らですから、彼らの責任は大きいと言えます。しかし、より大きな問題は、チーム全体での守備のやり方が、冒頭に見たように「久しぶりに組む面子だと、戻ったところから話し合いのしなおし」になるということにあるのです。また、監督の指示によってやや混乱もしていたようです。

DF加地は試合前、ジーコ監督から「サイドの選手につけ」と指示されたことを明かした上で「ハームタイムには外に張りすぎだと言われた」と、位置取り自体に混乱していたことを吐露。

敵がサイドチェンジを含めたサイド攻撃を活発化したことで、問題は顕在化してしまいましたね。

例えば後半開始直後、日本の右サイドでキープされてサイドチェンジされたシーンでは、左サイドで中村選手が後追いの守備になってしまい、それを見た三都主が飛び出て守備をしようとし、クサビを入れられてダイレクトで外に展開され、2本のパスで二人が完全に守備において無効化されてしまいます。これによって、14べジュリアに自由にクロスを上げられ、中央では8グルイッチがフリーでヘディングシュートを放っています。

これはフォーメーションの問題、選手の適性や能力の問題もありますが、「このように攻められたらどうするか」に関する選手間の考え方が、まだ統一されていないからだと考えるべきでしょう。サイドで人数をかけて崩しに来られた時の対応は、サイドバックともう一人、OMFが見るか(この試合では中村、小笠原)、ボランチ(福西、中田)が出るか、センターバックが出るか、ということになります。ここを詰めておかないといけませんね。

4-4-2flat4-4-2boxプレミアリーグなど、欧州でよく見る中盤をフラットにした4−4−2はそこが明快です。また流行であったらしい(笑)4−2−3−1でも、「3」の両サイドがそれを重点的に対応することが多くなるでしょう。4−3−3でも、4−3−1−2でも、そこはかなりはっきりしています。この日のような、中盤をボックス型にした4−2−2−2は、4バックの中でも「人数をかけたサイド攻撃への対処」がもっともあいまいになりやすく、連動性、共通理解が必要なフォーメーションですね。もしこれでいくならば、W杯までにはさらに意識統一を図っておいて欲しいものです。


■もう一つの問題:「行って」しまう中田英

これは、以前から各所で指摘されていることですが、中田選手は「全体をコンパクトにし、高い位置からプレスをかけるというサッカーをするべきだ」と考えている選手です。そして、それを自らも実践し、周囲にも強力に求めていく。例の福西との意見の違いもそれで発生したものだと言えるでしょう。ボスニア戦でも、中田選手ががっと「行って」しまい、福西選手はバイタルエリアを空けないために残っている、というシーンがよく見られました。

そうなると、チーム全体での守備の約束事が再整備されていない現状では、一箇所でのプレスはできるのですが、その逆に展開されると一気に苦しくなります。中田選手が「行く」ならばチーム全体がそれに呼応してポジショニングを修正、DFも距離を開けないようにしてコンパクトを維持すれば、サイドチェンジされても距離が近いために対応ができます(実際そうしているチームはよくあります)。しかし、私は日本代表ではもうそうするべきではないと思います。この3年間でそれを整備できなかったのですから、今から急にやろうとしても、穴が開くだけではないでしょうか。

私は、以前にも書いた「敵ボールになったらいったん下がって、ペナルティエリアのやや外くらいにコンパクトな陣形を敷いて待ち受ける」というブラジル戦後半のやり方を、できれば4バック3ボランチにして、採って欲しいと思います。それならば、今回のようなサイド攻撃、サイドチェンジの多用にも対抗できるでしょう。


W杯前に海外組がそろう最後のチャンスだったボスニア・ヘルツェゴビナ戦。多くの課題と教訓を残してくれましたね。選手一人一人がそれを認識できただけでも収穫です。それを胸に抱いてこれからのリーグ戦を戦い、再集合した時にはそれにしっかりと取り組んで、よく話し合い、解決していって欲しいですね。

それではまた。

01:00 PM [ジーコジャパン] | 固定リンク

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