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October 10, 2005
収穫と課題と「献身」と
いやー、ちょっと悔しかったですね、ラトビア戦。2点先制しているだけに、試合運びによっては十分勝てた試合でしょう。しかしまあ、ジーコ監督もいうようにこれは「課題を見つけ、解決するための強化試合」なのですから、課題が見えたことはむしろよかったとも考えられますね。
■値千金の先制点
ラトビアは、EURO2004でドイツと引き分けるなど、健闘が目立ったチームだった。しているサッカーは、欧州の伝統的なカウンタースタイル。コンパクトに、しっかり守ってそこから左サイドの10ルビンスの突破、9ヴェルバコフスキスが決めるというパターンでしぶとく勝ち上がる。オランダやスペインなどの一部のサッカー強国、大国以外の欧州の国は、彼らに伍して本大会出場を狙うためだろう、だいたいこのスタイルをとっている印象が強い。
ジーコ監督の下、ショートパスを丁寧につなぐポゼッションサッカーを志向する日本は、えてしてこういう相手と相性が悪いと考えられてきた。しかし、W杯本大会でも強国以外の欧州勢と当たる可能性は高い。2002年のベルギーも、超強国とは言えず、こちらの範疇に入るだろう。彼らはカウンターという武器を持つだけでなく、やはり欧州でもまれているだけに、老獪さも併せ持つ。それに慣れておく、経験しておく必要はある。これは実に適切なマッチメークだったと言えると思う。
日本は試合前から言われていたような、稲本を底にするダイヤモンド型の布陣でスタートした。ラトビアは、9ヴェルバコフスキスを1トップ気味に、後ろに10、5、8と並ぶカタチか。ラトビアは最初は完全に引いて守るのではなく、やや高めからプレッシャーをかけてきた。日本はパス回しが得意らしいが、そういう相手こそプレッシャーを厳しくして中盤で奪うのが有効だ・・・と考えたのか。これは先日のホンジュラス戦で日本がやったことと似ているかもしれない(笑)。ホームでもあるし、はじめにガツンとやってやれ・・・そんな意識もあったのだろう。
それによってラトビア側に、先日のホンジュラス戦の日本と同じ弱点が出ていた。中盤が前で奪おうと人数をかけるために、ボランチとDFラインの間がやや空くのだ。ラトビアのDFも、「ま、普通にやってれば守れるだろう」とでも言うように、ゾーンディフェンスでスペースを埋める意識を優先させていた。4分、ヒデがヘッドでボールを前に送ると、柳沢のデコイランの効果もあり、高原はフリーに。そこからGKの位置を見て振りぬくとボールはGKの頭上から落ちてゴールに突き刺さる。ラトビアのような相手に、前に出てこざるを得なくさせる、その意味でもこの1撃は値千金だった。
■前半のパス回しとダイヤモンド
プレスの裏を突かれて失点したラトビア、ここからは日本のパス回しが利いてくる。柳沢、高原が的確にボールを引き出して、ヒデと俊輔、そして松井がくるくるとポジションチェンジ、パスがその間をきれいに回っていく。日本代表の最近の典型的なプレーだが、松井はそれにすんなりと溶け込み、あるいはアクセントにもなるプレーを見せていた。この試合で松井を見直した人も多いのではないか。
稲本の、ダイヤモンド型の中盤の底、アンカーポジションに対する評価はどうだろうか?まだトップフォームではないにしろ、彼の存在によって「DFラインと中盤の間のスペース」という問題は、いくぶん改善を見せていた。パスの散らしも有効だった。彼が納まっていることで、ヒデも松井も安心してあがっていくことができた。守備面、構成面に関して、これは今後一つの有効なパターンを見つけたといえるだろう。
ただし、前半は、という注意書きが必要だ。日本のMFたちはホンジュラス戦の「プレス破られ」の思い出から(?)脱却しようと、この試合でも高い位置からプレッシャーをかけていく。それは前半はある程度は機能した。しかし後半からはラトビアも、アンドレイエフス監督が言うように、プレスの際の差し込みを深く、あたりをハードにして来たのだ。
そうなると、次第にパスがつながらなくなり、また体力的にも消耗していく。DFラインがロングボールに押し下げられ、フィールドは間延びした。運動量の低下した中盤は、こぼれだまをまったく拾えなくなっていく。後半の日本のシュートはPK、FK以外には43分の大久保のシュートだけだった。ラトビアのハードプレスは日本の選手のボール保持の長さを、ロングボールは日本のDF陣の混乱を、それぞれ見て取ったもので、実に的確な判断だったと言えるだろう。
ラトビアの戦い方は「老練」という言葉がぴったり来るもの。足技のレベルは日本が上だと感じるが、日本のDFラインのパス回しが多いこと、パススピードが遅いことを見て取るや、プレスのポイントをそこに絞ってくる。これは前半からそうだったのであって(例:19分、茂庭から田中へのパスが奪われている。31分、日本陣FKからのこぼれだまを不用意に中にいれ、2ステパノフスのシュートにつなげられている)、中田浩二のパスミスだけを「個人のミス」と断じるだけでは、問題が見えてこないだろう。
■老練、ラトビア
試合の流れに話を戻そう。失点後、10分から20分の間は、ラトビアはいったんプレスを緩める。引いてブロックを作って待ち受けることを優先したのだ。日本はこの間は悠々とパスを回していた。ヒデがいう「決定力不足が課題」というのはこの時間帯の印象が強いのだろうと思うが、実はそれほど決定機が多かったわけでもない。前半日本は9本のシュートを放ったが、浮きだまのパスにボレーや、DFラインの外からミドルシュートが多く、人数をかけるラトビアの守備をこじ開けることはできていなかった。しかし、「つなげる」と感じた日本は、この時間帯の意識を試合最後まで持ってしまったようだ。
20分あたりから、ラトビアは特に縦パスに対するあたりを厳しくし始める。ダイヤモンド型の中盤で、ヒデと松井、中村という攻撃型メンバーであることもあり、日本は中央からの攻めが多くなっていて、比較的サイドへの展開が少なかった。ラトビアはそこでまず最初の基点をつぶしにかかったわけだ(そうして外へ展開させれば、クロスに対する守備には自信があるのだろう)。さらには、中盤の松井や中村にも激しくチャージにかかる。それでも何とかパスを回せていた日本だが、こうもあたりが激しいのが続くと、肉体的にきつくなってくるのだ。それが出たのが後半だった。
■ダイヤモンドを輝かせるには
後半の日本の得点は、その中でも日本のよいところが出たと思う。駒野が奪ったボールを中村が高原に速いパス、高原はドリブルからヒデにパス、ヒデはヒールでペナルティエリア内の柳沢に、柳沢が振り向いてシュートしようとしたところにファウルを受け、PKを奪取したもの。パスを回しすぎないスピーディなダイレクトプレーに、個人のアイデアが融合した良い攻撃だったと思う。しかし、ここにもちょっと問題点(というほどでもないが)が見えている。
前半から、ヒデ、松井が前に行くと、中村と稲本が下がっているという状態が目に付いた。もちろんポジションチェンジしながらパスを回すのはよいことだ。こういう上下動がないと、攻撃が停滞してしまうだろう。しかし、しかしである。どうも見たところ、中田ヒデ選手は最近、ペナルティエリア付近での「怖さ」を失っているのではないかと思えるのだ。この得点のときのヒールパスは良いアイデアだった。遅攻からのパスサッカーで点を取るには、こういう意外性が非常に、非常に重要だ。しかし、それをヒデが表現していることは、最近少ないのではないか、と思うのだ。
そういうプレーは、やはり中村選手や松井選手の方が得手だろう。しかしこの試合では、中田選手の攻撃参加が多く、中村選手や松井選手が懸命に下がって守備をするシーン多かったように思う。その運動量が、終盤のガス欠を招いた面もあるだろう。ペナルティエリア付近での細かいアイデアが持ち味の選手と、ロジカルに、攻守の切り替えをつかさどるのが得意な選手。それぞれのそういった持ち味が、今ひとつ生きていないように感じられた。
ダイヤモンド型の中盤は、前半のように流動的に攻撃するのには向いているのだが、できればもう少し選手の前後の意識をはっきりさせた方が良いのではないかと、個人的には思う。具体的には、やはりヒデにはボランチを優先してもらって、松井や中村選手のアイデアを生かす方向に行って欲しいのだ。ボランチこそが、彼のダイレクトプレーへの志向、誰よりもロジカルなプレーの特長を生かすポジションだと個人的には思うからだ。
■流れを失った後半、さらに失った選手交代
後半、ロングボールを増やしたラトビアに対し、間延びし運動量の落ちた日本はこぼれだまを拾えなくなっていく。21分には、こぼれだまを拾われたところから、中村、稲本、茂庭が10ルビンスに交わされ、ペナルティエリア内で駒野が止めた。がそこで与えたCKから失点してしまう。高さの問題だけではなく、前半から再三セットプレーでフリーな選手を作っていた日本の守備。本大会にはしっかりと準備をして欲しいものだ。
後半20分、柳沢に代えて大久保が投入された。欧州でプレーする彼は是非今の代表でも見てみたい。誰もが思う交代だっただろう。しかし、結果的には裏目に出た。柳沢はいうまでもなく、最前線の素晴らしい動き出しで、1人でスペースを作り、使い、ボールを引き出せるFWだ。彼がいなくなったことで、ボールの出しどころが減少し、それまではある程度できていたパス回しが、さらに停滞していくことにつながった。
ラトビアペースで試合が進む後半30分、ジーコ監督は中村に代えて坪井を、松井に代えて三都主を投入する。ロングボールで混乱するDFを3バックに、こぼれを拾えない中盤を一人増やして5MFに、という意図だったとジーコ監督は説明している。
ジーコ:中盤でボールを取られる場面が見られて形成が悪かったので(中盤を)1枚増やした。センターバックについても、かなり負担が大きくなっていたので、これも1枚増やそうというのが目的だった。
この意図自体は、間違っていないと思うが、実践はそれに伴わなかった。3バックにしたことでさらにDFは下がって待ってしまい、間延びは助長された。三都主はドリブルを何度か見せたが、中盤での運動量を増やすことにはならず、疲弊した稲本と中田浩二をボランチにおいても、それはこぼれだまの支配には結びつかなかった。むしろ、さらにパス回しがぎこちなくなるなど、弊害の方が目立った選手交代だった。
ただ、これはあくまでも強化試合であるから、このような終盤逃げ切りのテストをしておくことは悪くないだろう。それが、4バックから3バックへの変更、サイドに三都主を入れる、ということでは難しい、とわかっただけでも収穫だ。オールスターとのバッテイングもあり、今野や福西など、逃げ切りに向いた人材がいなかったのもある。ここに今野を中田浩二あたりに代えて入れていたら、効果は劇的だったはずだ。今後は彼らをうまく使っていけばいいのだろう。
■繰り返される「つなぎのミスからの失点」
2点目の失点シーンは、中田浩二と坪井の意思疎通ミス。前半から再三狙われていたDFラインやボランチ間でのゆるい横パスを掻っ攫われたもの。狙われているのはわかっていたのだから、本人も含めまわりも何とか考えないといけないところだ。その時間には外に出ていた中村選手は
中村:今日は親善試合だから無理にでもつなごうとしていた。本番ならセフティに蹴っておこうとしていたはず。そういう積極的なミスはしょうがない。浩二がボールを持っている時に誰も反応しなかったのが問題だ。
と語っている。その通りだと思う。
ジーコジャパンでは、先日のホンジュラス戦で中田ヒデ選手が、さかのぼって2003コンフェデでは宮本選手が、同じようなミスから得点を献上している。この試合でも、19分や31分など、同様のミスから決定機を敵に与えている。もちろんどちらも、まず本人のミスが責められてしかるべきだが、同時に中村選手の言う「ボールを持っている時に誰も反応しなかったのが問題だ」という点も、そのいずれにも存在していた。
ジーコ監督は基本的にはロングボールを歓迎しない。DFラインからボランチ、そしてトップ下へと丁寧にショートパスをつないでいくことを要求している。またその際に、いつ周りが動いてボールをもらうかを、特に整備しないやり方を取る。そこも自由なのだ。そうなると、コンフェデやホンジュラス戦のように、周りが動いてパスコースを作ってあげるのを休むと、パスコースがなくなり、かっさらわれてしまう可能性が出てくる。
これが本番で出なくてよかったと思う。選手全員、どれほど疲れても、足が棒のようでも、ボールを引き出すことを考え続けなければいけない。そのために動き続けなくてはいけない。そのことが再び、みたびわかったはずだ。かつてはオートマティズムという名で要求されたそれを、今は「献身」という名で求められているのだ。ジーコ監督は就任直後のカンファレンスで記者に「コンセプトは?」と聞かれ、「献身」と答えていたではないか!
いつも、最も献身的にボールを引き出しに走っているのは柳沢とヒデである。それは90分の間、一瞬も休むことなく頭を働かせているからできるのだ。それを「アラート」という。ピッチの隅々まで意識を働かせ、一瞬たりとも休むことなく警戒し続ける。それによって、苦しい時にもパスを引き出し、攻守の切り替えを素早くし、危険を察知することができる。自由なサッカーといえども、「休むのも自由」ではないのだ。選手たちよ、アラートであれ!
■「テスト」なのだから
収穫と課題の程よく散見された、なかなかいい強化試合となったと思います。今ごろはキエフのホテルで、選手同士話し合いが盛んでしょう。それがウクライナ戦までにどう消化されるのか、楽しみにしたいと思います。
それではまた。
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