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April 08, 2004

岩佐徹さんに捧ぐ

・・・いや、「捧ぐ」ってほど大上段に構える気もないのだけれど(笑)。

スポーツ実況界の大御所、岩佐徹さんが、過日のダバディさんの意見に対して反論をされています。岩佐さんは私とCAMPERのシューズが好きというところで共通しており、たぶんいい人だと思われます(笑)。

さて、このダバディさんの意見は、主にナショナリズム関連の文脈で大きな波紋をBLOG界に広げたわけですが(その話は今日はしない)、岩佐さんはそれとは違う切り口でダバディさんの意見に切り込んでいます。ダバディさんは、日本のサッカーが進歩するためにはまず環境を変えなくては、と説き、

環境というと、まずいつも訴えるメディアの成熟、メディアが本当にサッカー文化を抱くように、切り口、アプローチを変えないといけない。居酒屋っぽい戦術論や監督論、ナショナリズムや「大衆のあおり」、バラエティっぽいサッカー番組のつくりをやめよう。本当のサッカーを語ろう! 短期間で視聴率が落ちても、「全大衆」を相手にしなくても、長期間で考えろ! 子供のサッカー情熱、文化、その火をつけろ!

と叫んでいます。これに対し、岩佐さんは

気持ちは分かるけど、君が求める、スポーツ新聞や民放テレビの改良、向上、進歩など、100年かかっても実現しないと思いますよ。

と、非常に冷静(?)な、ある意味冷水をぶっ掛ける(笑)ようなことをおっしゃっています。

私は、どちらかと言えばダバディさんの意見のほうに賛同する立場です。今よりもサッカー報道にもっともっと向上して欲しいと思っています。「戦術論やナショナリズム」が「本当のサッカーではない」とするダバディさんの意見の一部には私は疑問を持っているのですが、それ以外の「大衆を煽る」ことや、バラエティっぽい番組のつくりを止めよう、というのはまことに正論であり、まさにそっちの方向に進んで欲しいと思っています。

ところで岩佐さんの文章をよく読んでみると、問題意識はダバディさんや私が思っていることと変わらないことがわかります。

日本のマスメディアは確かに未成熟だと思います。ジャーナリズムとビジネスをハカリにかけるとき、どうしても、ビジネスに傾くし、売るためだったら、「なんでもあり」です。

これはもう、そういう現場に長いこと身を置いてきた人の実感で、ダバディさんや私が問題だと思っていることを指摘しているのだと言えるでしょう。

岩佐さんとダバディさんの最大の違いは、「それを正すことが可能かどうか」という点です。ダバディさんは「日本のサッカー文化のために、革命を。」と、それを変える事が可能であるという立場に立ち、岩佐さんは「100年かかっても実現しない」と言っているわけです。

かつて私は、「サッカー批評」の半田編集長の深いものを求めている読者って、全体の1パーセントもいないわけじゃないですか。という発言に対し、「おーい服屋さーん」というコラムを書いて反論したことがありました。

単純にいえば、現在提供されているようなカタチでの「深いもの」=私やダバディさんの求めるようなもの、を求める人は、全体の1%しかないかもしれないけれども、そうした深いものを「読みやすく、魅力的に」していったものは、この2002W杯後の日本では、10%、20%という受容層があるだろう、ということです。

上記は活字媒体での話ですが、同じことが電波媒体でも言えると私は思っています。ただし、それは簡単には実現しないでしょう。現在のTVの視聴率競争は、現場が血反吐を吐くほど(悲)厳しいと聞きます。そのような中で、ダバディさんが言うように、「短期間で視聴率が落ちても、『全大衆』を相手にしなくても」という番組作りをするのは至難の業です。民放では、ほぼ、無理といってもいい。同じことが毎日の部数で即座に出来、不出来が判断されてしまうスポーツ新聞にもいえます。岩佐さんのおっしゃっているのは、こちらの側面ですね。

しかし、私はこうした状況は変える事ができると思っています。というのは、そうした番組作り、紙面づくりを支えているものは「その方が売れる」という「思い込み」に過ぎないからです。岩佐さんも「彼らは『それこそが大衆の望んでいるもの』と勝手に決め込んでいるのだから。」とおっしゃっていますね。まさにそのとおりなのです。

根拠のない「思い込み」は、実証によって覆されえます。彼らが思い込んでいる手法よりも、もっと他のやり方が、やってみれば、あるいはやり続けていけば、多くの支持を得られる。そういう成功例を多く積み上げていくことが出来れば、民放の現場、スポーツ紙の現場にいる人たち、そのトップの「思い込み」も変えていくことが出来る。

幸いにして、私たちはCSやWebという新時代(もはやそれほど新しくもないですが・笑)のツールを持っています。CSでは世界の放送技術で作られたサッカー中継を見ることができ、好きな人にしっかり伝わればいい、という実況を聞くことが出来ます。Webでは、多種多様な発信元から、さまざまな深さ、切り口のニュース、考察を読むことが出来ます。それらは今はまだそれほど多くない好事家のものであるでしょうけれども、そこで現場のトップに注目させるだけの結果を出すことが出来れば、話は変わってきます。

今はまだ出来ない。出来ていない。現場が現場で変わろうとしてもなかなか簡単なことではない。それならば必要なことは、一つは外の実績、「おい、あれ、いいらしいぞ、俺たちもやろうや」といえるようなものを積み上げていく。もう一つは、外圧、つまり私たちの「声」です。私たちは本当はこういうのが見たいんだよ、こういうのが読みたいんだよ。それをどんどん彼らに届けていく。それが少数ではないことを知らしめていく。

その二つが地道に進んでいけば、いえいえ岩佐さん、100年はかからないですよ。たぶん私の目の黒いうちに(笑)、それは実現すると思いますよ。そのためにも、ダバディさんが声を上げてくれたことはうれしいことです。そして私たちもこれから、声を上げ続けていこうと思います。

100年かかるかどうか、見ていてください。

それではまた。

02:49 AM [メディア] | 固定リンク

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ネットは新聞を殺すのかblogというブログを読んでいると、いろいろと考えるところが出てきますねぇ。ジャーナリズム全般についてもそうなんですが、ひじょーに狭いとこ... 続きを読む

受信: Aug 24, 2004 6:18:59 PM

コメント

やはり我々の「灯台」
http://d.hatena.ne.jp/orion1014/20040408#p1

投稿者: そーた (Apr 8, 2004 7:12:06 AM)

はじめまして。気持ちはわかりますが、学生っぽい意見ですね(違っていたらごめんなさい)
貴君のような若手がちょっとでも状況を変えてくれるといいですね。
現実は難しいですよ。『トップの「思い込み」』を歓迎する視聴者だっているわけで、そっちの「成功例」のほうが積み上げられていることの方が多いです。
そして現場の人間は大衆蔑視していく。
岩佐氏のあのコラム、むしろ貴君よりの大人の意見だと私は思いますよ。

投稿者: ・・・涙 (Apr 8, 2004 8:33:20 AM)

専門的に(深く)なっていくと、内容が枝分かれしていく。
仮に、深いものを10%の人が望んでも、10に枝分かれしたものの一つを好むものは、1%になってしまうという現実がある。
 気持ちは分かるが、無い物ねだりではなく、自ら、可能性のある媒体を通してそういうことをやっていくべきではというのがコラムの主旨ではと思いました。

投稿者: RYU (Apr 8, 2004 10:22:30 AM)

J-KETの方にも少し書きましたが、「私たちは本当はこういうのが
見たいんだよ、こういうのが読みたいんだよ。」を積み重ねていった結果、
日本のアニメーションは一部のオタク達に媚びた作品しか生き残れない、
閉じたマーケット内の商品に成り下がったんですよ。宮崎駿や押井守
みたいなロートルが頑張ってるから体面が保たれているだけです。

ケットさんの言い分は、80年代前半のアニメ論客みたい。

投稿者: masuda (Apr 8, 2004 11:50:08 AM)

何かエポックメーキング的な出来事が起きれば、マスメディアを取り巻く状況も変わるかもしれませんね。
私が言うのは、W杯のような外部的な因子ではなくて、情報の発信者側からの出来事。
つまり「こう言う視点から作られた番組でも売れるんだよ~」という事を証明するような情報発信があれば。
たとえばドキュメンタリー映画のような。
Bowling for Columbineをご存知ですか?
99年に起きた米国のコロンバイン高校銃撃事件を題材に、アメリカ銃社会に切り込むドキュメンタリー映画です。
ほとんどすべてのシーンがマイケルムーア監督による突撃インタビューという、おおよそ低予算で作れたであろうこの作品はその年のオスカーで大絶賛を受けました。
アメリカの銃社会に一石を投じたと言えるでしょう。
「6月の勝利…」はそれはそれで素晴らしいドキュメンタリーでしたが、それはとはまた別に日本社会から見たW杯という視点のドキュメンタリーがあっても面白かったでしょう。
あ、イカン、論点がずれてきました。(笑)
つまりメディア媒体の多様化によって、ダバディ氏の言う成熟したメディアの出現の可能性は、高くなったと思います。
問題は、やはりコンテンツでしょう。
成熟したサッカーを語り、なおかつ視聴者を強く引き付けるエンターテイメント性を含んだメディアコンテンツが現れれば…。
僕は期待しています。

投稿者: えど (Apr 8, 2004 12:46:07 PM)

ケット・シーさん、BLOG開設おめでとうございます。
益々のご活躍を期待しています。

それと、うちのサイトをリンクしていただきありがとうございます。
こちらからもリンクしたいと思いますのでよろしくお願いします。

投稿者: GAITI (Apr 8, 2004 9:02:57 PM)

岩佐さんがダバディに対してああいう書き方をしたのは、それは彼なりの矜持だと思いますよ。

実際に岩佐さんはフジテレビのスポーツアナウンサーとして、煽動的な実況に反対し続けてきました。スポーツの本当の楽しさを伝えるために、アナウンサーは技術を磨いて黒子に徹しろということを、何十年も前から現場でずっと言い続けてきた人です。その為にフジを干されてWOWOWに出向されたわけですから。

実績や立場から言ったら、フジやWOWOWの社長クラスになっていてもおかしくない人なのに、今でも現場主義で、しかも、その現場がどんどんひどく悪くなっていくのを目の当たりにしている。彼のスポーツ・メディアに対する危機感は、そりゃ大きなものがあると思います。

ダバディの気持ちもよくわかるけど、私は岩佐さんの発言が正しいと思います。実際にスポーツの中継や報道はどんどん悪くなっていると感じるし、もっと現実をみて戦略的にならなくちゃという。で、結論としては、私も外圧としての声を届けるというのに賛成です。私たちがみんな絶叫型の煽動中継を望んでいると思われたらたまりませんからね。

投稿者: ef (Apr 9, 2004 3:53:32 AM)

JRさんが書いたと思うけど、この問題にはメディアリテラシーの成熟が必要なのではないかと。
やはり、マスメディアの質が低いのは、我々の質が低いからに他ならない。そこから脱却するには、我々が、商業的な存在としてのマスメディアからの情報を鵜呑みにせずに、自分なりの社会的文脈で読み替えていくことが大切になる。それはとりもなおさず、マスメディアが発する情報の質の吟味であって、そのフィードバックがマスメディアを啓発する。以前ならば、一つの情報に対して、他の人間がどのように考えているか、を知る場は本当に狭いものだった。しかし、今やネットがあり、議論の場には事欠かない。様々な人々の社会的な文脈によるアウトプットを知ることが出きる。生涯学習としてのメディアリテラシーの場は、今や広大なのだ。如何にTV人が「便所の落書き」と曰おうとも、確実に消費者は成長していく。それに敏感な人とそうでない人では、マスメディアに対するパースペクティヴに違いがあって当然だろうと思う。岩佐さんには消費者も成長するんだよってところを見せなければいけないね。

投稿者: ミケロット (Apr 10, 2004 11:13:09 PM)

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