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May 28, 2005

今日は谷間の日(UAE戦)

UAE久しぶりの国立競技場での代表戦、代表を見続けてきたサポには、「聖地」でもあるスタジアムで、日本代表は敗れてしまいました。とても、残念です。しかし、キリンカップというタイトルこそかかっているものの、あくまでもこれは、最終予選前のシミュレーション。ここで落ち込まず、立て直して、バーレーンに向かって欲しいです。以下、簡単に感想を。


■ジーコ流「遅いサッカー」の結実

ペルー戦でもUAE戦でも、次のような意見があった。

「敵があれだけ引いているのだから、点がなかなかはいらないのは仕方がない」

いわゆる「攻撃のカタチはできている、後は決定力不足」という考えだろう。私はこれは「」であると思う。

久しぶりの国立競技場で見てきたが、日本で何より特徴的だったのが、「守→攻の切り替えの遅さ」だった。現代の、DFの能力が上がり、戦術も整備されてきたサッカーでは、いったん守りを組織されてしまうとなかなか点は入らない。そこで最も重要視されるのが、「ボールを奪った瞬間が最大のチャンスである」、という考え方、「守→攻の切り替え」なのだ。その瞬間なら、敵はまだ守備組織を整備しきれていない。そこでこちらの選手がいち早く動き出してその組織の隙間を突き、そこへ奪った選手から鋭いパスを送れば、それが最大の得点チャンスになるのである。

もちろん一発のパスでなくともよい。ボールを奪った瞬間に複数の選手が動き出し、そこへパスを送って攻撃を組み立てていく。ダイレクトプレー、カウンター、ショートカウンター、さまざまな言い方はあるが、それらを含めた「守→攻の切り替え」の早さ、それが現代サッカーで点を取るためにもっとも重要なことの一つなのだ。

思い出して欲しい。最近の日本代表でそのようなシーンはあっただろうか?

UAE戦でも、「奪った瞬間」に動き出しているのはUAE選手のほうだった。日本の選手たちは、本当にその瞬間に動き出さないのだ。味方が奪ったことに対して、おそろしく「アラート」でない。あの動き出しのいい大黒でさえ、最初のうち2、3回「奪った瞬間にDFの裏を狙う動き出し」を見せながら、奪った側の選手がすぐにゴールに結びつくパスを出さないのを見てとると、それを止めてしまったほどである。あの天才パッサー、小野がボールを奪ってさえ、日本の選手は誰一人動き出さないのだ!

先の文言はこのように言い換えられるべきだろう。

「敵にあれだけ引く時間を与えてしまっているのだから、点が入らないのも無理はない」

uae2実際、後半途中までのUAEは、けしてジーコが会見で言うような「べた引きからカウンターを狙う」チームではなく、比較的高い位置でゾーンディフェンスを引いていた(クリックすると大きな写真になります)。むしろ「セーフティーに、8人で守れ」と言われた宮本たちの守備位置のほうが低かったくらいである。それなのに、日本の攻撃が決定的になる頃には、ペナルティエリア内には敵DFが多く帰陣し、シュートに体を投げ出していた。なぜなのか?

それが「守→攻の切り替え」の遅さ、あるいは、攻撃する時の、攻撃自体の遅さによるものなのだ。敵にわざわざ帰陣する時間を与えていることの結果なのだ。

UAE戦のようなポゼッションサッカーが悪いと言っているのではない。奪った瞬間にも敵に隙がないときはある。その場合はしっかりつないで攻めていくことも選択肢だろう。しかし、そればかりでは厳しい。特に中盤の選手たちは、奪ったらすぐに前線の隙を探すことに、ある程度プライオリティを置いて欲しいと思うのだ。そうすれば、勝つために出て来ざるを得ないバーレーンである、点を取ることを「決定力の問題」だけにしないで済むだろう。ただ、中盤で奪うための組織ができているかどうかという問題は残るが・・・。


■失点の原因はカウンターなのか?

失点シーンを「一発のカウンターでやられた」と表現する人がいる。ペルー戦については、まさにそうだったと言えると思う。しかし、UAE戦に関して「一発の」と言うのなら、それもまた間違いであると思う。

失点シーンの流れは、日本の中盤でのパスがミスになって、UAEの8ムバラクに入ったところから始まった(この辺は、発汗さんの分析に詳しい)。日本のDFラインはさささーっと下がってしまう。中盤にぽっかりと大穴があく。ムバラクに対しては加地と福西がルーズマーク、どちらかが当たりに行くということもなく、ムバラクは余裕を持ってボールを運ぶことができた。

ムバラクから前線のフリーの11ハリルにクサビのパス、これに対してあわてて田中と坪井がプレッシャーをかけに行く。後ろから田中に寄せられながら、ハリルはムバラクにパスを戻す。この時には8アロ・アリがフリーランニングを開始している。フリーで(一応横を福西が併走しているが、見てるだけ)、戻しのパスを受けたムバラクはアロ・アリにスルーパス。一瞬ハリルにプレッシャーをかけに行っていた坪井は戻りながらアロ・アリにつこうとするが、競争に負け、失点。

ボールを奪ってからきれいに4本のパスがつながって、ポストとフリーランの選手を活用しての得点。これを「一発のカウンターでやられた」というのは、やはり違うのではないか。「攻めていたのだから、カウンターをされて数的不利になっても仕方がない」というシーンでは、まったく、まったくなかったのだ。問題はこの時の、ムバラクを完全にフリーにしていた中盤の選手たち、ぽっかりと大穴を空けた組織、1トップのハリルのポストに誰が対応するかがあいまいだった点、などなどにあるというべきだろう。

中でも、もっともこの日の守備を象徴していたと思われるのが、「ムバラクを完全にフリーにしていた中盤の選手たち」だと思う。このシーン以外にも、敵中盤のボールホルダーに対して誰もアタックに行かず、「見ながら」下がり続け、結果フリーでプレーさせ、そこを起点にしたパスでDFが攻撃側に対して数的同数になったりする危機がたびたびあったのだ。

特に後半(の失点シーンよりも前)は、UAE選手がおそらくハーフタイムにそう指示をされたのだろう。中盤の選手がフリーでボールを持つたびに前線の選手がフリーランを開始して、そこからシンプルに攻撃をくりだしていた。この、恐ろしいほど敵の中盤の基点をフリーにしてしまう癖は、どうしてついたのだろうか。

私はそれは前日、ジーコ監督が「ボールより後ろに8人いて守るように」という指示をした結果ではないか、と思う。

そもそも、DF時にボールホルダーにアタックに行くのには、「勇気」が必要なのだ。「もしここで自分が抜かれたら」という意識が、どうしてもでてくるものだからだ。しかし、それでは守備は下がり続け、最後は自陣ゴールに入ってしまうから(笑)、その前に誰かがアタックに行かなくてはならない。その時必要になるのは、「自分が抜かれても後ろがいるから大丈夫だ」という「組織への信頼感」というものだろう。それがあるから、個人としてはある種リスクチャレンジである、中盤でのボールホルダーへのアタックを仕掛けていくことができるのだと思う。

しかし、ジーコジャパンの守備時の指示は、「かならず一人余れ」「セーフティーに」というものだった。しかも、それを具現化するための守備練習、戦術練習は非常に少なく、選手同士が「慣れ」で連携を作っていくしかない状況。それが「敵がボールを持ったらさーっと下がってしまうDFライン」を生み、組織への不信につながり、「後ろが気になるからアタックに行かないボランチ」を生んでいるのだ。その結果が、中盤に大穴がぽっかりと空くことにつながっているのは以前にも指摘したとおり

そしてさらに、今回の「ボールより後ろに8人いて守るように」という指示。これによって中盤の選手たちも、「セーフティーに」「下がって対応しなくては」という意識を植え付けられた。多くのシーンで、ボランチも、アウトサイドも、ボールホルダーに対しては(こちらが複数で囲んでいても)ルーズマークしかしない、ある意味「ボールホルダー・ウォッチャー」になってしまっているのだ。奪いに行けばかわされる可能性がある。奪いに行かなければ、かわされない。「かわされないこと=セーフティー」と、組織のできていない中では、選手たちが思ってしまっても無理はない。

失点シーンはまさにその、ルーズマーク・ボールホルダー・ウォッチャーが連続して起こったことによるものだ。そこをUAEの選手たちが見て取り、するどく狙ったことによるものだ。けして「カウンター一発でやられてしまった」ものなどではないのだ。日本の選手たちも、そこは肝に銘じておいたほうがいいだろう。そして、バーレーン戦までには、もう一度「誰がアタックに行くか」の意思統一を、選手たちの間で行っておくことだ。組織が変わる可能性はなく、それしか向上できるところはないのだから。


■それでもバーレーンには勝つ

大丈夫。宮本が言うように、日本には、「ホーム・ディスアドバンテージ」がある。ホームでは観客の声援に押されて攻め急いでしまう。それがむしろ、焦りを生み、悪い結果につながってしまうのだそうだ。バーレーン戦はアウェーである。「ホーム・ディスアドバンテージ」はなくなる。敵が攻めてきてくれたほうが、日本には都合がよい。大丈夫、勝てるだろう。

もう一つ、ジーコジャパンは「機能共同体」ではなく、「親族共同体」である。このような、何もかかっていない親善試合ではその力は発揮されにくい。「家族は危機に陥った時こそ、その最大の力を発揮する」ものではないか。むしろ、この2連敗という危機からこそ、ジーコジャパンは雄雄しく復活するのだろう。

問題は、この2連敗でチーム内の自信が崩れ、自分たちのやり方、やってきたことに対して疑問、不信がわきあがったりした場合である。その時、この集団は家族でいられるか。選手同士、問題点について「共通認識を持って」話し合いができなくなったらどうするか。「あそこはこうするべきだろう」「いやそれは違うだろう」・・・。ネガティブな話し合いは、バラバラになる危険をはらむ。その時の交通整理は、これまではおそらく長男たる藤田の役割だった。今、彼は代表には選ばれていないのだが・・・。

いずれにしろ、ジーコジャパンの再生は、今度こそ選手たち、特に長男たちに托された。ジーコは一つだけ正しいことを言った。ことここに至れば、もう選手たちを応援するしかない。選手全員が副官たる自覚を持ち、時間のすべてを費やして、話し合い続けて欲しい。がんばってくれ、ジーコジャパン!

それではまた。

03:08 PM [ジーコジャパン] | 固定リンク

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