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June 21, 2005

日本代表に加わった「動き」〜ギリシャ戦

greekやりましたね!ギリシャ戦はジーコジャパン史上最高のゲームだったのではないでしょうか?見ていてとても楽しく、そして結果も上々でした。メキシコ戦と何がどう変わったのか、現地に行っている記者の方たちの報告が待ち遠しいですねえ(笑)。とりあえず、ピッチの上に現れた「よさの原因」を考えてみました。それは、二つの「動き」がジーコジャパンに加わったこと、それが深化したことによるものだ、と思えました。


■ムービング2トップが引き出すダイレクトプレー

ギリシャ戦においては、中盤での詰めの早さ、速さが、メキシコ戦(特に後半)に比べると大幅に上昇していた。そしてそこから、ヒデと小笠原という、守備力が高く、守→攻の切り替えの意識の高い2人が前線にパスを送り、柳沢と玉田という動き回りパスを引き出す「ムービング2トップ」が、緩慢に試合に臨んできたギリシャを切り裂いた。前半に得たチャンスの多くが、カウンターやショート・カウンターであった。このような「動き」のある攻撃、これは、以前のジーコ・ジャパンではあまり見られなかったものだ、と思った方も多いのではないか。

この流れは、アウェーバーレーン戦から継続しているものだと思う。アジアカップ当時から「もっと高めで奪いたい」と選手たちは再三繰り返していたものだが、それがヒデや小笠原の主導、フォーメーションの変更、メキシコ戦の「体感」などによって実現したのだ。そして、そこからのダイレクトプレーを、スペースへ走る2トップが確実にチャンスへつなげて行く。こうして、ポゼッションとダイレクトプレーのバランスのとれた、多彩な攻撃が実現した。これはW杯に向かう日本にとって、本当に自信になったに違いない。日本代表に加わった一つ目の「動き」、それが強プレスから発進する、スピードのあるダイレクトプレーであると言えるだろう。


■ヒデのベストポジションは4−4−2のボランチではないか?

中田ヒデがリードする守から攻への切り替え」において、私はバーレーン戦の中田ボランチを賞賛したのだが、この試合ではさらにそのよいところが多く見えた。ヒデは、メキシコ戦に比べると(チームメートの声を聞いたのか?)自重して、攻めあがったりプレスに行ったりするのをやや控えているようだった。それが特に、この試合の好循環に結びついていたと思う。

ヒデの前方の玉田、柳沢、小笠原、中村といった選手たちも、メキシコ戦の教訓からか、これまでにないほどアグレッシブにギリシャ選手に襲い掛かった。そして、その後ろにやや自重したヒデと福西が控え、交互に(←ここが重要!)前線のプレスからこぼれてくるギリシャ選手たちにセカンドプレスをかけた。このバランス、あのメキシコ戦からたった一試合でこれができるとは、たいしたものだ。

そして、ヒデのプレーである。先述した守→攻撃の切り替えはもちろん、遅攻を余儀なくされても、ヒデから高速のグラウンダーのパスが、すっとフリーになった小笠原や中村、動き出しのいい柳沢、裏を狙っている玉田へと、ビシっと通る。その、フリーになった選手を見逃さないピッチを見渡す目、出すべきポイントを的確に見て取る戦術眼、それらがチーム全体の攻撃に、リズムを与えていた

思えば、ヒデのパスはこれまでも、「ここへ走れ!」というような教育的パスだった。それは、彼の考える「よいサッカー」を具現化するには「正しい」ものではあったが、同時にチームメートとの息が合わないと「厳しすぎる」パスともなりうるものであった。それが、この試合では下がり目のボランチからタクトを振る役割を多くしたことで(もちろん長い合宿で意見交換ができたことも大きいだろう)、これまでにないほど機能していたと見える。

日本の中では傑出した経験値と、戦術眼、強い意志を持つ中田ヒデ選手。彼をどこに置くか、どう扱うか、は、これまでも、日本代表の懸案の一つであった。しかし、ついにそのベストポジションが見つかったように思う。あのローマのカペッロ監督(当時)が、「トッティの代役」ではなく、そこより下がり目の中盤の中央で、トッティを、ローマというビッグクラブ全体をコントロールさせようとした、CMF(セントラルミッドフィールダー)としてのヒデ。今、その時に幻想として描かれたそのプレーが、現実のものとなろうとしているのかもしれない。


■最前線のゲームメーカー、柳沢

yanagiこの試合において、もう一つ特筆すべきはやはり柳沢のプレーだろう。バーレーン戦の時にも書いたが、彼は動き出しがよく、しかも動く前からも、動きながらも、周りの状況をよく見て取ってフリーの味方に確実にボールを落とし、さらにそこからのパスを受けるべくフリーランができる選手である。例えば35分のプレー。ヒデからの速いパスを受けた柳沢は弧を描くようにドリブルしながら、小笠原にボールを預け、すぐに動いてまたリターンをもらい、玉田とも同様にワンツー、ペナルティエリアに一瞬のセミフリーを作って侵入、ビッグチャンスを演出した(そこで滑ってこけてしまったのだが)。

ポゼッションサッカーでも、動き出しがなくパスが足元、足元だけでつながっていると、敵も読みやすく、結局は単発の攻めとなって、なかなか攻撃が機能しない。それを打破するため有効なことの一つが、この柳沢のプレーのように、動いて、動きながらパスをもらい、またリターンをもらうためにスペースへ動く、というような、最前線での人の「出入り」を増やすプレーなのだ。これを高いレベルでできるのが、柳沢や森島、藤田といった選手たちだ。

私は、個人的には日本のサッカーはこのような「動き」「走り」のある選手たちを、どう生かすかにかかっている、と思っている。これまでも、日本のサッカーがよい内容を見せた時、そこにはこのような「動き」のある選手がいた。森島や藤田はこれを中盤で行うわけだが、柳沢はそれを最前線で行う。そして、抜群のスペースメーク能力で、味方を楽にし、また自らもスペースに侵入してパスを受け、攻撃を活性化する。このような「動きのあるポゼッションサッカー」ができていたのが、ギリシャ戦の内容の素晴らしさを生んでいたのだと言えるだろう。

これが、日本代表に加わった二つ目の「動き」である。足元、足元につなぐばかりのポゼッションサッカーから、二つの「動き」によって脱皮した日本代表。来年へ向けて自信を持っていい試合内容だったと思う。


■メンタルゲーム

以上のような日本代表の「よさ」が、欧州王者ギリシャを切り裂き、彼らの持ち味をまったく出させず、日本の「完勝」につながった。本当に嬉しい、ジーコジャパン史上最高のゲームだった、と思う。そして、それを支えたのが、メキシコ戦で敗北したことの「悔しさ」、ここで負ければグループリーグ勝ちぬけがなくなるという「追い詰められ」、そして曲がりなりにも欧州王者という「格上」と対戦するのだという、「チャレンジャー精神」だったとも、つくづく思うのである。

思えば、メキシコ戦、日本は漫然と試合に入ってしまったのではないか。何とはなしに「力試しだ」とでもいうような、真剣勝負にかける意気込み(なかったわけではないと思うが)を、どの程度もっていいか図りかねたまま、キックオフのホイッスルを聞いてしまったのではないかと思う。そして、先制したはいいが、どんどんペースを奪われ、精神的に受身になってしまった。もちろんメキシコ戦には、さまざまな敗因が存在するのだが、そのうちの一つがメンタル面での準備不足にあったことは間違いないだろう。

それが、ギリシャ戦ではまったく逆転した。このチームは、追い詰められてからが強い、「家族」だから(笑)。冗談ではなく、それがギリシャ戦での選手たちの出足に影響していたことは確かだと思う。また、前回も見たように日本は昔から、格上と戦う時はメンタルが充実する傾向にある。しかし、メキシコやトルコのような中堅国、すなわち「サッカー・ブランド・ネイション」では「ない」国と対戦する時は、選手の間の意識がバラバラになりやすい。メキシコ戦で一敗地にまみれ、ふたたび選手たちの間に復活したチャレンジャー精神。それが日本の選手たちの「ひたむきさ」を生んでいた

逆に、ギリシャはEURO優勝時のあの「ひたむきさ」を失っていた。それが、格上ばかりといってもいいEUROにおける、ギリシャの最大の武器だったのにもかかわらずである。ギリシャは、メキシコ戦における日本以上に漫然と向かってきた。日本はギリシャのその隙を突き、メキシコ戦とまったく逆、精神的に受身に追い込み、ポゼッションとダイレクトプレーで追い詰め、勝利した。まさに「完勝」であるといってもいいと思う。そして、その背景には、日本がチャレンジャー精神を取り戻したことがあるのだと、つくづく思うのである。そして、それを失って欲しくないと。


次は、あのブラジル。しかも、敵も「勝たないとトーナメント抜け」ができない状況。本気で、予断なく向かってきてくれるでしょう。望むところですよね!まさに「チャレンジャー精神」をしっかり保ったまま、真っ向から向かっていくには最適の相手です。中盤のプレスもメキシコほどきつくはないでしょうし、日本らしいサッカーとガップリ噛み合うと予想します。日本の力を存分に出して、世界に日本のサッカーを見せつけて欲しいですね。

それではまた。

07:08 PM [ジーコジャパン] | 固定リンク

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