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September 15, 2004

3バックか、4バックか

西部謙司さんが、「知的な4バック--最終ラインの並び方について」と題したコラムを書かれています。これがまたポンとひざを叩きたくなるようなものでしたので、引用しつつ考察してみたいと思います。

3バックか4バックか。システム論で俎上に上がることの多い話題である。個人的な好みでいえば4バックだ。ヨーロッパや南米でも4バックが多数を占める。ただ、もちろん3バックより4バックのほうが戦術的に優れているということではない。こういう人の置きかたは、手持ちの選手の質と対戦相手の兼ね合いで決まってくるもので、いちがいにどちらがいいというほどのものでもない。

「個人的好み」と「選手の質による」という点をまず抑えてくださっているのがうれしいですね。戦術に「どっちかが絶対に正しい」ということはないです。どれにも一長一短があるし、うまく機能させることができれば、どれでもいい。選手の質との相談(どっちが機能させやすいか)と、最後は個人的好みでしょうね。

ジャケが「より知的」と言った4バックは、いわゆるフラット4のラインディフェンスを指している。4人のフラットラインが「知的」なのは、この守り方が一定の法則性に基づいているからだ。~中略~言ってみれば、頭のいい守り方である。

というわけで、そろそろ日本でもこれにチャレンジしてもいいような気がするんですけどね。

相手の2トップに対抗するために考案されたという3バックは、現在では2ストッパー+リベロという形はほとんど見られずフラット3に近い形になっている。

トルシェ方式かどうかはともかく(笑)、エコパで生で見たアルゼンチンもフラットにしている時間が長いゾーンで守る3バックでした。生で見てきた友人に言わせると、オランダが3バックの時もそうらしいですね。

が、もともと数合わせ的な発想のシステムなので、3バックといっても実体は5バックに近い。よく3バックか4バックかの論議でいわれる、ピッチの横幅を守るには3人では広すぎるという見解には実はあまり説得力がない。横幅60メートルを均等に守ろうと思ったら、4人でも足りないからだ。

横幅60メートルを均等に守ろうと思ったら、4人でも足りないからだ。

ああ、先に言われてしまった(笑)。これはいずれ考察しないといけないと狙っていたのですけど、西部さんのおっしゃるとおりだと思います。世界で見ても、たいていのチームで、4人の間隔は狭いです。横幅68メートルを均等に守ってはいない。4人はだいたいペナルティエリアの幅ぐらいを守ろうとする間隔を取りますね。

閑話:先日のエコパでのアルゼンチン戦、私は現地で観戦したのですが、日本が後半から4バックにしたのを受けて、アルゼンチンは3トップの左右がピッチいっぱいに広がったポジションを取りました。日本の4バックも広がらざるを得ず、中央が薄くなって苦労していましたね。4バック破りとしての一つの策なのでしょう。なかなか興味深いと思いました。:閑話休題

むしろ、実質5バックである3バックのほうが横幅をカバーするには有利である。4バックが手頃なのはピッチの横幅をカバーできるからではなく、ペナルティーエリアの幅を守るのにちょうどいいからだ。サイドから攻められれば、4バックは横へスライドして守るので、いつでもペナルティーエリア全般をまかなえるわけではないが、そのへんの事情は3(5)バックでも差はない。

4バックはペナルティエリアぐらいの幅で左右にスライド、全体もボールサイドによってプレスをかける、ということですね。いわゆる「左右にもコンパクト」という状態です。当然逆サイドにはスペースができますが、サイドチェンジをされれば再びスライドして守ります。

ちなみに(これも余談ですが)、トルシェのフラット3では「最後は3人でゴールエリアの幅を守る」という考えがあったのだと思います。特にサイドからのクロスに対して、3人が均等に並んで跳ね返す守り方を繰り返し練習していましたね。

フラット4は状況に応じて動き方が決まっている。マニュアル化されているといってもいい。慣れてないと覚えるのは大変だが、慣れてしまえば、いちいちマークする相手を探したり受け渡しに神経を使ったりしないですむのでかえって楽。イングランド、ポルトガル、フランス、スペインなど、このやり方に慣れているところでは長所も欠点もわかっていて守り方が様式化されており、もう疑問すら持っていないという感じだ。日本の場合は3バックのほうが多い。

この、「フラット4の状況に応じた守り方」を理解し、体にしみこませている選手が少ないのが、現在日本で3バックが多い理由でしょう。そういう「フラット4の状況に応じた守り方」を理解している選手をこれからは増やしたいですね。

ゾーンの4バックという流れがないわけでもないはずなのだが、現在4バックを採用しているチームには、フラット4らしい法則性があまりない。最近では、布啓一郎監督の率いるUー17日本代表が最も4バックらしいと思えたぐらいだ。

(4バックの時の)新潟と大分もそれに近いと思いますが、もっと完成度を上げたチームが、もっと増えて欲しいですよね。ただ、「だからJリーグのチームも4バックにするべきだ」とは私は思いません。Jリーグのチームはそれぞれ、今現在いる選手によって、結果を出すための最善のやり方を監督が選べばいいのであって、それが3バックならばそれで正しいのだと思っています。

A代表のほうは、ジーコ監督がフラットラインを嫌っている。「1対4の数的優位でも1本のパスで失点する」フラット4は、リオ育ちのジーコから見れば"馬鹿"に見えるのかもしれないが、今どきずるずる下がるディフェンスラインも少々"垢抜けない"。

先に書かれているような国では、「1対4の数的優位でも1本のパスで失点する」リスクをどう解決しているのか?日本でこれから研究しなくてはいけないのはその辺でしょうね。もちろん、トルシェの手法やキエーボのビデオなど、研究は次第に進んでいるのでしょうけど。

まあ、何しろ慣れていないのでは致し方ない。特に教わらなくてもフラットで守れるよ、という若い世代が出てくるまでは、"知的"より"頑張り"で守りきってもらうしかないのかも。

あるいは、誰かさん(笑)のようにその「知的」な守り方を徹底トレーニングするかですね。宮本をはじめとして、それに応えられる人材もだいぶ出てきていると思うのですけど。

以上のように、「特に教わらなくてもフラットで守れるよ、という若い世代」を生み出すために、若年層の代表はフラット4を採用するべきでは?と私は思います。もちろん、それをきちんと指導できる指導者に率いられる必要がありますけどね。現状では大人の年代でも、「4バックをできる人材がいないから3バック」ということになってしまい、選択肢が少ない。出来上がった選手で構成しなくてはならないJリーグやフル代表はともかく、育成段階では、今の日本選手に足りないところを伸ばしていく方策を探るべきではないでしょうか。

育成段階の代表に、フラット4を深く理解した欧州の指導者を招き、「組織として」だけじゃなく、「個人戦術」も徹底的に教え込んでもらう。バックミラー(首を振って、敵や味方の状況を一瞬で見て取る技術)や、ラインの中でのマークの仕方、カバーの仕方も含めて。中盤の選手も、DFがフラットであることを前提にした守り方を身につけていかなくてはならない。そういう指導がもっともっと必要でしょうね。指導者は、ベルガーさんに推薦してもらったらどうでしょうか(笑)。

最近考えていたことと符合したよいコラムを読んだので、思わず反応してしまいました(笑)。それではまた。

10:30 PM [サッカー] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (2) |

September 09, 2004

コルカタでの勝利

やりましたね!これでアジア1次予選突破が大きく近づきました。選手、監督、関係者の皆さんお疲れさまでした。

4-0は大きいですね。

オマーン戦引き分け以上でオッケーになりました。これは有利です。オマーンはシンガポールに2-0で、アウェーとは言え、アジアカップで見せたような破壊力は見せることができていないようですしね。

日本は、アジアカップでの勝利の原動力となった、個人能力、セットプレー、カバーを重視した守備、そして落ち着き、といったあたりが、この試合でも有効に機能しましたね(まあ、カバーを重視した守備が必要になったのは数えるほどでしたが)。個人能力ではやはりインドを圧倒していましたし、引いた敵から得点するにはやはりセットプレーが重要になってきます。

ただ、日本の前半は、得点できないことでちょっと落ち着きを失っていたでしょうか?次第にミスも増えていったような印象もあります。10万人のアウェーの雰囲気や、スタジアムそのほかの環境、粘土質のピッチの滑りやすさなどもあるでしょうが、ひとつの大きな原因は「ゲームプランのたて違い」ではないか、と私は思います。

前半の日本は、DFラインからロングボールをサイドへ振る、前方のFWの頭めがけて送る、サイドからはアーリークロスで、などという「省エネ、パワープレイ」を、「フィジカルで勝てる敵を相手にしての、効率よく得点するための手段」として、選択していたように思いました。

それが逆効果で、(前半は)すばらしく集中して体を張ったインドのディフェンスにてこずった、というところででしょう。小野の枠に行っているダイレクトのミドルシュートがインドDFに阻まれること。インドDFのボールから目を放さない集中力はすごかったですね(前半は)。イギリス人のスティーブン・コンスタンチン監督は、環境のよくないなかで、なかなか頑張った仕事をしていましたようです(余談ですが、このインタビューかなり面白いです)。

後半は、たぶん「もっとつないで行け」という指示が出たのではないでしょうか?前半とはかなり変わって、ショートパスの連鎖が出てきました。こうなると、本山の良さも生きていきますね。チームとしても、ゴール近くでのファウルを得たり(→小野のFK)、ペナルティエリア前にポイントを作って崩してフリーを作って得点(福西)などというシーンが増えてきたのは、このようにシフトチェンジしたことによるものではないかと思います。

ところで、「前回は直前合流でよくなかった。今回は反省し日本合宿から欧州組を呼んだ」という記事ですが、これはちょっと微妙ですね(笑)。というのは、いくら反省してもできる時とできない時があるからです。

ちょっと復習しておきましょう。今回のアジア予選はFIFAの定める「国際Aマッチデー」にとびとびに行われます。実は「国際Aマッチデー」には2種類あって、

オマーン戦やシンガポール戦は、Fixed dates for Friendly matches(親善試合用Aマッチデー)
今回のインド戦は、Fixed dates for Official Competition matches(公式試合用Aマッチデー)

なんですね。前者は試合の2日前からしか選手の拘束ができず、そのために海外組みの直前合流という事態になったわけです。今回は、公式試合用ですから、9月4日、5日もリーグ戦が休みで、そのために早く合流することができたのです。「反省したから早く呼んだ」というよりは、このレギュレーションの違いで早く「呼べた」という方が正しいでしょう。

次回のオマーン戦も、Fixed dates for Official Competition matchesです。今回と同じように準備を整えて迎えることができます。ゆるんではいけないけれども、心配しすぎることなく、試合を迎えられますね。

来年の最終予選では、また直前合流しかできない「親善試合用Aマッチデー」に試合をしなければならなくなる可能性が高い。そういう時のために、チーム・マネージメントが重要になってくるわけです。今年のはじめに問題になったのはその部分で、時間の取れている今はあまり表面化しないのですが、来年へ向けては向上しておいて欲しいところです。

いずれにしても、今日の結果はよかったですね。ところで、今日行われたU-17の方は、残念な結果に終わったようですが、最後にいい試合をして見せてくれたとのことなので、深夜の録画放送で彼らの戦いぶりを見届けたいと思います。

それではまた。

(アジアカップ総括や、五輪総括は、遅くなっておりますがまだ続けますので・笑)

追記:台風18号はすさまじい風でしたね。被害にあわれた方には心からお見舞い申し上げます。

01:11 AM [ジーコジャパン・1次予選] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (3) |

September 06, 2004

「悪癖」の研究

ロシアでの占拠事件、犠牲になった方、またそのご親族、関係者の方々には深く哀悼の意を表します。人間のネガティブな感情の連鎖は、本当に悲しみしか生みませんね。何とかしてそれを断ち切れないものか。つくづく考えさせられてしまいます。

また、関西では大きな地震があったとのこと。みなさまお怪我などなかったでしょうか。

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さて、前回の考察は「ひとことで言えば『この2年は何だったの?』ってことですよね」というメールをいただいた。素晴らしい。どうも私の書くものは長くなっていけないなあ。

それはさておき、考察をさらに続けたい。

「五輪が終わったら山本監督をジーコジャパンの守備コーチに」という意見が、アテネ五輪前にけっこうあったのをご記憶だろうか?私は、「山本監督はけして守備の指導に長けているわけではない」と考えており、それは難しいだろうと推測していた(そのほかのさまざまな要因--たとえばジーコ監督側の--もあるだろうとも考えていたが)。

山本ニッポンの特徴のひとつに、「DFラインの(つなぎの)ミスからの失点」というものがある。今回のパラグアイ戦の最初の失点がもちろんそうであるし、最終予選レバノン戦でも、釜山アジア大会決勝でもミスから失点している。もちろん、これだけでは例が少なすぎるかもしれないし、DFがミスしてしまえば失点を招くのは当然でもある。しかしこれらの失点シーン、あるいはそれ以外の山本ニッポンの被決定機を通じて、私にはそこにある傾向があるように思えるのだ。

これはまだ精密には未検証のひとつの仮説であり、その点を割り引いて読んでいただきたいのだが、

これらの(つなぎの)ミスからの失点は、「低い位置からのダイレクトプレー」という山本ニッポンのコンセプト、およびそれを実践する際の指導のつたなさ、からくるものなのではないだろうか。

ということである。

山本ニッポンの「組織」でも詳述したが、「DFラインで奪って、やや高めに位置するリベロに預け、そこから前線へのダイレクトプレーを志向する」というものが、山本監督のコンセプトのひとつの中核であると私は考える。これはラインをアグレッシブに上下することのリスクを嫌いつつ、現代サッカーの統計から来る「15秒」というものを実現しようと考えたことからくるのだろう。

このコンセプト自体は、しっかりと指導されれば機能するだろうと思う。戦術にも、コンセプトにも、それ自体には優劣はない。重要なのは機能させられるかどうかなのだ。

しかし、これを機能させるには、DFが「奪う前/瞬間、すぐ預ける先を見ている」必要があり、また預けられる側は「奪う時に(前に/同時に)フリーになるためのポジショニング、動き」ができていなくてはならない。それができる人材の登用、それを実践させる指導ができていなければならない。

すべてを狂わせたパラグアイ戦の最初の失点シーンを思い起こそう。ヘッドで折り返されたボールが那須の前で弾む。クリアーなら余裕を持ってできる状態であったと私には見えた。彼は周囲を見回し、ボールの預けどころを探していた。しかし、それが見つからないまま蹴るタイミングを失い、足場も悪いため滑らないように留意して・・・その間にヒメネスに詰められ、シュートを許してしまった。

これと同様のシーンを、山本ニッポンでは何度も見ているように思う。クリアーなら簡単にできるようなところで、一瞬の守から攻への切り替えのために、DFが難しいボールをつなごうとする。奪われ、危機に陥る。あるいは、すでにマイボールになっている時にも、DFラインやボランチの間でのパス回しに、周りの選手が動かなく、パスがノッキング、ミスになって奪われ、失点してしまう。

もちろん、何でもやみくもに「クリヤー!セーフティーファースト!」の時代から脱却し、「メダル候補のチーム」を相手にする時でもつないでいくサッカーを志向するのは、悪いことではない。しかし、それならば奪うときの「預けどころ」の選手のポジショニング、動きなどをしっかりと指導できていなければならない。それができていなかったことが、このチームの「なんでもないボールを処理ミスする」悪癖となって現れたのではないだろうか。

前回に「これで最終」といいましたが、長くなりそうので、やっぱり(笑)いったんここで切ります。

(続く)

03:00 AM [アテネ五輪代表] | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0) |