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August 23, 2005
300日へのスタートライン
これでグループ1位で堂々のドイツワールドカップ出場です。両グループ通じても勝ち点15で首位、アジアカップに続けてアジアでのトップを維持できたのは、本当に良かったと思います。長い予選でしたが、選手、監督、関係者の皆さん、本当にお疲れさまでした。
試合は横浜へ見に行ったのですが(写真は横浜国際にあったなにやらモニュメント)、試合後なかなかビデオを見る時間が取れなくて、イラン戦からちょっと間が開いてしまいました。もうあまり試合の感想など書いても遅きに失しているのでしょうが、東アジア選手権からの流れも含めて、少し書いておきたいと思います。
■ドイツ戦からの宿題
この試合を横浜国際競技場で観戦していて、私の脳裏に去来したのは昨年のドイツ戦の事だった。同じスタジアムで開催された昨年末のその試合、選手たちは格上のドイツを迎え、意外にも前線からチェックに行くサッカーを展開しようとしていた。しかし、アジアに比べると格段に技術が高く、組織的にパスをつないでくる相手にプレスをかいくぐられ、0-3と敗戦した。その時の選手はこう語っている。
藤田俊哉
今日のような相手に対しては、高い位置からボールを奪うのが理想的だと思った。
小笠原満男
相手はボール回しが早いし、玉際も強い。前でボールを自分たちが取れたときは、そこからうまくいった場面もあった。(中略)もっとラインに押し上げてほしかった。
イラン戦では、試合が始まると同時に前線からガンガンチェックに行く、プレッシングを厳しくしていく選手たちを見て、「2005年はこの宿題を、1年かけて消化しようとやってきたようなものだな」と思えたのだ。アジアカップやアジア予選ではリスクを負わず、最終ラインも引き気味に位置し、セットプレーなどで勝ちあがってきた。しかし、選手たちはそれに満足してはいず、さらに上を目指したいと模索していた。その宿題の「国内組の」答えがこの試合でようやく出た、と私には思えた。
実は、今年最初のカザフスタン戦からその傾向はあった。そして欧州組が融合し話し合いの時間が取れると、予選でもそれがある程度カタチになり、コンフェデ杯ではポゼッションも高くよいサッカーを展開できた。ところが、キリンカップや東アジア選手権ではまた元に戻ってしまう・・・。それはこれまでのジーコジャパンの不安定さの、一つの症例のようなものだったと言えるだろう。
しかし、このイラン戦では、2トップと小笠原を尖兵として激しいプレスを仕掛けたのみならず、生で見ていてなかなか印象的なほど宮本もラインをコントロール、コンパクトフィールドを狙っていた。そしてそこで奪ったボールをシンプルに、素早く前方へ入れるダイレクトプレーによって、チャンスを多く作り出す。引き気味で守って、横パス、足元パスが多くなる「悪いときのジーコジャパン」のサッカーとは一線を画した、よい内容のサッカーがこの試合の、特に前半ではできていたと思う。宮本は言う。
宮本恒靖
最初からプレッシャーをかけようと飛ばしていったので、最後はへばってしまった。高い位置で(ボールを)奪うプレーはよくできたと思う。あと、シンプルなつなぎを意識した。(中略)今日のような出足の良さは次につなげていきたい。(中略)守備はコンパクトを続けられるようにしたい。
■300日のスタートライン
この試合の(特に)前半の内容のよさは、言うまでもなく例の「総とっかえ」の余波を受けて、これまでの国内組レギュラー陣が奮起した結果生まれたという部分がある。前線からのプレスは体力を使うもの、よほど気力が充実していないと暑い中で続けることは難しい。序盤から全選手が前へ前への意識を持って試合を運んでいったのは、この試合での選手の危機感、モチベーションの高さをうかがわせる。
以前からよく指摘されていた、「選手間の競争がモチベーションを高く保つために有効である」という一つのテーゼが、逆にここで証明された形になった。とことんまで選手目線であり、「テストのために選手起用をするというのは選手に失礼に当たる」とまで考えるジーコ監督が、このような競争原理を導入するとは、これまではなかなか考えられなかったものだ。北朝鮮戦の敗戦を受けた思い切った策がこのような効果を生み出したのは、これから300日間のチーム・マネージメントの入り口としては、良いことだったと思う。
私は個人的には、前身のダイナスティカップをオフト監督時代に獲ってから譲ったことのない、東アジア王者の座(オフト、加茂、岡田と3連覇)を、今回できれば奪回して欲しかった。そういう意味では、ジーコ監督の「東アジア選手権に優勝するための」チーム・マネジメントには問題なしとは思えない。しかし、逆に「東アジア選手権を、ドイツW杯への準備のために使う」という考えもあるだろう。準備のためにある意味捨ててしまう、ということだ。そのような意図があると考えると、この4試合はなかなか収穫の多いものとなったとも言えると思う。
したがってこの収穫―ここで間口を広げ、国内組レギュラーも安泰ではないのだ、と意識付けることができたこと―を生かすも殺すも、これからの300日間の準備しだいということになる。間口は広がったが、前回も見たように中心選手との連携はまだできていない。競争原理は導入されたが、それは上手く維持できるのか。そういったところをこれからしっかりとマネージメントして行って欲しいと切に願う。
■引いてこない相手とプレッシング、ダイレクトプレー
イランは韓国などと並んで、日本と対戦しても引いて守らない、アジアでは珍しい国だ。実際、スタジアムで見るとイランのDFは、奇妙なほど位置取りが高かった。特に前半はゾーンで待ち受けて、人よりもゾーンオリエンテッドな傾向があったくらいである。そういうDF戦術をとる場合、情報収集力、戦術理解、個人での判断力などにおいて高度なものが要求されるのだが、欧州クラブに所属するレザエイを欠くイランDFには、そういう選手は見当たらなかった。
ラインを高くしながら統制は取れていない、そういう相手には、プレッシングからのダイレクトプレーというサッカーが実に効く。スペースがあると生きるタイプの玉田も、持ち味を十分に発揮し、大黒とともに敵陣裏のスペースを蹂躙した。小笠原はもともと、隙があればいつでも裏を狙うというダイレクトプレーへの志向が強い。前に出ようと考えていたという(福西と話したとのこと)遠藤も、同じクラブの大黒との相性がよく、何本もパスを通していた。彼ら二人に主導され、前半の日本は多くのチャンスを築いた。
先取点は前半28分、小笠原から長いパスが左のスペースへ流れた玉田へ、玉田が1vs1に果敢に勝負してグラウンダーのクロスを中に入れると、ニアで大黒とGKが交錯してがつぶれ、そこを通り過ぎたボールに長い距離を走って詰めた加地が軽く流し込む、というもの。やはりこういうシンプルなダイレクトプレー(素早くゴールを目指すプレー)でできるチャンスは、選手をセミフリーにしやすく、決定力も上がりやすいものだ。前半の日本の動き、意気込み、イランDFの出来から考えれば、ロジカルなゴールではあったが、もっと取れてもおかしくない相手でもあったと思う。
■セントラルミッドフィールダーの資質:小笠原
プレスに関しては、すばやく、激しくチェックに行きガツガツと体を当てる小笠原が、主導した部分が大きいと言える。もちろん、それはトップ下の立場だからできることで、抜かれたら後が厳しくなるボランチの立場ではそれは難しい(と、普通の日本選手が思っても不思議ではない)。しかし、後ろのケアがしっかりできていることを確認できれば、プレミアなどのCMF(セントラルミッドフィールダー)は、非常にアグレッシブにガツガツと当たりに行っている。この辺は、ヒデが欧州でトップ下よりもCMFとして評価されるところであると思うし、小笠原にレッチェがCMFとしてオファーを出したのも、そういう能力を買われてのことだろう。
いわゆる日本の「10番」タイプは、世界的に見ても珍しい存在となりつつある。世界では、トップ下ならほとんどFWのような、チャンスを作りつつ点を取るタイプが必要とされ、日本の「10番」のような長短のパスでチャンスを生み出すタイプは、トップ下というよりもCMF、中盤の中央で君臨するようになってきている。後者は、下がり目の中盤でそれこそボランチ(ポルトガル語で「舵取り」の意味)として、「ゲームを作る」という役割をになうのだ。
激しくプレスに行き、そこから直接ゴールにつながるプレーや、ワイドな展開を狙っている小笠原は、「チーム全体のサッカーの内容をよくすることを第一に考える」という、「ヒデタイプ」のCMF的な存在だと思う。だから彼を従来の日本の「トップ下」的なイメージで見ると、評価が下がってしまうのだろう。ただ、ヒデに比べると「俺が!」という意識が薄いのか、「回りを生かす」ことを最重視してしまっているようだ。しかし、もし海外にいくなら、「俺が!」的な部分をもっと出さないと苦しいと思う。外国人は「助っ人」であり、「陰でいいタクトを振っていた」という程度のことでは、まったく満足してもらえないからだ。
■盛り返すイラン
前半の途中から、日本のプレスを避けてロングボールしか入れられなくなったイランだが、後半になると、中盤でパスをつなげるようになり始める。暑さの中で前半飛ばしすぎた日本にツケがやってきた。運動量もそうだが、プレスの時のカラダと頭のキレが、少しずつ悪くなり始める。言われるほど「動けなくなる」というよりは、動いてはいるのだが、一歩遅い、動いた後の反射がちょっと鈍い、という状態になって来る。
そうなると、若手主体とは言え技術はそもそもしっかりしたイランチーム。中盤でパスがつなげるようになり、さらにハーフタイムの指示か、早めにクロスを入れるようになって来た。そうなると、真ん中にダエイという、衰えたりといえども巨塔のそびえるイランの攻撃が、徐々に脅威となり始める。後半開始しばらくの間、アーリークロスを主体とした攻めに日本は苦しめられ、何本かシュートを浴びてしまう。
しかし、そうやってイランが前がかりになってきたところでこそ、日本も返す刀でチャンスを作る。奪ってすぐの遠藤からのすばやいサイドチェンジを受けた三都主は、フェイントを織り交ぜたあと遠目から強シュート!これをGKがはじいてCKを奪取。それをニアで大黒が合わせ、GKがファンブルしたボールがラインを割って得点が認められる、2点目!
日本ホームで2点リード。これでほぼ試合は決したかに思えたのだが、逆にそれがまた選手に一瞬の集中切れを生んだか。この直後、さらに体が重そうになった日本選手の前をパスを回していったイラン、左サイドからのアーリークロス(また!)がダエイにわたり、後ろからマークしていた中澤が手をかけて、PKを与えてしまう。それをダエイ自らが決め、1点差に詰め寄られる。
序盤から飛ばしたという問題はあるが、それにしても、やや流れを明け渡しすぎの嫌いはあった。試合全体でのポゼッション率は、日本51%・イラン49%。日本ホームだということを考えると、これは思ったよりも低い数字だといわなければならないだろう(アウェーでは日本58%)。この時間帯のもどかしさが、一部での試合全体の内容の低評価につながっているのかもしれない。ただ試合は90分トータルしてみるもの。私は前半のできは相当よかったと思っているし、後半の動きの落ち具合も、導入された競争原理の「働きすぎ」によるものだから、今後の修正は可能だろう。
■持ち越された宿題
この試合では、これまでにないほど前線が積極的にイランボールにプレスをかけていった。それは個人的には歓迎なのだが、同時に後半のガス欠を招いた面もある。そうなると、以前から解決されていない問題点も顔を出してしまった。中盤の守備が連動できておらず、また最終ラインの押上げもできないと、時としてDFラインの前、いわゆるバイタルエリアがぽっかりと空いてしまう、という宿痾である。
失点シーンは、ぽっかりと空いたわけではなく、人数はそろっていたのだが、選手がチェックに行くのが遅くなるという、「ホーム北朝鮮戦パターン」。そこをパスを回され、最後はクロスをあげられ、ペナルティエリア真ん中でダエイにボールをコントロールされてしまい、ファウルを取られたもの。PKの判定はやや厳しかったとも言えるが、それ以前にも中盤でパスを回され、浅い位置からクロスをあげられて、真ん中でダエイと1vs1を強いられるというシーンが何度も出ていた。それを試合中に是正できなかったのが悔やまれる。
また例えば前半41分の、あのダエイのポスト直撃!シュートも、サイドへ福西が引っ張られ、真ん中にぽっかりとスペースができ、そこで遠藤が孤立、その横を走りこんできたアラビがシュートし、そのこぼれダマにダエイが反応して足を振りぬいたもの。同様の状態は、スタジアムで見ると後半になって次第に多くなっている。
後半の失点後は、それまで果敢にラインから飛び出していた中澤が自重してしまい、さらに中盤にスペースができてしまった。それを見て取ったジーコ監督は、「ボール狩り職人」今野を投入する。投入直後、今野は右サイドへスピーディなプレスを見せるが、しかしやはり内側が連動しておらず、ふたたびバイタルエリアがぽっかりと空いてしまう。そこを突かれモバリにミドルシュートを浴びている。
(余談だが、「新戦力の層が厚くなった」ことを現段階で絶賛するのは、今はまだスポーツ新聞に任せておきたい(笑)。今野も、阿部も、このメンバーの中に入る経験は浅く、イラン戦で投入されたはいいがあまり連携は練れていなかった。2003コンフェデでも「レギュラーメンバーと組んだことがない」松井がジョーカー起用されたが、機能しなかったことを思い起こそう。新戦力と既存メンバーの融合、連携のすり合わせ、具体的には話し合いや試合経験は、これから詰めていかなくてはならないことなのである)。
下がっていくDFライン(注)と、話し合いによる部分が多く、連動しきれない中盤の守備。それらがあいまって、「DFライン前のぽっかり」という問題がかわらずに持ち越されている。コンフェデ杯ブラジル戦では、4バックが下がり過ぎずに我慢し、その前を3ボランチが埋める、という対応を試合中に発見した選手たちだが、これからはそのような策をしっかりと準備し、事前にトレーニングしておきたい。それもこの300日間に残された重要な宿題ということになるのであろう。
(注:この試合全体では、従来にないほど最終ラインが押し上げていたと思う。ただ、時折いつもの癖が、特に後半にはのぞいてしまっていた、ということだろう)
■いつもこころに
ジーコジャパンは、国内組だけでもドイツ戦で出された宿題に答えを出し、コンパクトなフィールドとアグレッシブなプレス、そこからの速いシンプルな攻めを、イラン相手にはくりだすことができるようになった。コンフェデ杯では海外組が融合して、強豪相手にも可能性を感じられるサッカーを見せてくれるようになった。これからの300日間では、この流れを継続して、コンフェデ杯の内容をしっかりと、何度も再現できるようにしていくことが重要だろう。
それに加えて、いつもチームを冷静に引っ張っているキャプテンの宮本は、今後の課題を
(ワールドカップ本番に向けて)今日のような出足の良さは次につなげていきたい。
あとはフィニッシュの精度。今日はミドルシュートを意識して打った。相手に脅威を与えると思う。
守備はコンパクトを続けられるようにしたい。
あとはもっとプレーの精度を上げていくしかない。
と指摘している。これからの代表の強化試合ではこういった課題(と、バイタルエリアの守備)にどんどんと選手自ら自主的に取り組み、答えを出していってほしい。これまでの3年間を振り返っても、向こう300日間はけして長くはないはずだ。またジーコ監督はさらに、この期間の課題を
ポイントは個人のフィジカル的な資質を上げていくか、ということに尽きると思う。
としている。これは、代表で集まってできることのほかに、クラブで、Jリーグで意識して個々が取り組んでいかなくてはならないことだ。それを今、話しておいたことは正しいと思う。3年間の集大成としてアジア予選が終わり、どうしてもふっと気が緩みかねないこの時期。東アジア選手権、北朝鮮戦で負けたことはちょうどよかった、と思おう。そこから競争意識を高められ、個々が本当にしっかりとやっていかないと、メンバーに残れないことがあらためて浮き彫りになった。いつもこころに昨年末のドイツ戦を。それを持って毎日のJリーグで自分たちを高めていこう。2006年は、もうすぐそこだ。
それではまた。
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