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May 31, 2005
顔を上げて、遠くを見て
「UAE戦は、ボール保持率が高かったのだから、苦戦ではない。負けたのはカウンターだけ、運が悪かった」というような意見がある。
しかし、ボール保持率が高いことは、現代のサッカーでは必ずしも優位に試合を進めていることとはならない。セットプレーを除けばダイレクトプレーからの得点が大半を占める現在では、よくいう「ボールを持たされている状態」というものがある。むしろレベルの高い試合でも「ボールを持っているほうがピンチ」「ボール保持の押し付け合い」のような戦いが見られることがあるくらいなのだ。
決定力がもともとない日本。それが遅攻を強いられ、敵に帰陣されると、さらにシュートが難しくなる。この悪循環、まさに敵の思う壺にはまってしまっていることになりはしないか。
ただ、言うまでもないがポゼッションサッカーそのものが悪いわけではない。その中でもよい攻撃のできる、点の取れる方策を準備していく必要があるということだ。
遅攻の中でも点を取るためには、「攻撃参加人数を増やす」という手段が一つある。ジーコジャパンでアウトサイドの外側をCB(坪井や田中)が上がっていくのもその一つの例だし、UAE戦では小野と福西が「最低でもどちらか一人は必ず攻撃参加しよう」と話し合っていたという。確かにボランチ(特に終盤の小野)のあがりがチャンスを生んでいたところはあり、これは継続して行ってよいところだと思う。
ただ、攻撃に人数をかけるということは、敵も守備に人数をかけやすくなるということでもあり、Jリーグなどでもよく見られるが、「前線に人が渋滞してしまって、かえって点が入らない」というような状態も起こる。時としてシュートが味方に当たってしまうような、そんな事態は避けた方がよい。またむろん、こちらが多く上がっていけば、敵にカウンターのチャンスを与えることにもなる。この辺は勝ち点との計算で、じっくりとゲームプランを練っておかなくてはならないところだろう。
もう一つ、ポゼッションしつつ得点に結びつけるやり方が、「ボールを速く、大きく動かす」というものである。
ペルー戦、加地の怪我を受けて三浦淳宏が右サイドで先発をした。彼のプレーで非常に印象に残ったのが、右でキープしてから左の三都主へ出した大きなサイドチェンジだ。日本代表では、こういうプレーを久しぶりに見た気がした。いうまでもなく、キープすれば敵の守備はそちらに集中する。そこから速く大きなサイドチェンジを入れると、逆サイドの選手にはスペースと時間が潤沢に与えられることとなる。
「チョップ、チョップ、アザーサイド」「ショート、ショート、ロング」というのは、これを常に心がけるべき、ということを示した基本中の基本なのだが、今の日本代表は、これがあまり行われていないように感じる。「チョップ、チョップ、チョップ、チョップ・・・・」なにか日本代表の試合は、そんなリズムで行われてしまっているような気がしないか。パスを大事にする、ショートパスをつなぐのはいいのだが、そればかりでは、敵陣は崩れない。ボールを大きく動かして、スペースを突いていくことを、もっと重視して欲しいと思う。
ここで興味深いデータがある。
90分平均のサイドチェンジ回数
18.2回 山本ジャパン通算 |
昨年5月のニッカンに載っていたデータ(6/3追記:当時は4ー4ー2が多かった)なので、その後多少の変化はあるだろうが、ジーコジャパンがアジアカップ、1次予選オマーン戦と、リスクを避けるサッカーに傾いていったことを考えると、サイドチェンジ回数の大きな変化はなかったのではないかと思う。
一目瞭然、見ればわかるとおり、山本ジャパンとジーコジャパンのサイドチェンジ回数は、ほぼ同数なのだ。これはどういうことを意味しているのだろうか。
ガゼッタさんがかつて山本ジャパンを評した通り、山本ジャパンの特徴の一つは「サイドにサイドの専門職をおく」というところであった(後期山本ジャパンが森崎をおいたのは、そこから脱していたが)。それは三都主、加地といった選手を、アウトサイド、(6/3追記:ないしサイドバックとして)配するジーコジャパンでも同様だ。それと対照的なのが、名波、中村、小野という、本来はインサイドのMFをサイドに配置したトルシェジャパンである。3-5-2のアウトサイドを「ミッドフィールダー」と捉える考え方だ。
これはもちろん、どちらが上と言うことではない。サイドの本職をおく場合は、やはりドリブルでサイドを突いていく、崩していく、という狙いがあるだろう。実際ジーコジャパンでも、そういうシーンは目にする。逆に、例えばキープ力やロングパスの正確さのある、もともとはインサイドの選手を起用する考えもある。その場合の狙いがまさに、ボールを速く、大きく動かして、逆サイドのスペースをついていく、という「サイドチェンジの多いサッカー」なのだ。
三浦淳は、もともとサイドの選手ではある(最近はヴィッセルでトップ下もやっているようだが)。と同時に、FKの名手でもあり、正確な両足のキックを持っている。いわゆる「香車」とはやや違ったタイプでもある。彼が入ったことで、ペルー戦では「サイドからサイドへの速く、大きなサイドチェンジ」が見られた(言うまでもないが、これはどちらの選手が優れているということではない。タイプの違いを論じているに過ぎない)。
ジーコジャパンの「ボールポゼッション・サッカー」は、「ゆっくりとした確実なキープから、隙を見つけてスピードアップして得点する」ということを狙いとしている。そこからなかなか得点できてはいないのだが、その狙いがピッチで見られないわけではない。ただ、「縦へのスピードアップ」だけだと、組織が出来上がっている敵の場合、「狭いところへ入っていく」ことになるのは否めない。いったんショートパスをつないでキープしたら、ルックアップして遠くを見て、逆サイドへ、スペースのあるところへ展開する攻撃もおりまぜて欲しいと思うのだ。
UAE戦では、ボランチの小野や福西から大きなサイドチェンジ気味のパスが何度か出ていた(冒頭の写真)。これはよいことだと思うのだが、問題はそれを受けたサイドの選手がスピードアップせずにまたキープしてしまい、敵につめられ、バックパスなどの選択肢を取らざるを得なくなってしまったところだ。サイド攻撃と言っても、じっくりと時間をかけた後、敵が中で準備して待っているところにセンタリングを上げても、なかなか得点になるものではない。
キープしたら、そこから速く、大きくボールを動かしてスペースを突こう。 サイドチェンジをスペースで受けて、そこから敵の体制が整わないうちにクロスを。 |
こういうプレーがもっと出てくると、ポゼッションサッカーからも得点につながりやすくなると思うのだが。
「決定力不足」はけして単にFWのシュート精度だけの問題ではない。守から攻への早い切り替え、動き出し、そしていったんポゼッションしたら時に大きく、速くボールを動かし、スペースを突いていくこと。チーム全体がこれらを意識すれば、改善されていくものでもある。ぜひバーレーンでは、チーム全体で連動して得点をあげ、勝ち点3を狙って欲しい。
それではまた。
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