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June 04, 2005
やった!リーチ!
いやー、勝ちましたね。勝ち点3を上乗せし、これで次の北朝鮮戦に引き分け以上でドイツW杯出場が決まることとなります。ただ勝っただけではなく、試合内容もこれまでの予選の中では一番よかったのではないでしょうか?もちろんまだ緩んではいけませんが、本当によかったですね。選手、監督、関係者、サポの皆さん、お疲れ様でした。
■中田ヒデがリードする攻守の切り替え
私は、ペルー戦、UAE戦の苦戦の原因として、攻めが遅いことによる敵の守備組織のセットアップをあげたが、中田ヒデのボランチ起用、および小笠原の2シャドーの一員としての起用により、その点が大きく改善されていたのが目を引いた。
中田ヒデはもともと、「よい内容のサッカーができてこそ、勝つ確率が上がる」と考え、自分の考える「よいサッカー」の実現を強力に推進するタイプの選手。そのうちの一つが、「攻守の切り替えを速くする」「その際の判断、動き出しを早くする」というものだった。フランスW杯のころ、川口が「僕がボールをキャッチしてスローしようとすると、いつもヒデが誰よりも先に動き出している」と言っていたのをみてもわかるであろう。
バーレーン戦でも、中田ヒデが誰より先に動き出し、フリーになり、そこへ奪った選手からボールが入り、彼がドリブルや、パススピードの速い長めの縦パスでボールを前線に運び、敵が組織を整えないうちにチャンスを作り出す、という光景が何度も見られた。そして、1トップの柳沢と、前線に配置された小笠原が、それに効果的に絡んでいた。小笠原も、もともとダイレクトプレー志向、奪ったら早く攻めることを考えている選手であると思う。
よかったのが、その小笠原が1トップの下に入ったことだ。彼は2トップ下だと、自分がゲームをコントロールしようとするあまり、下がりすぎてしまったり、持ちすぎてしまったりすることが多いように見える。1トップの下、2シャドー(?)に入ったことで、「FWとの距離を開けてはいけない」と意識、それが効果的に働いていた。ゴールシーンも、彼が非常にFWの近くにいたこと、中村や柳沢がおとりの動きをしたことなど、この布陣のよいところが出ていた。
■ヤナギの1トップ
厳密には、シャドーというよりは2OMFという方がより適切だろうが、バーレーン戦では、1トップ2シャドーの布陣がなかなか機能していた。特に動き出し、状況判断のよい柳沢がトップに入ったこと、またそれを近くでフォローし、時に追い越していく小笠原と中村の動き、そして後ろから中田ヒデが攻守の切り替えをつかさどることで、スピードのある攻撃ができるようになっていた。
五輪代表時代から、柳沢のプレーは、体を張って自分でボールをキープするいわゆる「ポストプレー」というものとは少し違っていた。中盤のボールホルダーの状況をよく見て、いいタイミングで敵DFから離れるように動き出し、セミフリーでボールを受け、一瞬のためを作れるプレーなのだ。これがいわゆる「ヤナギダシ」というものである(笑)。
この「動き出しのよさ」は最近、大黒の登場でよくマスコミをにぎわせるようになったが、私などは大黒を「シュートの意識の高い柳沢」みたいだなと(笑)、最近は思っていたものである(昔はもっとドリブラーだった)。また例えば、オシム監督がジェフに連れてきたFWハースも、すすっと動いてセミフリーでボールを持ち、2列目から駆け上がってくるジェフの選手たちに落とすことが抜群に上手い、ジェフのサッカーに実によくマッチしたFWだと思う。
柳沢は、この動き出しによってボールを引き出すのみならず、その際に非常によく周囲が「見えている」という、ハースとも共通する特徴を持っている。情報収集力が抜群なのだ。それによって、キープするべきか、ダイレクトではたくべきか、誰に落とすべきか、どのタイミングで落とすべきか、などの判断が的確になる。いわば「最前線のゲームメイカー」のような仕事ができる選手なのだ。
今日も柳沢は、自身の絶好のシュートチャンスにもパスを選択してしまっておそらく日本中にため息を蔓延させたと思うのだが、それもこの「周囲がよく見えすぎる」という特質の故である。その特質があるからバーレーン戦では1トップがうまく機能したのだが、しかしそれにしても、もうちょっとシュートの意識を高めてもらいたいと思えてならない・・・というのは、もう何年くらい言っているだろうか(笑)。大黒はもちろん、ハースだって、君よりはもう少し選択肢の中のシュートのプライオリティが高いぞ。柳沢よ、ハースになれ!
■バーレーンはそんなに組織的?
試合序盤は、両チームとも慎重に入り、手の内の探りあいのようにスタートした。アウェーということもあり、日本がそうなるのは当然だが、バーレーンもやはり日本を警戒、下がり目のディフェンスを引き、そこからのカウンターを狙おうという意図を見せていた。フィールドはやや間延びし、バーレーンも特にプレスをかけてくるということもなかった。
記者会見で質問が出、シドカ監督が的確に答えていたように、バーレーンの敗因はやはり欠場選手の問題、そして選手個々がバラバラにプレーしてしまったことだ。人口が六十数万しかおらず、サッカー選手の人数も少ないバーレーン。ごく少数の有力選手の能力はアジアトップレベルに伍するところまで行くが、プロリーグもなく、代わりの選手はまったくいない現状、エースのA・フバイルの怪我による欠場、主力DFフセインの出場停止、サルミーンの負傷などで開いた穴は、埋めることができなかったようだ。
また、昨年のバーレーンの躍進はユリチッチ監督の作り上げたチームのものだったが、彼は3月に辞任し、現シドカ監督が就任した。時間がそれほどなく指導が徹底できなかったこと、選手たちが自国の躍進やスター扱いにより自信を持ちすぎたこともあり、日本戦では、選手たちがそれぞれに個人プレーに走っていた。それも彼らの大きな敗因の一つだろう。1vs1で日本に挑んできてくれれば、個の能力に勝る日本にとっては願ってもない試合展開となるわけである。後半の足が止まってからをのぞけば、安心して見ていられた方も多いのではないだろうか。
■球際のぶつかり合いで負けない「気持ち」
この予選での唯一の敗戦であるイラン戦後、中田ヒデは「敗因はシステム変更ではなく、1対1で負けていたこと」と語り、物議をかもしたが、このアウェーでのバーレーン戦で、その意味を自らはっきりと大きく描き出すようなプレーを見せた。それが球際での激しさ、粘り、絶対に後に引かないこと、などなどである。それはチーム全体に伝播し、実にアグレッシブに敵にぶつかっていく日本代表が、そこに出現した。これだ、これが欲しかったのだ。
もともと中田ヒデも、小笠原も、OMFに起用してさえボランチよりも激しく当たり、ボール奪取率が高かったりする選手である。彼ら2人が中盤で並び立つこと、そしてその姿勢がチーム引っ張っていくことで、久しぶりに気持ちを前面に出して、「前から」敵にぶつかっていく日本代表を見ることができた。セーフティーを意識しすぎ、引いて「見て」しまうボールホルダー・ウォッチャーが消えた。これは非常に歓迎したい。
他のアジアとの戦いでも、イラン戦でも、どことはなしに「引いて守ればいい」と思っていたり、迷いながらプレーしていたりするように見えた日本代表だが、ここに来てついに吹っ切れたように思う。これを生むために必要だったのなら、キリンカップのあの2試合の、ちょっと情けない試合内容も、むしろよかったと言えるかもしれない(笑)。
■次は?
2位を争うライバル、バーレーンとの直接対決は、やや代償を要した。中田ヒデ、中村、三都主の3人が出場停止。小野も怪我でいないなか、これまでの中心である中村、バーレーン戦を引っ張った中田ヒデ、ジーコジャパンの左サイドで圧倒的経験値を持つ三都主の欠場はちょっと痛い。やややり方の変更を余儀なくされるかもしれない。
継続して1トップでいくのなら、このような形だろうか?中盤でつないでくる、運動量のある北朝鮮には、バーレーン戦で見せたような1トップで対抗するのは「あり」だと今のところは思える。いずれにしろ、杉山茂樹氏じゃあるまいし、大事なのはフォーメーションではない。もっとも大事なもの、この日見せた全選手の「気持ち」があれば、北朝鮮から勝ち点1以上を上げることは十分に可能だろう。移動も厳しいが、あと少し、選手たちには頑張って欲しい。
それではまた。
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