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August 07, 2005
この船の行き先は?
日本vs中国2-2
(韓国―北朝鮮が引き分けたため、優勝の可能性は消滅)
悔しいですね。
あまり例のないだろうスターティングメンバーの総とっかえをした後の試合で、中国相手に2点先行され、追いついて引き分け。連携もできていないサブ組は、前半はモチベーション高くいい試合内容を見せたように思われるも、後半次第に失速し、終盤はこちらのイライラを募らせる横パスに終始する・・・。
この試合は、監督の手腕に関しても、選手のプレーも、なんとも評価しづらいものとなってしまいましたね。その結果か、ネット上でも「この試合をどう見るか」でずいぶんと意見が割れてきているようです。
仕方がない結果(気ままに代表ブランク/バステンさん)
国内組のナイーブさ(気ままに代表ブランク/ブランクさん)
私の信頼する二人の論客が、このように異なった意見を持たれている。どこに注目するか、何を重視するかで、この試合の捉え方が変わってくるということでしょうね。
■中国戦と、今後の航路
私はこの試合を、二つのパースペクティブ(視点)で見てみたいと思う。
1)東アジア選手権を勝ち取るためのマネジメントとしてどうだったか。
2)ドイツW杯まで1年をきった日本代表の強化の過程として、どうだったか。
ということである。
■メンタル、フィジカルコンディション不良の北朝鮮戦
いうまでもなく、日本は緒戦の北朝鮮戦を落としている。つまり、あと2勝しないとほぼ優勝はない状況だった。若手に切り替えてきているとはいえ、中国は侮れない相手。地力では北朝鮮以上と見るのが妥当だろう。そういう相手に、今回の23人の中で、どのようなチームであたるのが、最も勝利の確率を高めただろうか。
北朝鮮戦は、ジーコの哲学にのっとって、これまでの日本代表ファミリーの中の、ヒエラルキーの高い順にピッチに送り出された。マンU戦の疲労が抜け切れていない小笠原や本山など、個々のコンディションやモチベーションよりも、信頼の度合いの高い選手たちを優先して起用する。それによって「すべて勝ちに行く」という哲学。W杯アジア1次予選初戦オマーン戦でも、発熱よりも試合勘よりも、ヒエラルキーを重視したジーコ監督であることを考えれば、ある意味「予想通り」だった。
しかし、彼らのプレーは(かつてのオマーン戦同様)予想を下回るものだった。北朝鮮にミスから先制を許すと、そこからどうにも攻め倦む。悪いときのジーコ・サッカー。パスは回っても、前に進まない。さらに巻を入れると、ロングクロス一辺倒になってしまう。この試合振り、特に運動量低く、ミスを繰り返す選手たちを見て、ジーコ監督は彼らのモチベーションを非常に問題視したのではないか。記者会見でも、そのように語っている。
■モチベーション・コントロール
サッカーの試合が選手たちのモチベーションにいかに左右されるものか、この試合を見てもまさにわかることだ。そのモチベーションをコントロールする能力が、サッカーの監督にとって非常に重要であることは、元フランスサッカー協会テクニカルディレクターにして、リバプール、リヨンの監督を歴任するジェラール・ウリエ氏もとくと語っている。
プレーヤーやチームのモチベーションのメカニズムの知識を持たずにこの仕事はつとまらない。ここで問題を「モチベーションの高いプレーヤーとそうでないプレーヤー」という形で提起するのは間違いである。内在的な基本的なモチベーションは、多数の影響力によって育まれるものであり、その中の鍵のいくつかはコーチが握っている。(中略)
したがってコーチは、発奮させる術、チーム全体を興奮状態にさせる術を知っておかなくてはならない。(『フランスサッカーのプロフェッショナル・コーチング』ジェラール・ウリエ)
確かに、プレッシャーのかかる最終予選を勝ち抜き、コンフェデ杯という大一番を戦ったあと、再びアジアレベルに戻る大会と言う難しさはあるが、結局ジーコ監督はこの初戦、レギュラー組のモチベーションを向上させることが、ついにできなかった。大会の初戦は非常に重要なものであるにもかかわらず、ジーコジャパンはいつも漫然と試合に入り、途中からアジャストしていくように見える。アジャストしきれないと、そのまま押し切られてしまう。先日のコンフェデも、今回も、それでつまづいてしまったのだ。
■「総とっかえ」の狙い
ここで、ジーコ監督には選択肢は二つあった。一つは、何らかの手段で北朝鮮戦メンバーのモチベーションを鼓舞し、試合中に見られたいくつかのポイントを修正すること。例えば、玉田や大黒の調子が下降気味なのは見て取れただろうから、他のFWにしておく。ボランチレベルからなかなかパスが前に出ないのを修正するために、何らかの意識付けをしておく、などである。
しかし、ジーコ監督はそれをせず、もう一つの方策を採った。それがなかなか前代未聞ではないかと思われる「総とっかえ」という荒療治だった。この意図については、J-KET BBSの方でDylanさんがなされた考察が秀逸だと思う。要約すると、
1)レギュラー組に休みを与える(特に精神的にリフレッシュを)。 2)控え組にチャンスを与えつつ、レギュラー組への信頼しているというベースを崩さない。 3)かつ、レギュラー組に無言のダメ出しをできる。 |
特に、2と3に妙味があり、例えば一人二人を入れ替えると、その選手を「切る」ように見えてしまう。ジーコ監督にそういうことをする気はない。しかし、「総とっかえ」すれば、レギュラー組全体に「いかにだめだったかってこと、自分で一番よくわかっているな?」という無言のメッセージを送れる、ということだ。これは、「中期的にどうチームを再活性化するか」という視点で見ると、なかなかよい策のように見える。
■東アジア選手権を勝ち取るためのマネジメント
しかし、では、「東アジア選手権を勝ち取るためのマネジメント」としてはどうだったのだろうか。言うまでもなく、厳しい戦術的な縛りのない、中澤に言わせれば「戦術的なベース」のないジーコジャパンの、それも急に組んだサブ組である。いきなり丸ごとピッチに放り出されれば、そこに連携も何もあったものではないだろう。そのチームが機能し、北朝鮮よりも地力では上の中国に勝てると考えられる理由は、どれだけあったのだろうか?選手たちは振り返る。
茂庭照幸(FC東京)
(ぶっつけ本番はDFの選手には難しいのでは?)個々で止められることは今日の3人ならできるし、結局最後は1対1なので。失点シーンはコミュニケーション不足というか、話す時間がない(苦笑)。
駒野友一(サンフレッチェ広島) 出た試合は全部同じなので、思い切りできたと思う。ただ、初めて一緒にやる選手もいたし、自分にパスミスもあった。
本山雅志(鹿島アントラーズ) 残念な結果だけど、特徴をつかめていない選手もいたし、そういう中でも一生懸命やった。どういう動きをしたら、仲間がどうなるのかも把握できた部分はある。もし次のチャンスがあれば、頑張っていきたい。
失点は、いうまでもなく連携ミスからのもの。日本の左サイドからのクロスを、茶野と坪井の間に入った選手がダイビングヘッド。2点目はセットプレー、放り込まれたボールに日本選手は誰も競りに行かず、フリーでヘッドさせてしまう。話し合いでチームを作るジーコジャパンにおいて、その時間もなくぶっつけで臨めば、こうなることは分かりきっていたのではないだろうか。
選手主体で、選手が固定されているから、新しく誰かが入るとまた一から作り上げなければならない。(『サッカー批評』発言要旨/中澤)
また、サブ組はおそらくいわゆる「入れ込みすぎ」により前半から飛ばし、途中からガス欠に陥ったようだった。そして、途中交代で投入された選手もその流れを変えるには至らなかった。ニッカンスポーツの試合データを見ると、後半15分までには日本は4本のシュートを放っているが、21分に玉田と大黒を投入してからは、なんと得点になった田中達の「一本しか」シュートを打てていないのだ!私は03コンフェデ後、03東アジア選手権後に、「流れを変えるための途中交代の選手が、レギュラー組と一回も組んだことがない」という問題点を指摘し、むしろ選手交代が流れを悪化させることさえある、それが両大会敗退の原因の一つだ、と書いた。今回はこれまでのサブが先発しているが、投入された「もとレギュラー」も、それと同じことになってしまったようだ。
「東アジア選手権を勝ち取るためのチーム・マネジメント」として中国戦の戦略は、果たして合理的なものだったのかどうか。かろうじてそこに合理を見出すなら、
「疲労の抜けないレギュラー組を出すよりも、サブ組を出した方がまだ勝ちに近い」
「サブ組を出すなら、何回かは紅白戦で組んでいるサブ組同士の連携にかける」
というあたりか。しかしこれが、これまで培ってきたレギュラー組の、連携や話し合いのベースを(特に守備において)上回る理由になるのだろうか。私は大きく疑問に思うのである。
■ドイツW杯まで1年をきった日本代表の強化の過程として
引き分けに終わった中国戦だが、北朝鮮vs韓国も引き分けたことにより、日本代表の優勝の可能性は消滅した。ここでジーコ監督は、次のvs韓国戦も、「中国戦のメンバーで行く」ことを決断したようだ。
これはこの大会を「新戦力の発掘大会」と位置づけたものと言うことになるだろう。私はその位置づけに必ずしも反対ではない。ドイツまで、アジア予選やコンフェデを戦ったメンバーだけで行く必要はないし、Jリーグには期待のできる新戦力もどんどん育ってきている。彼らをこれまでできたベースの上に取り入れていくことは、日本サッカーのこれからを考えても、もちろん重要なことだろう。実際、日本以外の3カ国も、この大会をそのように戦っている。
しかし気になるのは、この「総とっかえ」というやり方だと、「これまでのチームのベースとあわせてどのように機能するか」というチェック、あるいは「これまでのチームの<幹>たる選手たちとの連携の向上」にはならないということだ。
私は、「総とっかえ」の話を聞いた時にすぐに、そのように思ったのだが、ジーコ監督が旧レギュラーメンバーに「韓国戦に備えて準備をしておけ」といったと聞いて、「とりあえず一試合、選手の個人能力を見る」というところだろうと理解していた。従って、そこでよかった選手が出れば、これまでの中心だった選手たちと組み合わせて、連携を探るための「韓国戦バージョン」が出来上がるだろうと想像していたのだ。
ところがジーコ監督は、優勝の可能性がなくなったことを受けて、ほぼ中国戦のままのメンバーを投入するらしい(GKに土肥を入れる、腰痛の田中達を外す以外は)。ということはこの試合も中国戦同様、旧レギュラー組と新戦力の連携の向上や、ベースの上にプラスオンする、という役には立たない。選手一人一人の「個」の能力を見る試合ということにならざるを得ない。
私は、例えば「宮本が主導するDFラインの連携に、茂庭を組み込んで慣れさせる」とか、「福西と阿部の役割分担を実践で熟成させる」とか、そういうことを「ドイツへ向けた新戦力の登用の準備」としては行っておくべきだ、と考える。話し合いで作る連携が主であるジーコジャパンでは、そうやって組んで試合をした時間を作ることが、バックアップの準備や新鮮な個性の投入のためにも、非常に重要なことだろう。何でもかんでも新戦力を!というわけでは、むろんない(笑)。
ただ、それをこの大会で終了しておくべきだ、とは言わない。この大会では、連携もなしにピッチに選手を送り出し若手の「個」を見極める。その後、イラン戦や欧州遠征で合格者(!)と<幹>との融合を図る、というスパンで考えられているのなら、それでもよいと思う。ただ、アジアではトップレベルのこの2カ国との試合を2試合ともそれにあてるのは、いかにも贅沢である(笑)。Jリーグでの試合をもっとよく見ていれば、ある程度はわかることのはずだ、とも思うのだが。
■この不安定な航路
総じて、私はこの「総とっかえ、若手テスト路線」を否定はしない。そうすることには、予選通過後の日本代表の強化としては、一定のロジカルさがあると思うからだ(今後の利用法次第ではあるが)。気になるのは、「勝つということを考えると、どうしても固定した形から入っていくと思う。」(ジーコ監督)というカタチから、「大会途中途中でテスト路線に切り替えた」ということである。もちろん韓国戦は、「もう優勝がなくなった」ことがわかっている試合であり、テストに切り替えるのももっともだと言えるだろう。しかし、中国戦はそうではない。
たっぷり優勝の可能性が残っている中国戦で、若手に総とっかえする。それは、「優勝を狙う」「結果も内容もある大会に」という前言、目標設定をくつがえした、ということだろうか?それとも、総とっかえが、優勝への一番の策だと思ったのだろうか?
ジーコ監督は「旧レギュラー組の精神的疲労」を理由にあげるが、それは北朝鮮戦が終わってみないとわからなかったものなのだろうか?練習や宿舎での選手たちの様子を観察して、メンタルがどのような状態にあるかを見て取るのは、監督の仕事の大きな部分である。北朝鮮戦前にはそれはできなかったのだろうか。「やらせてみたら、ダメだったので、目標設定を変えた」ということなのだろうか。それでは、公式大会の戦い方としては、いかにも不安定ではないか。
ジーコ監督は、2回の東アジア選手権で、どちらも優勝を逃している。これは、もはや言ってもせん無いことではあるが、以前から指摘している「目標達成のための合理的なチーム・マネージメントが欠けている」ことが、大きな原因だと思う。ジーコ監督の「家族観マネジメント」には、よいところもあるが、マイナスも大きい。もちろん、ジーコ監督がこのままワールドカップまで指揮を取ることは、規定路線である。それは変わらないだろう。しかし、この東アジア選手権でもふたたび表面化した問題点が、代表の航路をどうにも不安定なものにしていることが、私はいささか不安なのである。
新戦力たちにはぜひぜひ韓国戦で奮起、躍動し勝利して欲しい。そして、それを取り入れたこの1年の航路が、最後には目的地にたどりつくことを、祈ってやまない。
それではまた。
データ(日本:中国)
ボール支配率 59 : 41
シュート数 前半 6(4) : 5(5)
後半 5(4) : 7(2)
全体 11(8) : 12(7)
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» 国内組のナイーブさ from きままに代表ブランク *(バステン、gaku)
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受信: Aug 7, 2005, 4:09:13 PM
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